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おでん屋奇譚7

牧さんは苦笑する。
洋介がこんなに笑うんだと
思いちょっと 嬉しくなった。

「でで?牧さん 今日のお告げは何?僕いっぱい食べましたけど!」

「あぁ・・・うん。」

「何々?当ててみてよ、教祖様」

(組長の次は教祖様か・・・。)

「言いにくいんだけどさ。」

「何?」

「洋介って、早くにお父さん亡くしてるだろ?」

「なんで・・・・分か」

「そのせいで親しい友達つくるの怖いんじゃないのか?」

「・・・・・・・・・」

「いや、分かってしまうんだよ。悪いなぁ。洋介見てるとな若いのにちょっと落ち着きすぎているって言うか
達観が身に染みてしまっているって言うか。
その歳ならもうちょっと弾けていてもいいと思うんだが。」

「牧さん・・・・。」

中学以来だれにも打ち明けていない(正確には中学でも口外していない)
父の死を、会って二度目で言い当てられた事に
洋介は不思議どころか
気味の悪さというか
奇妙な安心感まで、ない混ぜになって。どうしていいか分からなくなった。

お酒のせいもあったかもしれない
いや、お酒のせいにしたかった。

知らぬ間に 涙が出ていた。

「ほら」
差し出されたティッシュで目をこすると

「牧さんのお告げって。
罪つくりですね。」
一番痛いところを突かれた洋介は、そうやって返すのが精一杯だった。

初めて会ったときの疑問は
二度目に会って倍増してしまった。

「うむぅ」
酔いのうめきとも、疑問符ともつかない声を上げた
洋介は、鼻をすすると

「牧さん・・・えっと」と声をかける

「はいよぅ」とさい橋を構える姿
洋介は手で制して、息を吸い込んだ。

少しの沈黙。牧さんはおでん種の様子を見ながら
にっこりと笑っている。

「牧さん・・・えっと 友達に。なってください。」

そんなことを言い出すんじゃないかと
分かっていたように、息を吐いて目をしばたくと

「俺はそのつもりだったけど。」と笑う。

「いちいちビジネスライクだな、現代っ子ってのは
不器用なんだな。そんなん言わなくたって友達だよ。
ハゲの友達も悪くないだろ?」
片目をつぶる牧さんを見ていると、不思議と
歳の差を感じさせない。

軽いやりとりになったのは、牧さんの人徳なのか。
洋介の覚悟、実は見た目より重要な意味があった。

彼は今、初めてといいっていいくらいの
親友をつくる 遅すぎる一歩を踏み出した。

それから他愛もない話をして
牧さんとの交流を深めた。
洋介はあけすけに自分のつらい過去を
話さなかったけど、何となく牧さんは
分かっていてくれるような気がした。
その距離感が、どこまでも心地よい。

牧さんは自分の過去をあまり語ろうとはしない。
この辺はじっくり通って(僕にはお告げが降りてこないけど)
いろんな話を聞かせてもらおう。

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