見出し画像

33

白い羽根大聖堂は現在、地上十一階、地下三階建ての渋谷駅に隣接されて建設された大型宗教施設であり、主に宗教法人『S.A.I.』が管理して、『ホーリーブラッド』の出資によって現在も拡張工事中の新しいランドマークタワーだ。

二〇〇九年六月三十日に着工が開始されたが、度重なる事故や『S.A.I.』の内部抗争による資金繰りの遅れなどにより正式な竣工は当初予定された二〇一二年ではなく、二〇一九年四月に先延ばしされながらも『S.A.I.』と『ホーリーブラッド』による国内を震撼させた史上初宗教法人同士の協定という異例中の異例でありながらも実現された。

『ホーリーブラッド』が政権第二与党である『聖愛党』の支持基盤であることから大規模な政治献金などの裏金が動いたのではないかと当時一部のマスコミが報じていたが、すぐに敷かれた報道規制によって真相そのものは依然として闇の中であり、現在の国内情勢を司る象徴的な建物であることも見逃してはならない。

問題となっていたのは主に魔術回路持ちを信者層とする『S.A.I.』と政界、財界、芸能界など多岐に渡って信者を獲得している『ホーリーブラッド』の根本的な軋轢であり、幹部層が比較的円満に手を結び白い羽根大聖堂の建立に前向きな立場であったのに対して、一般信者層の中に主に両者の教義上の信念を巡って対立関係のようなものが出来上がってしまったという事実である。

完成までに時間がかかった理由の一つに『S.A.I.』の教祖であり、エーテル保有者の英雄と持て囃される『サイトウマコト』の偶像化を巡って教祖代理及び代理候補の争いが深刻な状態へと入り組んでしまった背景があると目されている。

創設者であり神格化された偶像『天現寺栄作』の肖像を礼拝施設などに設置している『ホーリーブラッド』と違い、『S.A.I.』では一切の教祖の偶像化が禁止されており、決定的な差異が生じている双方の宗教観について一般信者の混乱がどちらの側にも勃発して白い羽根建立に関わる黒い噂は絶えることがなかった。

しかし、協定反対派筆頭であった当時の聖愛党特別布教監査官『血に塗れた観音菩薩』三ツ谷凍子の懐柔によって大きく隔たりのあった両者が大きく前進をした二〇一七年五月の『フラックスコンパクト』が提唱されるやいなや『S.A.I.』の一般信者層は『ホーリーブラッド』の偶像崇拝に対して進歩的歩み寄りを見せて白い羽根大聖堂建立計画は軌道に乗り始めたと言われている。

とはいえ、一説によれば、『フラックスコンパクト』の影響下で主流派ではない『S.A.I.』幹部の一部が離脱して当時千駄ヶ谷にあった大本堂の地下に埋葬されていた『サイトウマコト』の遺体が強奪されたのではないかと関係者が騒然となっていたという未確認の情報もあり、当該事件の真相は暗闇に包まれたまま二〇一九年四月竣工及び大礼拝堂カテナリー曲線化計画が締結された今も明らかにされていない。

「しかし、あれですね。沙樹さん。なぜこうも人の生命というのは軽いんでしょうね。人生というのは豊かであったり、疎かにされていたり、それでいて深みがあるようでいて他愛がない。私たちはまさに『フラックスコンパクト』です。ね、ハリソン」

巨大な頬白鮫がなんなく時空境界線を飛び越えて、尾鰭と背鰭を使って泳いでいて、サメ型のリュックを背負っていた女と神原沙樹は自分たちが既にトリックスターとしての可能性を最大限に活用し、集合的無意識をフロイト的解釈によって実行するか、ユング的理解によって拡張していくかを話し合っているけれど、当然ながらまだ十歳の女の子でしかない神原沙樹にとってはひどく難解な精神医学上の問題に対して適切な返答をすることが出来ずにとても子供らしく快活で無邪気に答えてしまう。

「お父様もお母様も私には厳しくしなかったので、のびのびと我が侭を言いながら育ちました。だから酸いも甘いも未だしりえていませんが、中学二年生になるのが今から楽しみです」

