見出し画像

「広告訴求はLTVと関係ない」ツイートを解説

運用型広告をはじめとしたWebマーケに関して積極的に情報発信している「金色のチャンキョメ氏(以下、チャンキョメ氏)」の発信が面白かったので取り上げます。

まず自己紹介をします。石田健太(いしけん)と申します。私はリピート通販のメーカー・支援会社でマーケティングとCRMいずれも経験してきました。特にCRM責任者の時は毎日のようにSQLを叩き、LTVに関わる詳細分析をしてきたCRMマニアです。今年2023年4月からフリーランスとして、D2C各社の支援に携わっています。


今回、チャンキョメ氏の発信を取り上げようと思ったのは、特に単品リピート通販に携わる方にとって参考になる要素を複数含んでいることが理由です。

「広告訴求はLTVと関係ない」か?

実は今回のツイート、整理すべき要素が3つあります。

① ターゲットは「マーケティング支援者」

今回のツイートは、あくまで「マーケティング支援者」が主ターゲットである点を踏まえた方が良さそうです。マーケを支援する方々にとって、まず必要なのは「適切なCPA」で「クライアントの期待値に沿った(あるいは超えた)獲得数を出す」ことです。ただし、成果報酬広告の場合「CPAをおさえて、獲得数出せれば何してもいいんでしょ」と言わんばかりの脱法アフィリエイターがいることは事実です。

低CPAで大量の獲得数を出すのは重要ですが、チャンキョメ氏の指摘の通り、クライアントの信頼構築の観点では、「何をやってもいい」というわけではありません。コンプライアンス遵守は当然のこと、クライアントがOKを出した広告クリエイティブや記事LPでマーケティングを行うべきだと思います。

② 「広告の訴求とLTV」は関係あるか?

チャンキョメ氏のツイートに関して、『強いリピート通販事業の作り方』という書籍の執筆にも携わられているCRMの専門家、梅田氏が下記の引用ツイートをしています。

今回のチャンキョメ氏のツイートはあくまで「獲得数や獲得CPA」に責任を持つマーケター向けのツイートである前提ですが、「訴求そのものはLTVに影響するのではないか」という観点をご自身の経験を踏まえて指摘しています。
※この論点についての私の意見は後ほど記載します。

③ 「広告訴求」の定義とは?

次に今回のツイートの後にチャンキョメ氏は補足しています。

今回の「訴求」は、あくまで「ヤンチャ or クリーンな広告訴求」の話をしているようです。またチャンキョメ氏は梅田氏宛のリプライで下記のように記載しています。

上記のツイートから解釈すると、広告表現には「訴求」と「コンセプト」という概念が別であるようです。この「訴求」「コンセプト」を合わせて便宜上「広告表現」と呼びます。
※補足:なお、今回の「訴求がLTVに関係するか」とは別の話ですが、チャンキョメ氏の指摘の通り、獲得チャネル(獲得経路)はLTVに影響があります。

これら前提を踏まえて、私の意見を記載します。

改めて「広告訴求はLTVと関係ない」か?

チャンキョメ氏は「訴求」と「コンセプト」を分けて考えられていますが、今回のnoteでは、広い意味での「広告表現」に焦点を当てて解説します。

スキンケア化粧品のケース

わかりやすいように架空のケースを用意して話をすすめます。
前提は以下です。

スキンケア化粧品をオンラインで定期販売しているA社がある。

定期顧客の新規獲得経路はディスプレイ広告とリスティング広告。
新規獲得の9割がディスプレイ広告経由。その大半は「Meta広告」。ディスプレイ広告は自社で行なっておらず、外部の支援会社B社支援会社
C社
が成果報酬で獲得している。

これまでB社がディスプレイ広告で獲得の9割を獲得していた。B社はMeta広告で「今CMで話題のA社の化粧水が、30代〜40代の忙しい主婦たちに人気。おしゃれな見た目の容器でテンションも上がるし、夜のスキンケア時にリラックスできるから忙しい主婦に最適」という趣旨の広告表現で新規獲得できていたが、直近獲得数が落ち込んだ。

そこでC社が「ファンデーションをやめて捨てる主婦が続出するほど理想の肌に慣れて効果抜群。人気の化粧品なのに初回980円で手に入る」ことを強く打ち出してMeta広告で配信し、新規獲得を始めたところ、B社の獲得シェアを上回るようになった。

