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明滅

その晩、僕は猫を追いかけていたらしい。

写真を見たときに、直感でそう思った。どこからどう見ても綺麗な女性がそこには写っているのだけれど。

彼女は木枯らし吹く渋谷の街で明滅する。追いかけて、見つけて、でも触れられはしない猫。そう、僕は猫を追いかけていたらしい。

撮影は勿論、待ち合わせをした。関西から彼女が東京に出てくると言うので、ふたつ返事で是非ご一緒しましょうと。以前にお会いした時も、彼女との会話はとても楽しかった記憶がある。

今回もふらふらと街を彷徨い、他愛のない話しや、むさ苦しいほどに自分達の展望について熱く語った記憶がある。今思い返してもとても良い夜だった。

にも関わらず、撮影時の記憶が薄い。残っている写真すら何故か曖昧で、彼女から何かを食らっていた、いや、彼女に喰らわれていたのかもしれない。写真家としては何とも情けない様な気もするが、それは何よりも彼女が魅力的である証拠。

僕が写真家としての活動を始めたのはごく最近で、ニュアンスとしてはカメラマンの方が近い。依頼を受け、現場へ向かい、撮影をする。振袖や絵画、内装から風景まで、依頼があればどこへでも行く。これを約10年。

ですから、写真家としての立ち位置は曖昧で、何かを撮ろうとするとまだまだ哲学が足りない。ポートレートや風景に立ち向かう哲学。そのヒントがこの写真群の中からも見えてくる様な、見えてこない様な。

それこそタイトルにもしている明滅。

写真を撮っていると、ときたま今回の様な瞬間が訪れる。

確実に自分が撮っていたはずなのだけれど、自分が見ていたものとは違うナニカが現れる。今回が猫だった様に、時にはアメリカ、時には未来すら見える事がある。

理由はわからないけれど、今回の写真が2ヶ月以上も前に撮影した写真だったから、かもしれないし、実は本当に彼女が猫だったのかもしれない。犬好きだったらごめんね。僕は犬好き。

今でもまだまだ面白い事が、写真では沢山起こる。ここ最近ではトモコスガさんが発信し始めた「ジャメヴ」もそう。

ふとした瞬間、見慣れた風景や事物がまったく未知のものに見えたり感じられることをジャメヴと言います。

オンラインエキシビション ジャメヴな瞬間 - トモコスガ より引用

デジャヴの反対の様な概念。

僕も参加させていただいたが、脳がダウンしそうになるほど写真を沢山見返した。あの時の感覚は今でも強烈に覚えている。見方を変える、概念を知るだけで、写真はこんなにも楽しくなるのかと熱狂した。

今回の明滅は、ジャメヴの様な、デジャヴの様な側面もあると思う。1枚の写真での表現は勿論できないけれど、感覚として伝わったら嬉しい。

まだまだ写真を撮ることは辞めたくないし、逆にやっと始まったとすら思える。長い付き合いになるね。いつか自分が写真家として、納得する写真が撮れる日がくる事を期待して。

モデル:mitsu. ( https://twitter.com/mitsu_paint )
撮影:Keng Chi Yang ( https://twitter.com/keng_chi_yang )

撮影機材
ボディ:LUMIX S5Ⅱ
レンズ:LUMIX 50mm F1.8
フィルター:NiSi Black Mist 1/8
リアルタイムLUT使用


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