「ほう。その心得はとても素晴らしいですね。世間の荒波は厳しく繊細な私たちなどは何度も傷つけられるに違いありません。あなたがもし厨二病だと罵られた時は、どんな時でも等しく前を向き、進学を考えて高校二年生になることを夢見た後ついには叶えて得るべき評価を手に入れて、それでもあなたの野望を打ち砕く輩が現れたのならば、どんな学問でもかまいませんので大学二年生になることを考えてください。たとえ、左手が黒き炎によって灼かれて疼いたのだとしても結果は自ずと知り得ることができるはずです」

「沙樹にはまだ難しいことはわかりませんが、今この情熱がヒダリメを焼き尽くそうとしているようにも感じてしまいます。そのままでいろということでしょうか」

「いえいえ、ただの私の意地悪です。大人の階段のことを考えると、沙樹さんのようながきんちょが上り始めている様子をみてつい突き落としてみたくなるのですよ」

星柄のもんぺと万能時空時計『クロノス』がハイセンスな若者にもウケる最先端ファッションであるかのように誤認させようと目論んでいるサメ型のリュックを背負っていた女は素直にまるでお腹のネジくれた発言をしてまだ年端もいかない神原沙樹に世間の風当たりの強さをフェザータッチで教えようとする。

彼女たちが突き進んでいるのはJR新宿駅十五番線ホームの上空50メートル付近に存在していた時空断裂領域『キャメロット』であり、現在座標の緯度経度に対して『フラックスコンパクト』が干渉することで引き起こされる10-36ナノメートルの空間破裂現象によって切り開かれた前人未到の精神世界であり、もはや非存在透明化現象ですら彼女たちには意味を為さない。

だからおよそ直線距離において一キロメートルほど先に見えていた眩いばかりの白い光が視覚を刺激し始めたことに神原沙樹は思わず興奮してもしかしたらそこが夢にまでみた大人への入り口ではないかと錯覚してしまう。

「みてください! あれが! 白い羽根大聖堂です! お父様が信者の為に汗水を垂らし、お母様が地下に幽閉されている沙樹の心の故郷なのです!」

忘れてはならないのが白い羽根大聖堂は現在、地上十一階、地下三階建てでありながら現在もいまだに拡張工事を続けていると言うことにあり、決してその全貌は明らかにされていない。

耳の早い信者たちによれば、後百年はその翼を大きく拡げて渋谷の街はおろか心に翳りを落としたままの人々に永久に近い光を与え続けるに違いないと噂されているが、その真相はさてより、ひとまずのところ竣工式となり、『S.A.I.』と『ホーリーブラッド』の架け橋となった地上四階に建造された大礼拝堂中央に鎮座している新しき神の彫像『カラ=ビ⇨ヤウ』はその圧倒的な存在感もさておきながら信心深い信徒たちだけではなく渋谷の街を訪れる若者たちにですら敬意と威厳を与え尽くすその姿は正に偶像の名に相応しく永遠もしくは愛そのものが可視化された姿だと人々は誓い合い祈り合いそして罵り合う。

『カラ=ビ⇨ヤウ』は力の源であり、『S.A.I.』が長年にわたって研究し続けてきたエーテル回路の神秘性を保証するに足る一種の無限装置である。

偶像から供給される真エーテル回路、通称『オピオニズム』が生じさせる聖神回路は高位の僧侶のみが侵入可能な領域であり、合理性と機能性の極点において徹底したアルゴリズム化の真髄によって至る事のできる悟りの境地はかつて一切合切は空であると断言した賢者の思考にもっとも近い場所で覚醒をもたらす死の具現化と呼べる。

「いけませんね。私はつい難しいことを考えて、簡単な理屈を忘れてしまう。ハリソン。一緒にいてくれてありがとう。私はあなたのことを永遠に離すことはないはずですよ。沙樹さんのことがどうでもよくなりそうです」

