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『Alice's Restaurant』★★★★☆(3.7)-音楽購入履歴#11

Title: Alice's Restaurant(1967)
Artist:Arlo Guthrie
Day:2024/2/3
Shop:General Record Store shimokitazawa
Rating:★★★★☆(3.7)

SSWとフォークシンガー

『アリスのレストラン(1967)』

前回ジョンセバスチャンの1stについて書いた際に、

「レコーディング終わりで順当にリリースされていたらジョニミッチェルに続くSSWブームの先駆けとなったはずだった」

みたいなことを書いたが、

そもそもSSWとはいったいなんなのだろうか。

いや言葉通り自ら作曲し自ら歌うのがSSW(シンガーソングライター)、である。いわゆる自作自演歌手だ。

基本的にはソロミュージシャンを指す言葉であるが、自作自演するソロミュージシャンなら68年のジョニミッチェル以前にももちろん存在する。

特にフォークシンガーがそれにあたるだろう。

50年代以前のポピュラーミュージックは基本的に歌手と作曲は分業制だった。
60年代に入り、ビートルズやボブディランといった自作自演のミュージシャンが登場してくるわけで、60年代の時点で自作自演は当たり前のことで。

50年代のロックンロールにしてもエルヴィスプレスリーなんかは作曲しないが、チャックベリーやリトルリチャードは自作自演ロックンローラーだし。

でもロックンローラーやフォークシンガーやブルースマンのことをSSWってあんまり言わないですよね。

自作自演であることとSSWって言葉って完全にイコールとして使われてない感あるんですよね。
やっぱりSSWはSSWなんです。フォークシンガーでもなくブルースマンでもなく。


ではSSWという言葉が使われだしたのはいつ頃なのだろう、と調べてみたところ、それが70年のキャロルキングやジェームステイラーが出てきたころらしい。

つまりは70年付近の「SSWブーム」の頃にSSWという言葉が生まれたということか。

まぁまぁまぁまぁ今回はアーロ・ガスリーです。

アーロガスリーは67年にこの1stアルバム『アリスのレストラン』でデビューしてて、音楽的にはもちろんフォーキーではあるけど、まぁ結構70年SSWブーム勢に近いサウンドだったりするんですよね。

それでもやっぱりSSWというよりはフォークシンガーなんですよねアーロは。

それはやっぱり米フォークのゴッドファーザーであるウディガスリーの息子であることとか、多くのフォークレジェンドに囲まれて育ったこととか、
結構音楽そのものよりも、どの文脈で現れたか、みたいなのも大きく関わってきますよねー


最後のフォークシンガー

裏ジャケ

というか「フォークシンガー」は「SSW」という言葉が出てきて以降いなくなったともいえるのかもしれない。

アメリカンフォーク/コンテンポラリーフォークは基本的にブルースとカントリーが混ぜ込まれてたりするんだけど、
もう60年代後半のコンテンポラリーフォークとなると、さまざまなものを取り込んでいて、本来の意味での【フォーク(民謡)】から遠く離れすぎてしまっている。

ジョニミッチェルやニールヤングやCS&Nを「フォーク」に含める人が少なからずいるが、
『Blue』を聴いても『After the Goldrush』を聴いても『デジャブ』を聴いても明らかにフォークとは別のアコースティックソングになっている。

その違いははっきりとは言葉にできないけど、
イギリスでロックが生まれて→アメリカでフォークと結びついてフォークロックが生まれて→フラワームーブメントとサイケデリックロックに浮かれて→結局それはまやかしで装飾を捨ててアコギ一本で人生を歌い出した

簡単にこういう流れでSSWブームが到来してるので、彼らは思いっきりロックを通過しているわけで。
乱暴に言うとロックのアコースティック化、みたいなところがあって。

フォークはロックを取り入れてフォークロックになったわけだけど、フォークロックをアコースティック化してもフォークにはならなかった、みたいなことなのかも。

まぁシンプルに時代が流れ、フォークは過ぎ去った、ってだけなんだろう。
ボブディランだってフォークロック/ブルースロック化した後に何度もアコースティックスタイルに戻ったりしているけど、でもやっぱり初期のフォークとは全く違うもんな。

やっぱりフォークというのは風刺の効いた物語風の歌詞だったり、反戦的なものだったり、そういう時代的背景があってこそだったところもある。
SSWブームの歌はもっと個人的で内省的なものが多くて。

「ジョニミッチェルが西海岸に移り住んで、全てが変わった」

デヴィッドクロスビーがそう振り返った本当の意味はよくわからないけど、
アコースティックギターの弾き語りスタイルで、新しい時代の歌を歌い始めたのは間違いないのだろう。

SSW時代の幕開けとなったジョニミッチェルの1stがリリースされたのが68年3月。

じゃあその直前、67年末に『アリスのレストラン』でデビューしたアーロ・ガスリーが最後のフォークシンガーと呼べるのじゃないか、
というお話。

いや、そんなに真剣にぐぅぅぅって考えてこんなこと書いてるわけではないんです。
ただ、ウディガスリーで始まったアメリカンフォークが息子のアーロガスリーで締められたとしたら美しいなー、とぼんやり思って、無理矢理そういうお話にしようとぐたぐた書いただけで。

でもあながち間違ってないと思うんですよね。フォークシンガーは音楽的にもっと広い範囲をカバーするSSWに変わっていったんですよ。


アルバム概要

アーロガスリーはウディガスリーの息子なわけだけど、物心ついたころにはもうウディは病室にいたらしくて。
基本的にはウディの弟子であるランブリン・ジャック・エリオットを通してフォークを学び、ボブディランにハーモニカを教わったりしたこともあるとか。

