見出し画像

狂言『二人袴』の七 

和ろうてござるか~

ようやく二人袴も最終回となってござる
これまでのお話はこちらにまとめてござる
願わくば「狂言『二人袴』は聟入りのお話、さて室町時代の聟入りとは」
より読うでもらえればさいわいでござる

このブログでは狂言好きのわたくしけんすけ福のかみが
もっとも狂言らしい登場人物“太郎冠者”となって
狂言へとご案内するべく描いてござる
なにとぞ和らいだお心もちにて読うでくださりまりませ

狂言案内草紙「南無三寶」より一部改

前後に裂けた袴をそれぞれ前に当てて舅の元へ出た兄弟
めでたく盃事も済んだところ
酒が入って陽気になった弟(聟)は舅に喜ばせる報告があると申す

舅「それはまた、いかようなお事でござるぞ」
聟「このごろおごう(妻、即ち舅の娘)が酸っぱい青梅を好いて食べまする
  おっつけ珠のような子を抱かせましょう」
兄「し~~~い、弟は戯れ深うござるによって、
  そっともお心に掛けてくださるるな」

弟のリップサービスをいさめる兄でござる

次は舅から聟に舞をひとさし舞うてほしいと云われ焦る兄弟でござる
舞いは正面向きだけではできませぬ、どうしても袴の後ろがないと知れてしまいまする
二人して固辞するも何度も請われた末に
 聟「それならば舞いまする」
 舅「それはありがとうござる」
 兄《膝立ちして尻を扇で打ちながら》「なにと、舞うかの?」
 聟「舞いまする」
聟にはなにか策があると見えて自信満々な様子
兄は弟に任せて合点しまする(合点:大きくうなずく)

弟は膝立ち正面向きのまま小舞『盃』を舞いまするが
舅は不満げに「なぜ立って舞われませぬ」
再び兄弟は立って舞うのを固辞するも
立って舞う姿が見たいという舅のことばに聟が舞うと応えまする
 兄《膝立ちして尻を扇で打ちながら》「立って、舞うかの?」
 聟「立って舞いまする」

こんどは小舞『土車』を立って舞い出す聟
この舞は後半に相手に背を向けて大きく回る型がござるが
その手前で舅と太郎冠者の注目を脇柱の方へ向け
その隙にくるっと回って舞締めてござる

大事なところを見そびれた舅は
めでたい機会なれば三人一緒に舞いましょうと
兄と聟、自分も一緒に舞うことを提案

なぜかこの提案は固辞することなく受け入れる兄
めでたく小舞『雪山』を舞い始めまする
兄弟と向かい合い一緒に舞う舅には見えないまま舞っておりまするが
その様子を見ている太郎冠者からは二人の袴に後ろがないことが一目瞭然

急いで舅の元へ行き、袖を引く
太郎冠者「ご両人とも、袴の後ろがござらぬ」
主人もその様子を確認、二人して楽し気な笑い声

その笑い声にすべてが露見したことに氣づいた兄弟は
 兄「めんぼくもござらぬ」「チャッと行かしめ、チャッと行かしめ」
 聟「ゆるさせられい、ゆるさせられい」
と幕へ逃げ
 舅「そっとも苦しゅうないことでござる、
   まず待たせられい、まず待たせられい」
と太郎冠者ともども追いかけて幕に入りまする

総じて、聟入り狂言の舅は聟に対し寛容で
間違いや失敗を笑いこそすれど
責めることはなく、むしろあたたかく迎えようという氣もちにあふれてござる
聟は少し幼いようで世間知らずな面もあるが素直で愛されるキャラクター
兄は弟想いでしっかり者のようなれど詰めの甘さがこぼれてござる

そんな人の好さが重なるところに生まれる可笑しさが
狂言の和らいの真骨頂だと思うてござる

この狂言はここまででござる
またお目に掛かれましたら嬉しゅうござる🤗

この狂言noteはけんすけ福のかみが
大蔵流茂山千五郎家 島田洋海社中にて
狂言を学んだことをモトに
実際に狂言を(できれば生で)観て
和らいでもらいたいと願うて描いてござる🖋

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?