「あれを天使と呼ぶのですか。白く雄大でありそれでいてなにか悲しいことを頭の中に思い浮かべてしまいそうです。みながマコトと呼ぶものにとても近い気がします」

「へ。あれは悪など呼ばれるちんけな願望を満たす聖杯程度のものです。あんなものに価値はないのですよ。沙樹さん。お父様を殺すことが出来ますか?」

ハリソンは白い光の周りをぐるぐると廻りながら神原沙樹の答えを待っている。

神原沙樹はあまりに突拍子のないサメ型のリュックを背負っていた女の発言に戸惑いながらももしかしたら焦がれ続けていた希望を掴めるかもしれないとつい嫌味な大人びた笑いを覚えてしまい、涎を垂らして『オピオニズム』の匂いによって穢されてしまう。

「あぁぁ。苦しい! ソラリス様。屹立し続ける私の陰部をお許しください。硬度のみが私の生きる道であるのならば今完全に私はその恩恵を受けて罪によって魂そのものを犯しています! 女が恋しいのです」

唸るような鞭の音が空気を切り裂いて、肉を切り裂いて、骨を露出させて観念の愛によって欲望を成就さえている大信徒の一人であり、東元一剛の血液が三百三十三間堂に配置された八面六臂の観音菩薩の顔を濡らして逃げ場だけを奪って色欲による絶対の興奮によってのみ射精を達成させる。

『ホーリーブラッド』によって寄贈された三百三十三体の観音菩薩が周囲を取り囲み、四つん這いになっている東元一剛たちに牛革製の鞭が振り下ろされるたびに天然木製の板が軋み泣き喚き罪が爛れて血液が弾け飛びソラリスが愛液によって満たされていく。

「いい? お前が苦しむのは情念を入れられることが救いになるのか悪意を注ぎこむことが憂いとなるのかを理解していないからだ。お前に解放の道は許されていない。永遠に湧き出る情欲によってのみ自由を謳歌出来る術を切り開くことが出来るんだ。覚えておいで。ぼくは男でも女でもなく振動する紐なのだということをね」

豊胸手術によって膨らんでいる女性原理の象徴を見せつけるようにゴム製のボンテージスーツを身につけたソラリスがついには東元一剛に馬乗りになって征服と支配を混同させたまま奴隷と賢者の違いについて雄弁に汗と熱によって痛みを増幅させ続ける。

「教えてくださいとは願いませぬ。ただどうかこの痛みで汗と血液を奪いとって頂けませんか。洗い流されたばかりの陰茎が既に対価を求めて争うのです。お救い下さい。私は既に女と成り果てている」

「奪われたものがファルスであるのならば、お前は射精の瞬間に恋焦がれるかもしれないが、今宵は私がその相手をしてやろう。お前が亡くしたものはペニスではなく権威であったというだけの話だ。欲望の受け皿となるのであれば必要がないものだね」

さて、なぜ黒猫はサメ型のリュックを背負っていた女と行動を供にせず、彼女と神原沙樹を『オピオニズム』から迂回させてまで白い羽根大聖堂を警戒していたのだろうか。

その答えの一つに聖神回路と呼ばれる流転した魂の行き場に時間という概念が抜け落ちているという点にある。

我々は視覚的認識を持って時間という現象の経過を体験して知覚して、一分前と現在と一分後を理解することが出来るけれど、『オピオニズム』内部では例え時計という物質が存在していたとしても長針と短針の希釈的立方精度にかなりの誤差が生じているだけではなく定義化された図像も安定しないためにほとんどの場合、正確性という意味において時間現象の存在は意味を為さない。

だからこそ、過去と現在を区別しない流体的思考を獲得しているサメ型のリュックを背負っていた女のモジュラーシンキングが必要となってきてしまうけれど、自由自在に形象を入れ替えられるからといって時間概念の曖昧な空間においては同一性の問題ですら難解で通常の人間であれば、現状認識すら困難な状態に陥ってしまう可能性すら存在している。

「やはりですか。あなたはシグマ神父の生まれ変わりを探しているのですね。けれど、あなたがそれに取って変わることが出来ないことも知っている。なぜならば、子宮が恋をしているという事実から逃れられない生き物ですからね。とはいえ」

