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地球の未来は「赤信号」。もはや止められないのか

 うちの大学は先日、高校生に大学の雰囲気を味わってもらう「オープンキャンパス」を開きました。感染対策を十分に施したうえで、大勢の高校生相手に模擬講義を行い、私がそこでまず話したのが、「高校生までの勉強」と「大学での勉強」の違いです。
 おおざっぱに言えば、「答えのある問題を解く」高校までのクイズのような勉強とは違い、大学では「答えのない問題を考える」あるいは「そもそも問題を探す」というものです。その後、模擬講義のテーマにしたのが、「地球環境問題とは何か?」でした。

 私の専門分野ではありますが、答えのない問題の代表格です。折しも、今月9日、気候変動に関する世界中の専門家が協力する「政府間パネル(IPCC)」が、地球の未来の姿を予測した報告書を公表しました。予想以上という人もいるかもしれませんが、専門家の中では、予想通りというか、深刻な実態を明らかにしています。

 世界が打ち立てた目標(パリ協定)では、今世紀末までに、産業革命(18世紀半ば)前と比べて、世界の平均気温を2℃よりかなり低くおさえ、できれば1.5℃におさえる努力をしなければなりません。2℃近くに及ぶと、干ばつ、熱波、洪水、海面上昇など取り返しのつかない影響が、生態系から人間の経済や社会まで幅広く及ぶからです。それが、今回の報告書では、あと20年以内に気温上昇が1.5℃に達すると警告しています。「あと80年ある」から「もう20年しかない」にフェーズが変わってしまったのです。

 「温暖化なんてウソ」という言説もまかり通っています。しかし、2014年以来6回目となる今回の報告書では、それまでに公刊された1万4000本以上の論文を、全世界の研究者らが評価し、最新の科学的知見として共有された信頼に足るものです。報告書では気温上昇が「2℃を超える可能性が非常に高い」とも記載しており、すでにパリ協定は崩壊しているとも言えます。

 「(報告書は)人類への赤信号だ」。国連のグテーレス事務総長はそう表現しています。そして「対応を遅らせる余裕も、言い訳をしている余裕もない」とまで喝破しています。世界気象機関のターラス事務局長も「スポーツ用語を使うなら、地球の大気はドーピングされてしまった」と嘆いています。

 大学で行った模擬講義では、高校生たちに「人生100年時代。皆さん方は今世紀末の地球の姿を目撃できるかもしれません。そのときに、なぜこうなってしまったのか。後悔しないために、いま一緒になって考えていきましょう」と呼びかけました。
 私が実際に大学で行っている講義では、マヤ文明やイースター島などで起きた気候変動による文明の崩壊などを題材にしています。すでに実例はあるのです。そこでは、残された資源をめぐって血で血を洗う争いがあり、最後には、人が人を喰う「カニバリズム」の現象の証拠まで残っています。
 そんな野蛮な状態が繰り返されてしまうのでしょうか。人類の叡智はどこまで進化したのか。私自身も研究者の端くれとして、真っ暗な未来に、希望の光明を見出したいと考えています。

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