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チームラボに行って、テクノロジーと食について考えてみた

 10月8日、東京・豊洲のチームラボプラネッツ内にVegan Ramen UZU Tokyoがオープンするという報せを聞き、初日に行ってきました!
「チームラボとヴィーガンのラーメン…?」
一見繋がりを感じないかもしれませんが、チームラボがVegan Ramen UZU Kyotoの空間やロゴのデザインを担当した経緯があります。今回チームラボプラネッツに並列することで、両者のどんなメッセージを読み取れるのでしょうか?
──未体験のラーメンに躍る心を抑え、まずはチームラボの展示に向かいます。

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オープンの10時ちょうど。まだスタッフしかいません。

チームラボを知らない方のために簡単に説明しましょう。
チームラボは光や音を自然や展示物にあてることで、ものごとの隠された側面を浮かび上がらせる手法を得意とするアート集団です。それと同時に、人間の認知能力の限界と、それを補うための情報機器による支援を積極的に取り込むことで、来場者にとって予期せぬ体験を与えているのが彼らのもう一つの側面です。

チームラボプラネッツについても説明しましょう。
来場者達に「身体」の没入度を高める展示を共通体験させることで、逆説的に来場者同士の境界が消えていくという、不思議な仕掛けになっています。近隣のチームラボボーダレスがテーマパーク的であるのに対し、プラネッツは儀式的な側面を持っているといえます。

本稿では「今」チームラボプラネッツを訪れる理由に焦点を当てるため、2021年に追加された特定の展示に焦点を絞りたいと思います。その前に導入となる既存の展示にも触れておきましょう。


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『人と共に踊る鯉によって描かれる水面のドローイング』(公式HPより)

この展示は「身体と作品の境界を曖昧にする」というコンセプトの発展系です。
チームラボ代表の猪子さんは、そもそもの「鑑賞者の意志」というものを根底から問い直したいと言います。

「たまたま美しくなっちゃっただけ──そういうのがいいんじゃないかと思っているんだよね。」
人類を前に進めたい 2019 PLANETS 〉

”鯉は、水の中の人々の存在に影響を受け、また他の鯉の影響を受けながら泳ぐ。そして、鯉は、人々にぶつかると、花となって散っていく。1年を通して、咲いていく花々は季節とともに移り変わっていく。“(公式HPより)


「身体と作品の境界を曖昧にする」を体験することで、人間も自然の一部であることを思い出します。そこから「人と人の境界」が曖昧になっていくイメージを喚起させます。では、いよいよ新設された展示に向かいます。それは常設展示の横にひっそりと、だけれども超然とした佇まいでそこに在りました。





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『憑依する炎』に少しづつ近づいていくと、先程から膝下まで浸かっている水中の温度が半分以下になっていることに気づきました。
 激しく燃焼する炎に近くなる程、身体は冷たくなっていきます。すると、より炎の存在をありありと感じるのです。本来、炎に近づけば身体が熱くなるのが自然なのに、むしろ近づく程に冷たくなる身体を通して「LED」の炎を本物と意識してしまう、まるで炎に意識が移っていくような不思議な感覚でした。チームラボによる解説をみてみましょう。 

”炎は、物質ではなく、燃焼することによって発生する光や熱の現象であり、燃焼と呼ばれる化学反応を見る時の私たちの感覚的な経験である。人々は、感覚的な経験である炎をひとつの物体のように認識し、時にはそこに生命を感じる。“(公式HPより

炎という現象に対して、なぜ人間は生命を感じてしまうのでしょうか?
乳児の視覚世界の研究をしている山口さんに依れば、
「人間には「意識を伴う見え」と「意識を伴わない見え」がある。前者は「形を見る」視覚特有の能力であり、乳児が成長過程で徐々に得ていくものである。対して、後者の「意識を伴わない見え」は生命維持に対する危険に対し咄嗟に反応する、「動きを見る」触覚や空間認識を伴う能力であり、生後3ヶ月の乳児にも備わっている。」とのことです。〈視覚世界の謎に迫る 2005 講談社 〉
つまり、人間は燃焼という「動き」の中に、炎という「形」を見出しているのかもしれません。
目の前の炎は「LED」で出来た映像ですが、それに没入させる合わせ技に「身体と作品の境界を曖昧にする」展示のアップデートがありました。

さて、この後も新設の展示はありますが、時間を飛ばしましょう。


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Vegan Ramen UZU Tokyoに戻ってきました。
ようやくラーメンです。「空と火のためのロングテーブル」を眺めなら食べることも捨て難いですが、ここはやはり、「虚像反転無分別」で食べるべきでしょう。ドアの中に入ると、teamLab Flower Shopがありました。オフィシャルグッズも買えるカウンターで、飲食メニューと入店チケットを購入する仕様になっています。

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想像していたよりもコンパクトな室内は最大で16席程でしょうか、合わせ鏡による虚像が延延と続く空間がありました。暗くて見通しがきかない奥の席には、おそらく代理店の営業らしきビジネススーツの2人の男性が座っていました。それから数分しないうちに、もう2名、さらに1名、そして2名。テーブルの四隅を囲むのは、「代理店おじさんA.B、代理店おじさんC.D、インスタグラマー(仮)男性、インバウンドらしき女性A.B、中央に自分。」チームラボのリニューアル初日らしい妙な組み合わせです。
5分程待つと、会計時に渡された番号付きのベルが点灯して震えました、すると、店内奥の仕切り板が上がり、中からラーメンが出てきました。店員や厨房の気配を消し、空間に没頭させる。ここでも「身体と作品の境界を曖昧にする」コンセプトが通底していました。

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ヴィーガンラーメン茶+釜炒り茶チームラボオフィスブレンドのセット

スープをすくい口に含みます、すると、…‼︎⁉︎ いわゆる「茶」テイストの味を想定した舌に、痛みともいえるような刺激が入りました。生姜の辛さと昆布と椎茸の強烈な旨味が分離せずに喉を通り越していきます。何度かスープを口に運ぶと、辛さの後味の中に、緑茶を口に含み苦味を過ぎた後にやってくる味覚が、少し顔を出したように思いました。そして、この感覚は食が進むにつれて徐々に中毒性を帯びていきます。このプロセスこそが「茶」らしく、単なる「茶」テイストではなく、ラーメンになることで「茶」らしさが引き出されたと思います。

〈人類を前に進めたい〉の図説に依ると、『憑依する炎』(動的な身体)→『虚像反転無分別』(Digitized Gastronomy)というルートにコンセプトを辿ることが出来ます。このコンセプトを通して発信したいメッセージはVegan Ramen UZUのステートメントにありました。

私たちはveganが絶対的に正しいとは主張しません。
ただ、地球に過大な負荷をかける現代の食産業、食生活が限界にきていることは明らかです。

ヴィーガンラーメンを食べる、全く接点の無い5つのグループ。その虚像が無限に反転する空間。
偶然の出来事かもしれませんが、日常の選択や行動の連続に未来があるというイメージを伝えてくれたように思えます。食べ終えて店内を出ると、夏日のような日差しを受けた『空から噴き落ちる、地上に憑依する炎』がそこにありました。


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