「おねえちゃん……あのね……」
「うん、うん！」
「『お姉ちゃん好きです。付き合ってください』」
「きゃー！　もいっかい！」
「……はぁ。『お姉ちゃん好きです。付き合ってください』」
「へ……へへへ……良いねぇ……はぁ……はぁ……」
　このキモいのは私の姉です。
　あっちが美来(みらい)、高２。
　私は美夢(みゆ)、中２。
　この状況はよく分かんないんだけど。
　とりあえず言うたびに千円もらえるんで、言います。
「あぁ……妹……いい……しゅき……」
「キモすぎる」
「そうですか？」
「なんでいきなり敬語」
「いや。妹様は女神様なので。敬語は当然至極でござい」
「言動のすべてがキモい」
「あぁん。きびしいー。でもそんなとこがすきぃ」
「はぁ……」
　おねぇは、美人です。
　それこそ、読モ、ピンスタライバー、イチククライバー。そこらへんをぶち抜くレベルで。つまり顔が良い。あと、同性の私から見て。とても、えっちぃ身体をしてます。見てるこっちが恥ずかしくなってくるくらいに。
　ただ、中身がめちゃくちゃ残念。お金で私にしゃべらせて録音しているあたりなんて発想がクズです。
「はぁ……はぁ……すき……すき……」
「う……やめてよ……その興奮してる感じ。キモ……」
「じゃ、エッチしよ」
「ぶっ！」
「これでも抑えてる。美夢ちゃんかわいいんだもん。みゆちゃん……はぁ……はぁ……」
「うぅぅぅ……こんな姉やだぁ」
「あら。じゃあ『品行方正文武両道質実剛健ウルトラパーフェクトお姉様』になってあげましょうか？」
「その時点で品行方正じゃないんだよなぁ……」
「『ごきげんよう』」
「きっもい！」
「じゃあ、なんで顔真っ赤なのかしら？　美夢さん。こういうのお好きでしょう？」
「やめて、顔は良いんだから……！」
「カラダも、ね」
「だー！　そういう所が下品なの」
「下品上等」
「喧嘩上等みたいに言わない！」
「とまぁ、茶化すのはこの辺にしておいて。私たちには役割があるんです」
「は、はぁ……」
「実姉妹百合アンソロジーが始まるのです」
「ほ？」
「ですから、いっしょに読みましょう」
「待って。なにそのメタ的な……というか、私そういうんじゃない」
「改めて、プロポーズ」

「好きです。あなたのことが」
　
「は、はひ……て、展開が早い……」
「ちっちゃいころ、お風呂いっしょに入ったよね。あの時みたいに、すべてをゆだねて」
「ま……ちょ……あん……」
「ほら。読みながら、しましょう。ね……？　かわいい……好きよ……美夢……」

　
　――すっかり日が暮れて、重なり合った二人を夕日が照らしていた。
　読み終わってしまった後の喪失感と黄昏がリンクして。

続きはこちら
百合小説短編集加筆修正まとめ「百合を愛した日々でした」 (百合創作アンソロジー文庫) Kindle版
Lilium Anthems (著), まちろ (イラスト)