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浅利演出事務所『夢から醒めた夢』 MVPは究斗部長?

2017年、2021年に続く「浅利演出事務所」による『夢から醒めた夢』。前回も前々回もチケットを確保しながら足を運べなかったので、ようやく観ることができた。

多くの人がそうだと思うが「一番好きなミュージカルは何か」という質問は「好きな食べ物は何か」同様答えにくい。そういうとき、自分は『夢から醒めた夢』と答えることにしている。そのぐらい好きな作品で、回数もかなり観ている。この作品を観た回数は日本じゃあ二番目だ、と怪傑ズバット口調で言いたいぐらいだ(日本一は浅利慶太)。

浅利演出事務所公演では、初演時の衣装や演出が復活したと聞いていた。華やかなロビーパフォーマンスなどがなくなったのは寂しい気もするが、古参の夢醒めファンを自任するものとしては「初期バージョンが観られる!」と軽い興奮を隠しきれなかったのも確かだ。

夜の自由劇場。いいフンイキである。

そしてキャストボード。事前に発表されていたが、なんと心躍るキャスティングだろう。たぶん一番数多く観た下村配達人に加え、加藤敬二のヤクザに三遊亭究斗の部長。もうチケットを買わない理由がない。

そんな久しぶりの『夢から醒めた夢』、実に楽しい舞台だった。

初演版の衣装は懐かしかったし、ピコに関してはこちらのほうが好きなので自分としてはしっくりきた。音楽も「ここは霊界空港」が昔のものに戻っていたのが嬉しい。新バージョンが嫌いなわけではないが、観る者をわくわくさせるこの曲が実は大好きだったのである。

演出面では、遊園地のシーンが様々な小道具や舞台装置を使ったものから、出演者の肉体で遊園地らしさを表現するものになっていた。これはこれで面白いのではないか。ひょっとしてリニューアル時にカットされたお化け屋敷のシーンが復活するか?とも期待したが、それはなかった。まあこの「肉体で表現」の演出には合わないわな。

浅利演出事務所の公演だからか、全体的に出演者がセリフをより丁寧に話していたように思えた。四季の母音法がフルパワーで炸裂しており、アレが苦手という人にはキツいかもしれないが、年季の入った四季オタクにはご褒美でしかない。

その中でも特にそれを強く感じさせたのが下村青。自身この役は11年ぶりというが、セリフの一言一言すべてに艶があり、観客の心にずしんと届く。これぞ下村配達人の真骨頂だ。二幕の「マコ、もう時間だよ」という言葉。この残酷なセリフを、あふれる優しさに包み込んで発しているのが毎回ぐっとくる。

加藤敬二のヤクザは、最初聞いたときはどんな怖いアウトローになるのかとドキドキしたが、シュッとした顔と、ミストフェリーズもこなした柔らかな身のこなしで、なかなか色気のある侠客になっていた。

そして意外にも(?)、今回の出演者で最も印象に残ったのは部長役の三遊亭究斗だった。10年ほど四季に在籍した後、落語界に転身。三遊亭亜郎を名乗っていた時代には『レ・ミゼラブル』にテナルディエ役も演じた。その後真打に昇進し、「ミュージカル落語」という新たなエンターテイメントにチャレンジしている。

舞台上の彼を観るのはその『レ・ミゼラブル』以来だ。実に20年ぶりである。「ここは霊界空港」でさっそうと登場した部長・暴走族・ヤクザの煉獄トリオ。部長役はわりとシュッとした感じの人が多かったので、三遊亭究斗の丸っこいフォルムがいきなり目を引く。平日の夜だったため客席にはスーツ姿のリアル部長っぽい人も多く、そのうちの一人が調子に乗って舞台に上がっちゃった感じだ。自分はスーツじゃなかったです。部長でもないけど。丸っこいのは近いかな。

高座で鍛えたよく通る声もいいが、細かい演技がまたいい。もともと煉獄トリオは他の出演者にスポットが当たっているときに繰り出す小芝居が持ち味なのだが、その小芝居が実に魅力的だ。特に、各地で命を落とした子供たちが美しい衣装に身を包んで現れたとき、口をあんぐり開けて見とれている表情が最高だった。

そしてピコマコ。3回目のピコ役となる四宮吏桜だが自分的には初見。だが、たぶん彼女をステージで観るのは初めてではない。ご存じのように彼女は九州のローカルアイドル、Rev.from DVLの出身。かの橋本環奈を輩出したグループだ。九州アイドル好きな自分はどんたく祭りやショッピングモールのイベントで3、4回Rev.from DVLを観ているのである。

それはともかく、四宮ピコは全身からキラッキラに輝くオーラを振りまいていて、舞台上にいるだけでもう目が離せない。こんなピコなら霊界空港でたちまち人気者になりそうである。こういう明るいオーラをすっと出せるのは、やはりアイドル活動の経験が生きているのではないか。アイドル文化は日本のエンターテイメント界において確実に存在意義がある。

マコ役の中村ひより、こちらはガチ初見。『ひめゆり』『ユタと不思議な仲間たち』などにも出演しているので観ていてもおかしくはないのだが、機会を逸していた。藝大声楽科出身だけあり力強く美しいソプラノが魅力のマコ。マコって主役級なんだけど実は2シーンにしか登場しないので、少ない場面で強烈に印象を残さなくてはならない。彼女は歌声を武器にこの難役をこなしている。あとかわいい。

アイドル出身と声楽出身のピコマコ・・・あれ、既視感があるぞ。2005年3月の四季の公演で登場した、吉沢梨絵と紗乃めぐみのフレッシュなピコマコだ。樋口麻美ピコ・木村花代ピコ・木村花代マコも登場したこの公演はめっちゃ通った記憶がある。なにもかも、みな懐かしい。

http://kingdom.cocolog-nifty.com/dokimemo/2005/03/br_5fd7.html

500席ほどしかない自由劇場、そして公演期間も短く、あっという間に売り切れてしまった今回の『夢から醒めた夢』。このバージョンもまた観たいが、一方で四季による華やかなバージョンもまた観たいものだ。『ジーザス・クライスト=スーパースター』のように両方のバージョンが観られるようになるといいなア。

浅利演出事務所『夢から醒めた夢』のウェブサイト
https://asarioffice.jp/yumesame2023/


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