ハリソンはかつて別の生き物だったことがあり、輪廻転生を繰り返して、現在はサメ型のリュックと頬白鮫の姿を自由自在に変形させながら生物でもなく無生物でもなく無機物でもなく有機物でもなくただ一つのハリソンという名称と概念を持ってサメ型のリュックを背負っていた女の胸元に抱かれて、背骨にそうように心を休めながら新しいパンの味を求めてきたのだ。

芥子の花の匂いが充満している。

かつて愛を誓い合った二人のスレ違いがいつのまにか感情を揺れ動かして、真理しんりの到来を待ち侘びる死者たちに安寧を与えようと有限性を祝福するようにしてサメ型のリュックを背負っていた女の鼻腔を刺激する。

「いえ、まるで眠っている間に天体たちが夢を見ながら踊っているような気分になってしまうだけです。何かを成し遂げた気になり、想像力の翼によって価値基準を俯瞰して私こそが『スイーツパラダイス』の使者であると信じてしまいそうになってしまうのです」

「よいですか。忘れてはいけません。美とは客体化された自己享受である限り、精霊の祝福を受けていないものを信仰の対象とすることは人間には出来ないのです。敢えていうのであれば、オナニーによって延命措置を測っている自己を辱めるだけなのです」

口汚く本質的な部分だけを語っている文学的価値観の相対的低下を嘆くようにして、十歳の子供に吐き捨てるにはひどく単純明快な非論理的性的矛盾による教えを説こうとするサメ型のリュックを背負っていた女は神原沙樹との距離感に出来るだけ関係性が破綻しないだけの基準を設けた後で、合図を出して巨大な頬白鮫の背中の上で、空気抵抗が限りなくゼロに近づく状態へと移行して徐々に革命的なスピードへと変化して行くハリソンの速度限界を堪能する。

神原沙樹は考える。

とうとう使命を果たす時がきたのだと。

どうして昨日の夜、父の元から離反して黒猫から帰省本能の証をリブートさせる役目を授かったのかを。

『オピオニズム』の中心点に聳える白い羽根大聖堂の変性意識現界構造物の周りを真っ白に光り輝く渡鳥が十一羽羽羽ばたき始めて、世界を覚醒状態へと移行させる。

神原沙樹がハリソンの背中の上に立って『スイーツパラダイス』が発動させて無意識化へ植え付けられた自己否定的先入観を増幅させて、星屑が散りばめられる正拳突きを右手左手で交互に撃ち放ちながら空間を切り裂いてプランクスケール長さによって定義される腐食効果を追い払ってしまう。

記号と配列によって視覚を奪い取ろうとする黒き化身が愚かさを侮辱して人間性を追い求めるものを忘却の彼方へ沈めてしまおうとする。

機械と感覚を丁寧に縫合して快楽によって縛り付けられた羅針盤が運命を呪いながらも最高速度で目的地へと到達するための道筋だけを選び取り空と海と大地を駆け抜ける。

無心によって純粋理性を思考の極限地点まで昇華した堕落によって修羅を押さえつけている僧侶が鬼の住処を見つけられないまま嘆き悲しんで姿勢によってのみ自我を獲得する。

記憶が散りばめられた無意識の連結地点で貨幣がもたらす信頼と真実の境界線を歩く商人がそれでも得ることの出来なかった証を銀色のアタッシュケースに詰め込んで両脚に奴隷であるように銘じる。

影と暗闇の区別が曖昧なままで忠実な下僕だけ交わした地の盟約によって任務を遂行する表情を薄布で覆った賢者が研ぎ澄まされた刃を懐に構えたままで姿を隠して義心を疑い続けようとする。

俗世を切り離し狂気のみが正解でありつづけるしかなく狭窄を維持した兵士が慇懃無礼を踏み躙りまるで不死の化身であるかのように殺意をすり抜けながら知識を銃弾に変えて自制心を敬い続ける。

神の振った賽の目が意志として存続を許された獣が倫理と道徳を唾棄した遊戯者が自尊心を強制されたまま張り詰めた神経を決して緩めることなく永遠を誓わされた女神と接吻をし続ける。

