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劇場版パトレイバーにて、台風の風切り音によってレイバー暴走の可能性があるときに主電源を切断できなかった理由の予想

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 EV,HEV車両と乗用人型ロボットに関わった経験から、2019年現在の基準でレイバーの内部構造を予想し、劇中において台風による暴走の可能性があったにも関わらず電源を切っておけなかった理由を考察します。

 YouTubeで台風の中、劇場版パトレイバーを観ながら話していた内容を整理したものです。

レイバーの使用環境

 まずレイバーとは、海面上昇による東京水没を防ぐために大堤防を作る計画「バビロンプロジェクト」によって土木作業の人員と機械の需要が急増したために東京近郊で急激に普及した乗用多足歩行建機です。劇中では世界中で最もレイバーが多いのはバビロンプロジェクトが進行中の東京湾近郊です。(アニメ、マンガなどメディアごとに微妙に設定が違うかもしれません)まずこの背景から、レイバー開発時の要求項目において使用環境が沿岸部である事が前提になっているため、基本的にレイバーは海水にさらされる環境に耐えうる防水防塵対策、また歩行の振動に耐える耐震対策がされていると考えます。

使用環境に耐えるための対策

 設定ではレイバーの関節駆動は超電導モーターであり、電源は基本的にバッテリ(内燃機関発電機を電源とする物もある?)です。胴体にあるコントローラと各部の超電導モーターの間、また各種外界センサ系(詳細不明)との間にはケーブルがあるはず(全て無線接続という描写はない)で、コネクタ類は全てIP67かそれ以上の防塵防滴仕様、また全ての電子機器は自動車の車載機器と同等以上の耐震と車内の高温に耐える仕様と推測します。

(自動車の車載電子機器は走行による振動と夏場の車内の50℃以上の温度、またエンジン始動時のクランキングによる急激なバッテリ電圧低下と走行中のジェネレータからの充電による電圧変動という電気的ノイズに耐える必要があり非常に難しいです。ただし発電機を積まない多くのレイバーはエンジン始動とジェネレータからの充電の要素は無いはず)

レイバーのバッテリ電圧

 レイバーの電源は電池(バッテリ)ですが、私が知る限りバッテリの電圧は設定で決められていないはずです。2019年の基準に当てはめると、レイバーに近いのはピュアEV(内燃機関を搭載しないバッテリのみをエネルギー源にする自動車)です。ピュアEVのバッテリ電圧はメーカーや車種により幅がありますが300Vから400Vが多いです。

 ガソリンエンジン車のバッテリ電圧である12Vと比較して非常に高い電圧が使われる理由はエネルギー効率と小型軽量化のためで、同じエネルギーでも電圧が高いほど電流が少なくでき、発熱の減少と配線ケーブルの省スペース化に貢献します。レイバーのバッテリ電圧もピュアEVと同等の300V台と仮定して無理はないと思います。

台風前にレイバーのバッテリを外せなかった理由

 最初に劇場版パトレイバーを見たときに、「電池外しておけばいいじゃん」と思った記憶があります。今思うと、当時はまだ卓上サイズのロボットしか扱った事がなく、その感覚で考えていました。

 2019年現在こピュアEVのバッテリは重量にして200kg程度あり、一人で持てる重量ではなく、交換を前提にしていません。搭載位置も床下など簡単に交換する場所にはありません。(これは簡単にアクセスてきない事で素人が手を突っ込んで感電する事故を防止しているのかもしれません)

 レイバーもおそらくEVと同様、200kg程度の人力で持ち上げるには重すぎるバッテリパックを搭載していると思われます。劇中では警察車両であるイングラムはバッテリ交換の描写がありますが、これは自家用車や作業用レイバーと違って24時間体制で出動の可能性があるためであり、レイバーとしては例外的な仕様ではないかと予想します。作業用レイバーがバッテリ交換しているシーンは見た覚えがありません。(もしあったらすみません)

 2019年現在、販売されている自家用EVで電池交換式の車両は知る限りありません。24時間体制で使う事が基本的に無いからです。土木作業と建築作業に使われる作業用レイバーも自家用EVと同様に基本的に夜間は作業しないはずなので、日中に使って夜間に充電するというサイクルが前提になっており、バッテリは簡単に外せるような構造にはなっていない(整備工場などの設備でなければ外せない)と推測できます。

 仮に作業用レイバーの数に対してオペレーターが数倍いれば、バッテリ交換式で順番に交換と充電をしながらオペレーターが3交代製で24時間レイバーを稼働させる・・・というのは可能かもしれませんが、劇中でそういった運用はされていません。

 ただし業務用のタクシーにおいては、中国で実験的に電池交換式のEV車両が走っているようです。

 また、業務用とは少し違いますがレース仕様の日産Leafでは充電待ち時間の短縮のために電池交換式になっているようです。

台風の前にバッテリのコネクタだけでも外せたのでは?

 レイバーのバッテリ電圧が300V程度だとすると、感電の危険から電源コネクタを抜き差しするのは専門知識を持った整備士以外がするべきではありません。しかもレイバーが運用、保管されているのは沿岸部であり、潮風で湿気が高いという感電リスクが高まる環境です。現実でもEVやHVの整備作業における感電対策はまだ対策が万全とはいえず試行錯誤中です。

 多くのEVの電源ケーブルはバッテリパックからインバータ(モーターコントローラ、モータードライバとほぼ同じ意味)に直接接続されているわけではなく、整備の際に安全確保のために最初に回路を切断するためのサービス・ディスコネクトを介しています。

 もし台風が来る前にレイバーが起動できないように電源を本体から切断するとしたら、このサービス・ディスコネクトを抜くというのが最も現実的な手段と思われます。ですが・・・ここでレイバーが保管される環境を思い出すと、沿岸部の屋外もしくは簡易的な小屋などの建物の中のはずです。サービス・ディスコネクトが抜かれる状況は整備作業を行う工場が想定されており、勘合時は防塵防滴になるサービス・ディスコネクトでも抜いた状態ではバッテリの300V端子がむき出しになります。

 私の知る限り、サービス・ディスコネクトを抜いたときに回路を切断したまま端子を密封するカバーは設定されていないはずなので、バッテリ端子がむき出しのまま沿岸部に置かれたレイバーが台風による雨風と塩水をかぶる事になる・・・というのは非常に危険です。メーカーはOKしないでしょう。サービス・ディスコネクトに触れるのはレイバー整備の免許を持った人だけのはずで、短期間に整備士が東京湾中のレイバーに作業するというのは無理だったでしょう。

 メーカーの判断は置いておいて、現場レベルでサービス・ディスコネクトを引き抜いて、むき出しになった端子への雨風の対策だけで解決する問題なら、端子の場所が作業可能な配置であればビニール被せて輪ゴムで縛ったり、市販のコンドームでも端子に被せたりすれば急場は凌げるかもしれません。・・・というか、これやっておけば箱舟を壊さなくても良かったような気がしてきました。

 あ、でも台風による箱舟の共振が原因でレイバーが暴走するというのは一部の人しか知らなくて、現場レベルでは誰も知らなかったから対策しようがなかったですね。短時間で現場の人々に専門外の作業であるレイバーのサービス・ディスコネクトを抜き取るという指示を行きわたらせるのは難しい気がします。

結論

「後から検証したら可能性としては他の対策があったかもしれないけど、当時できる最善の対策が箱舟の破壊による大規模レイバー暴走の阻止だった」という事で良いと思います。「全部の作業用レイバーのプラグ抜いておいたら暴走防げました」では映画にならないですし。


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