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BFF ベタ・フラッシュ・フォワード[11]板坂留五 建築家【風景の 読み方から】

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*『建築ジャーナル』2019年11月号の転載です。 
  誌面デザイン 鈴木一誌デザイン/下田麻亜也 

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建築家・板坂留五の初めての建築物が竣工した。『半麦ハット』(2019)と名付けられた両親の家であり、母の店である。
 予め断っておくと、この建築物を本稿で語り尽くすことは字数の関係から、またその在り方から今は不可能に思える。ルイス・ボルヘスの短編『学問の厳密さについて』(1975)では、領土の正確な地図をつくろうとして、国土と同じ大きさの地図をつくってしまい、ついには変わり続ける現実世界に描写の追いつかなくなった地図が、砂漠に打ち捨てられるさまが描かれる。建築物とはかくも雄弁で、読むことに溢れた物質の集合なのだと、ほかのメディウムに転じることの難しさを強く感じる。これは『半麦ハット』に限らず、すべからく建築物の持つ複雑さであるが、私たちはそれを思考するために、無意識にその複雑さを手中に納められるよう調整している。たとえば図式による理解は細かく存在する部位を、強い図式へ従属する存在へと変えてしまう。
 一方、エレメントの集合として建築を考えることは、実感しえない全体性を離れて、より理解しやすい単位にほぐす作用があるように思える。かつてのデコンの志向とは異なり、エレメンタルなあり方は親密さ―情報へのアクセシビリティへとつながっている。しかし、建築物は室内環境を提供する必要があり、部材と部材が文字通りほぐれてしまっていては成り立たない。エレメンタルな議論は、そのばらばらさへの志向の反面、いかにして統合するか、の実際的な議論でもある。そして配列を論理化しようとすると、再び全体性が生まれてしまう。

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