人の形を忘れぬように想像の外側にあり続ける幾何学系を己のレゾンデートルと掲げて奏でられる自由の象徴が集合的無意識によって接続して抽象的形象の具現化を使命としながら誘惑をする。

定められた運命が既にレールとして道標をなし完全な歯車によって社会を構成することが義務付けられていると確信した指導者が現実だけを確定的な情報体とへ定義づける。

因子と電子に関係性を見出して生命の根源を抑止力によって模索し続けることで不可視領域にだけ有効性を担保する分身を拾い集める勇者が消滅を恐れることなく普遍的固有性を保持し続ける。

「そう。私はたった一人です。ヒダリメは私にしか許されていないマコトの化身です。ありがとうございます」

ハリソンは白い羽根大聖堂のちょうど中心点の真上で身震いをすると、神原沙樹を振り落として真っ逆さまに落下させてしまうと、その後を追うようにサメ型のリュックを背負っていた女を乗せたまま神原沙樹を喰らい尽くしてしまおうと大きく口を開く。

「汚らしい自分をおいそれと許してしまいそうになってしまう。信仰を前にして、いや、『カラ=ビ⇨ヤウ』の完成系を信じているのであれば埃一つない世界だけが私の居場所となるだろう」

甲高い『ソラリス』の喘ぎ声が真っ白な木製の扉から聞こえてくるけれど、『マギャク』は歯を食いしばり血を口元から滴らせながら箒を握り、真っ白な大理石の床を履き、取り集めた見えないほどの小さな塵をちりとりに集めてしまうと、一気に口の中に放り込んで飲み込み誠実さを性欲の目の前に差し出して苦笑いを浮かべる。

それでも、『ソラリス』は恥辱と汚辱にまみれて陰部の摩擦によって快楽の絶頂に上り詰め続けることをやめようとはせず、『マギャク』は決して興奮状態を身体の中に残すことがないように食道を通り抜ける塵の味と行方を全神経に張り巡らせながら堪能してたった一言、私こそが神に許されたたった一人の殉教者であると誰にも聞こえない声を発してマコトの御印が記された『色欲』の扉に説法をする。

「愛がなければお前は何も選ぼうとしないつもりでいるんだ。私はさ、玄一に全てを要求されて代わりに右手首を差し出してそれ以来一度も会えていないんだ。永遠に失われたっていいって今もそう思っているけれど、お前はそうじゃないんだな、阿久津勇哉」

「これは、これは、片山真理しんり様。シグマ神父は奥の大天礼拝堂でマコトを広めてらっしゃいます。信者数が鰻のぼりで何もかも『マイナスファクター』の方々が第二信徒となってくださったおかげだとみなが口を揃えて噂をしていますよ。器はたった一人で十分ですから」

「那森家は依然として口を閉じたままだ。槌木家は私たちを嘲笑っている。家柄が重要なんだと罵られたところで、天宮家ならばそれに足ると『クズガミ』が強行したって話だろ」

「いけません。穢れの話をこちらでされては『ソラリス』様の気が散ります。それとも、肉と欲が騒ぐのですか?」

「お前達が罪の話を忘れる気でいるのであれば私たちは一切協力をしないつもりでいる。それに気になることが一つ。柳松蔭が既に浄化されている可能性がある。わかっているのかな」

「私の一存では何もかも計りかねることですが、大罪司教は何もマコトだけに殉ずるわけではありません。強奪された咎人の船が現代に戻っていることはご存知ですか?」

真っ赤なワンピースとハイヒールを消え右手首のない片山真理しんりがまるで求めていた答えが空から降ってくるのをあらかじめ予見していたかのように煌びやかなシャンデリアによって装飾された天井を見上げて罪を抱えし信徒たちの長である『嫉妬』の大罪司教『マギャク』には何一つ知り得ていることがないのだということを幻肢痛によって呼び起こされる指先の感覚を想像によって補いながら右手をあげて宙を掴もうとする。

「神原真陰流奥義! 四天崩壊! 天現時空烈破おかゆスプラッシュ!」

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?