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「2040年問題」とテクノロジー

将来、人手が足りなくなる?

最近、「2040年問題」が話題になっている。「2040年問題」とは、今から約20年後に、人口減少と高齢化によって、高齢者の数がピークを迎え、それを支える人手が大きく不足するという問題である。

この問題が話題となったきっかけは、総務省の有識者会議「自治体戦略2040構想研究会」の報告書だった。報告書によれば、「2040年問題」に対応するために、自治体連携の枠組みとしての「圏域」の導入、AI・RPAを使った行政の効率化、そして公務員数の削減などが必要だという。2040年はちょうど今生まれた子どもたちが成人になり、公務員になる時期。出生率の低下から、その子供の数は団塊の世代のピーク時の半分しかない、つまり労働力が半分になるとのこと。それにあわせて公務員の数も「半分」にしていく必要があるようだ。報告書の大胆な提言に対し、多くの自治体は困惑しているという。

もっとも、これだけ行政のニーズが多様化・複雑化していく中で、半分の公務員で果たして業務をカバーできるのかは大いに疑問だが、その問題については、報告書によれば、AI・RPAを使った行政の効率化によって部分的にカバーできるという。現在、一部の自治体でAI・RPAの導入に向けた実証実験が行われており、中には大幅に時間短縮ができた事例もあるそうだ。

未知数なAI・RPA

しかし、AI・RPAの本格的な導入によって、「2040年問題」が解消されるかは未知数である。なぜなら、公務員数を半分にすることと、AI・RPAの導入はロジックとして必然的に結びついていないからだ。ひょっとしたら、AI・RPAの導入によって、公務員数を4分の1にできるかもしれないが、その逆だって当然ありえる。

テクノロジーの発展と普及を予測することは簡単ではない。今回の報告書は、あるべき姿から「バックキャスト」的に予測するということなので、もちろん不確定要素が生じることは織り込み済みであり、それ自体問題はない。

だが、「2040年問題」への解決策が漠然とした新技術の導入では、現場の公務員が不安になるのは当然のことだろう。自治体が「2040年問題」の対処法を率先して検討し、中長期的な計画にいかに織り込んでいくかが重要であると思われる。

もっと遠い将来の話

テクノロジーの発展は当然、2040年の後の世界にも大いに影響を与えるだろう。今後、テクノロジーの発展によって、公務員の仕事の一部がなくなっていく可能性だってある。例えばブロックチェーン技術の応用によって、既存の文書や情報の管理といった行政事務はすべて分散的なネットワークシステムに代替される未来もあり得る。戸籍管理、投票、土地登記、住民票、税金などなど、定型的に管理する情報は役所が集権的に管理しなくとも、ブロックチェーン技術によって安全に管理することが可能だ。もちろん、情報の管理にはセキュリティの問題や責任の所在をどうするかといった様々な課題があるため、導入にはかなりの時間を要すると思われる。

その頃には、社会が抱く公務員の働き方のイメージも大分変ってきているかもしれない。定型的な業務はすべてテクノロジーによって代替されるのであれば、公務員の仕事は新しい課題発見や問題解決のツールやソリューションを提供することに限定される。より具体的にいえば、隠れた地域の課題を発見し、困っている人たちに積極的にアウトリーチし、情報を収集し、解決方法を提案し、実行することだ。今の子どもたちは、公務員=窓口に座っている人というイメージを持っているかもしれないが、将来は全くイメージを持つことになるだろう。

公的なサービスの重要性

言うまでもないが、テクノロジーの発展によって、公的なサービスの重要性は低下することはない。むしろ社会の多様性が新たに認知され、新しい行政需要・課題が発見されるようになると、公の領域はますます重要性を帯びる。

この世界が近代化する以前、例えば「病気」というのは自己責任の範疇だった。なぜなら、当時は統計による調査もあまりなかったし、「病気」が一定の確率で発生することを当時の人たちは認識していなかったからだ。だが、世界が近代化し、情報が整備されていくようになると、「病気」というのは一定の確率や条件で発生するものであり、自己責任の範疇だけでは捉えられなくなる。このようにして「社会問題」は誕生する。

それと同じように、テクノロジーが発展し、様々な情報がリアルタイムでますます共有されていくようになると、隠された新しい行政ニーズが発見されるかもしれない。今、社会の人たちの多くが自己責任だと思っていることが、覆され、社会問題化していくことになるだろう。

このような公的な課題発見・解決のプロセスを担う公務員の役割、あるいは公的な役割を担う人材はAI・RPAが普及していったとしても大切だ。いかに「費用」を削減していくかだけでなく、社会が彼らの役割をいかに認めていくかがこれから重要になってくる。

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