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BFF ベタ・フラッシュ・フォワード[8]鈴木哲生 グラフィック・デザイナ【366文字目の質感】

*『建築ジャーナル』2019年8月号の転載です。 
 誌面デザイン 鈴木一誌デザイン/下田麻亜也 

誰にもわかるような簡単な問いでも
素直に答えたくない
難しい問題からとっかかる程
余裕ないのに
作詞 つんく♂
田中れいな 《Rockの定義》より

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グラフィック・デザイナの鈴木哲生はレタリングを専門とする。レタリングとは一単語、一見出し、一タイトルのデザインを、タイポグラフィとは一連の文章、つまり連なりとしての文字を取り扱うデザインを指す。枠の中で一文字ずつが運動をもつ和文書体と、連なって初めて運動性を感じさせる欧文書体はその成り立ちから大きく異なる。彼の和文欧文問わないデザインは、独特のスタディから形づくられる。

「Groq」 
2015.07/ Groq

“オランダではタイプデザインを勉強した。”
“タイプデザインはタイポグラフィと勘違いされるけどタイポグラフィはフォントを使って文字組みする技芸、タイプデザインはフォント自体をデザインすること。”
“欧文書体はテクストで組まれた状態の、版面から感じられる「テクスチャー」を考えながらローカルな部分のデザインをする。”
“(自分の修了制作は)同じグリフでディティールが統一されていないこと・予想外の形が現れること・基本的なラテンアルファベットのつくりに一致しないこと、というような自分が持ち込んだ野心と、タイプデザインそのものの目的である均質性・可読性・規則性を、足して壁に激突させたようなフォントになった”

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 幾度か目にしたのは、細かなストロークで文字の輪郭をつくる方法だ。その輪郭に加えて、文字の内側もまた細かなストロークにより埋め尽くされていく。黒々と文字らしき姿になった後は、修正ペンにより、またしても細かなストロークでその輪郭が整えられていく。書き順として見えてくる毛筆のストロークでもなく、かといって文章になって初めて見えてくるリズムでもなく、彼の描く文字には独特のうごめきがある。納品されるグラフィックは、パソコン上で整えられていく。しかし電子データの向こうに私たちが感じるテクスチャ(質感)は、本来的な文字の成り立ちとは異なる、彼独自のつくり方が影響しているのだろう。

「MONSTER」
2015.08 / 怪獣

レタリング制作プロセス
“レタリングは既存のフォントにはない、記号的でない表現を試みるチャンス。古代っぽい中世っぽいとかのテイストではなく、いまだ記号になっていない造形のボキャブラリーをつくりたいと考えている。

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グラフィックデザインは、B to Bの仕事形態が多いデザイン領域である。デザイナーは、そのデザイン過程で直接的にユーザーとかかわることができない。ユーザーとつながるには、目の前の顧客─ユーザー(C)を顧客とする発注者(B)と向き合うほかない。これについて彼は「世の中にはロゴデザインより大切なことがいくつもあり…」「クライアント一人を啓蒙できさえすれば、それでデザインとは十分なことがある」と語る。これはもちろん、デザイナーの卑屈さでも、仕事を矮小化しているのでもない。

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