なんかもうウディガスリーはアメリカンフォークの父なので、ランブリン・ジャック・エリオットもボブディランも兄弟子みたいな感じになるのかな。

このアーロの1st『アリスのレストラン』をプロデュースしたのは、フレッド・ヘラーマンというフォークシンガーで。
彼はピートシーガーと共にThe Weaversというグループで40年代からフォークをやっていた人物。
裏ジャケのライナーノーツを書いたのはハロルド・レベンザールという人物で。
彼はピートシーガーとWeaversをはじめ、ジュディコリンズやジョーンバエズまでマネージメントしたフォーク界の重鎮マネージャーらしい。

ほんとに多くのフォークの兄たちがアーロを見守ってる感でいっぱい。なんかフォークの末っ子感がすごいのよねアーロ。

さぁアーロガスリーの『アリスのレストラン』。67年Repriseから。
存在は知っていて、もちろん聴いたこともあるけど、やっぱりA面丸々使った19分弱の〝Alice's Restaurant Massacree〟ですよね。
激長トーキングブルースのライブ録音で、客の笑い声があるのでコメディックで、まぁフォークの人だから風刺的なこともあるんだろうで、タイトルは「アリスのレストランの大虐殺」???、英語わからんから何言ってるかわからんけどすごい曲やな。
まぁそんな感じだったんです。笑

それでこの度見かけたので買ってみました!もう少し内容わかるのかなーなんて思って。

A-1.Alice's Restaurant Massacree

この19分弱の物語は69年に映画化されてて、『俺たちに明日はない』で有名なアメリカンニューシネマの巨匠アーサーペンによって。
ボニーとクライドの逃走劇と美しくも悲惨な散りざまを描いた『俺たちに明日はない』は好きな映画なので、『アリスのレストラン』もずっと観たいとは思ってたんだけど未だ観れてないのよね。
アーロ本人が主演で出演してて、役者が演じる病室のウディも登場したり、ウディを見舞ってボブディランが病室で歌ったという逸話のオマージュもあったりするらしいし。めっちゃフラワームーブメント感満載のヒッピー映画らしいし。

とにかく繰り返されるメロディパート以外が延々とトーキングブルースで、客は笑ってるけど英語わからないとちんぷんかんぷんな曲で。
調べてもさすがに全ての和訳はないし。

こうしてレコードを買ってみても当たり前だけどそれは同じで。笑
正直英語聴き取れないとこの曲の良さというか、醍醐味は全く伝わってこないですわね。
風刺とベトナム戦争反戦的なものであることは間違いないみたいだけど。

【Massacre(大虐殺)】と付いたこの曲だけど、なにやら内容的に別にレストランで虐殺があるけではなくて、これは父ウディの曲である〝1913 Massacre〟をオマージュして付けられただけらしいのよね。

とにかくこのトーキングブルースを聴き取るのは不可能に近いので、手っ取り早く物語を知るにはやっぱり映画をみるのが1番みたいです。観るか。

んなわけで曲としてはずーーーっと同じ伴奏で、音楽としては退屈なだけです。
ただライブ録音で、19分間同じフレーズを弾き続けて、それでほとんどリズムも演奏もブレないのは恐ろしすぎる。

A面のライブ含めてこのアルバムのバックバンドは誰が参加してるかは全く不明みたい。

長尺フォークで、ライブ録音で、客の笑い声、さだまさしってこの曲からインスピレーション受けたりするのかな(〝親父の一番長い日〟とか〝雨やどり〟とか)。

B面の小曲達

B面はオルガンが美しいバーズ風のフォークロック〝Chilling of the Evening〟から始まる6曲の小曲が並ぶ。

A面が大曲1曲のみで、B面に小曲を詰めこむ構成は、ピンクフロイドの『原子心母(1970)』やこの前書いたマグナカルタの『四季(1970)』なんかがあるが、
主題のA面に隠れたさりげないB面の小曲達がどのアルバムも素晴らしいのよね。

そんなわけでこの『アリスのレストラン』もB面がいい。
アーロガスリーはカントリー/ブルーグラスがかなり強め出たフォークなんだけど、これがボブディランの『John Wesley Harding』よりも2ヶ月早いのは結構大きなことかも。
それをバンドサウンドでやってるわけだから、カントリーロックに片足突っ込んでるところもあって、バーズよりも早く。

2曲目はラグタイムな〝Ring Around-A-Rosy Rag〟

全曲通して素人っぽいけどさりげないパーカッションが面白いです。

B-4〝I'm Going Home〟、B-6〝Highway In The Wind〟はボブディラン風フォークロック。最高ですね。

カントリーブルースな〝The Motorcycle Song〟ではボブディラン譲りのハーモニカが聴ける。

こいつはバイク乗りのアンセムでございますね。

バンドは不明だし、目立ったプレイも特にないんだけど、それがいいのよねなんか全部。
『ブロンドオンブロンド』に並ぶ、とは言えないけど、続くアルバムとして僕は大事にしようと思います。

僕はずっと69年は70年代だ!って言ってきたんだけど、もしかしたら68年も70年代なのかもしれない。
この67年の『アリスのレストラン』はぎりぎり60'sフォークロックで、やっぱあの時代を纏ってるんです。

アーロはこの後レニーワロンカーにプロデュースされて、バーバンクサウンドの一角を担うんですよね。その辺もまた見かけたら手に入れてみようかと!

★★★★☆(3.7)ってとこです!映画見て、〝アリスのレストラン〟で笑えるようになれれば4.0くらいはいきますかな!

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