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勝ちやすいサッカーと魅力的なサッカーは違う!!

 今回は、「勝ちやすいサッカーと魅力的なサッカーは違う」というテーマでお話させていただきます。
 実は、スペインのバルセロナではとても有名な話です。バルササッカーに詳しい人なら「あれね」となる話です。
 この話をする前置きとして聞いてほしいことがあります。2022年カタールワールドカップの話です。2022年カタールワールドカップ、日本はグループリーグでドイツとスペインを破り、決勝トーナメント出場という快挙を成し遂げました。僕自身、日本人として日本を応援しています。素晴らしい戦いを見せてくれたと思っています。
 他にも、日本と同じように強豪国を破っているチームがありました。例えば、アルゼンチンに勝ったサウジアラビアや、決勝トーナメントでスペインを破ったモロッコなどです。「ジャイアントキリング」を起こしたチームがありました。サウジアラビアもモロッコも、たまたま勝てたのではありません。アルゼンチンやスペインの調子が悪かったわけでもありません。本当に強かったです。モロッコの選手はテクニックがあり、サウジアラビアの組織的な守備は素晴らしかったと言われています。
 では、カタールワールドカップで見た、モロッコやサウジアラビアや日本という国は、ドイツやスペインやアルゼンチンを上回り、サッカー強豪国の仲間入りを果たしたと言えるでしょうか。この記事を読んでくださっている皆さんの多くは、どれだけ日本を純粋に応援していても「そんなことはない」ということがわかっているはずです。やはり、ドイツやスペインやアルゼンチンとは、大きな差を感じていると思います。
 「その違いって何なの?」「その差って何なの?」という話をしたいと思います。

 よく、日本では育成年代で「しっかりボールを回してゴールまで向かおう!」という言葉を聞きます。「ボールを大切にして、ちゃんとパスを回せばゴールは決まる」という考えです。ですが、これには落とし穴があります。
 実は「ボールを回せば回すほど、パスを回せば回すほど、ゴールは奪いにくくなる」のがサッカーというスポーツなのです。パスを回してボールを保持し続けるということは、相手に守備陣形を整える「時間」を与えるのと同じです。パスを回して時間を使えば使うほど、相手は守りを固めることができるのです。あの黄金期の「ペップバルサ」が凄かったと言われているのは、あれだけボールを保持し続けながら勝ち続けたからです。
 バルサの組織的なパスワークは、一定のリズムでシステマティックにパスが回されます。プレー原則があり、ロジカルな戦術がありました。そして、このシステマティックな状況を変えるのがメッシでした。メッシは、リズムを変えて「カオス」を作り出すことができます。これによって、相手の守備はシステマティックな状kょウニ対応しようと守備陣形を整えても、メッシのイレギュラーなプレーによって守備陣形が崩壊してしまうのです。
 
 同じように、スペインにはセスクがいました。一見するとメッシとセスクは全くプレースタイルの違う選手です。ですが、スペインでは知られていた事実です。役割は、メッシと同じく「カオスを作ること」でした。スペインのシステマティックなパスワークの中で、セスクはプレー原則を破り、ロングパスや縦パス、ターンを駆使して、システマティックなパスワークのリズムを変えることができるのです。これによって、相手の守備陣形は崩れるのです。

 メッシがドリブルで守備陣形を崩すのに対し、セスクはパスで守備陣形を崩すことができるプレーヤーと言われていました。バルセロナ4年目のグアルディオラ監督は、そのメッシとセスクを使うために、フォーメーションを3-4-3にし、2人の「カオス」をシステマティックなチームに組み込もうとしたのです。リスクのあることでした。「原則的な動き」や「原則的なボール回し」が崩れることが多くなるので、守備が脆くなりました。パスワークのリズムが上がらないときもありました。それでも、グアルディオラはチャレンジしたのです。
 
 ここまで話せばわかってもらえたと思います。ボールを保持し続けて、プレー原則の中でプレーする「ポゼッションフットボール」は、本来は最もゴールから遠いサッカーだったということです。できるだけ相手にボールを持たせて、ボールを奪ったら時間をかけずに一気にゴールまで迫る方が、ゴールを奪いやすいのです。相手は守備の準備ができません。相手からの守備を受けずに、簡単にプレーすることが可能だからです。
 
 カタールワールドカップで、サウジアラビアやモロッコ、そして日本が強豪国に勝てたのは、この「勝つためのサッカー」ができていたからです。ブラジルも、「勝つためのサッカー」が上手いチームと言われています。ブラジルは攻撃だけではなく、守備も強固です。攻撃は個人の能力が高いです。ですので、「勝つためのサッカー」をしたときに強いのです。スペースがあって、守備陣形が整っていない状態では、ほぼほぼ1対1の勝負が多くなります。攻撃でも守備でも、この1対1に勝つことができるブラジルは、とても強いのです。
 
 「勝つためのサッカー」が強のであれば、なぜすべてのチームが「勝つためのサッカー」をやらないのか、と疑問が残るでしょう。
 
 理由は簡単です。スペインは「勝ちやすいサッカー」より、自分たちにとって「魅力的なサッカー」をしようとしているからです。相手がガチガチに守備陣形を整えたとしても、それを上回るパスワーク、組織力で勝とうとしているのです。アルゼンチンは、ガチガチの守備陣形を、たった1人で崩すヒーローみたいな選手で勝とうとしているのです。(マラドーナやメッシがそうでした。2023年現在は、少しプレー哲学が変わってきているようですが…)
 
 余談ですが、有名な話で「リバプールにはスローインコーチがいる」のをご存知でしょうか。「スローインをセットして行えば、得点率も勝率も高くなる」というデータが取れたそうです。ですが、スローインをセットするのにかかる時間のことを考えたときに、リバプールらしいサッカーをする時間が短くなるので、やらないことに決まったのです。リバプールの魅力的なサッカーが失われるので、得点率や勝率を捨て「リバプールのサッカーをしよう」と決まったのは有名な話です。
 
 話をまとめます。「魅力的なサッカー」と「勝ちやすいサッカー」、どちらが良いということはありません。これからプレーヤーとして、指導者として、サッカーに携わっていくときに、大きなテーマとなるでしょう。意見が食い違うことがあるかもしれません。そのようなときは、「魅力的なサッカー」と「勝つためのサッカー」があるということを思い出し、そこから話し合えば、目的にあった方法が見つかるでしょう。勝つためなら何でもいいというサッカーか、自分たちの理想のサッカーで相手を翻弄したいのか、それはプレーする選手たちにとても、監督(オーナー)にとっても悩むところです。
 
今回は、「勝ちやすいサッカーと魅力的なサッカーは違う」というテーマでお話させていただきました。
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※「いつでも」「どこでも」聞ける『音声配信』です。
「サッカーが上手くなりたい人」におすすめの情報を発信しています。スペインバルセロナにあるアカデミーやアルゼンチンのクラブでプレーして学んだことを、海外サッカー経験者から直接お届け致します。
音声配信:『VORAZ FUTBOL CLUB』 Anchor/Spotify
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