※B社・C社は同じMeta広告で獲得しており、メインターゲットも同じ30-40代女性で、新規オファーも変わっていないとする。

A社の商品イメージ


上記の前提で、A社の商品のLTVが、B社C社の「広告表現」の違いによって変わる可能性があるかないかでいくと、大いに変わる可能性があるというのが、私の意見です。

なぜかというと、支援会社B社の広告は、A社のスキンケア商品を使用した後「忙しい主婦がリラックスできる」という気持ちの面(=情緒性)を強く表現しているのに対し、支援会社C社は「化粧水を使うとファンデーションがいらなくなる」という機能性の表現をメインメッセージとしています。

B社よりもC社の方が商品のスペック(=これを「機能」と呼びます)により依存した広告表現をしていると言い換えられます。

X,Y軸で整理してみると


ここでこの2つの広告表現をマトリックスで整理します。

Xでは広告表現が「機能性」によっているか「気持ち(情緒性)」によっているかで分類します。Y軸ではLTVを図る上で先行指標となる「定期継続率」の軸で分類します。すると下記のようなイメージになります。

一般にB社の気持ち(情緒)によった表現で新規獲得した顧客の方が、継続しやすいです。

なぜかというと、C社の広告経由の購入者は、「ファンデーションをやめられるような肌質になれる即効性」を求めて商品を購入しており、B社の広告経由の購入者は「日々の忙しさから一瞬解放されるようなリラックスの瞬間」を求めて購入しています。

そもそも「化粧品」の効果効能は表皮の角質層(約0.02mm)までの作用しか認められておらず、ファンデーションをやめられるほど肌質が改善することはありえません。(→よってC社は誇大広告です)

そのため、どう転んでもC社の広告経由で定期を開始した顧客は、自身の願望を叶えられず、別の肌質改善を商品を求めて、定期便をやめるという流れになるのが自然です。だってどんなに続けても自身の肌は変わらないので。

「全然ファンデやめられないんだけど」とクレームする顧客
※新規獲得の訴求が理由でコールセンターのオペレーターが怒られることはよくあります。

一方、「リラックスしたようなひと時」を得られそうなイメージを広告しているB社の広告経由の場合、商品に香りなどの一定気分をリラックスできる要素さえあれば、「リラックスした気持ち」になるかどうかは最終顧客自身の考えによります。そのため広告表現そのものが定期便をやめる直接原因にはなりにくいです。

「やめようと思ったけど、まだ続けてもいいかな」と思った顧客

※この「リラックス」表現は精神的な作用を保障してしまうと景品表示法等に引っかかる可能性があるので、あくまで広告ではそういう印象を形成している前提とします。

したがって同じ広告媒体でも、広告表現を変えただけで定期継続率が変わり、定期継続率が変わるということはLTVが変わるということになります。

初回特典ハンターの比率を下げるのも重要

さらに、訴求に関しては別の観点もあります。

よく定期便では「初回で辞められる」ということを強く押し出すこともありますが、B社が新規獲得の不振を挽回すべく、リラックスの広告表現に加え、「定期便は初回でやめられるので、購入後もすぐやめてOK」という表現のもと、記事LPで定期便のやめ方を丁寧に解説して新規獲得したとすると、下記のようになります。

上記で定期継続率が低下する理由は、初回で辞められるなら購入直後に解約しておこうという「初回特典ハンター」が一定増えるためです。

全く定期解約など考えもしなかった購入検討層だとしても、初回でやめられることを丁寧に解説しすぎると、「購入したらすぐ解約すればいいんじゃ?」と思う方も増えてもおかしくありません。(ネガティブな意味での「顧客育成」状態)

実際、新規購入直後に定期を停止する顧客も多い

初回の購入後の定期解約が増えると当然LTVにとってはマイナスです。

したがって(特に単品リピート通販の)CRMに関わってきた立場からは、「広告訴求がLTVに影響したケースは存在します」と言わざるを得ません。

なお、「広告訴求がLTVに影響したケースは存在します」と解説しましたが、分析自体は容易ではないことも補足いたします。

LTVの「分析粒度」は自社のシステム環境に依存する

訴求がLTVに影響すると仮説を立てたところで、獲得クリエイティブ(記事LP等)の識別子と購入者の顧客IDに紐づいたリレーショナルデータベースが必要になります。そこからはじめて分析がスタートできます。

獲得経路やクリエイティブと顧客IDのデータが紐づいて、はじめて厳密に分析できる

LTV分析は原因が特定できないことも多い

また、LTV変化があった際は、CRMの担当者が広告訴求のクリエイティブの中身をいちいち確認していかなければなりません。加えて、そもそも時系列のLTV差は考えられる要因自体もたくさんあり、原因を一つに絞ること自体も難易度が高いです。中途半端にやると、時間だけを無駄にする結果となります。

定期解約の原因は想定される可能性が多い

最後にこれまでの議論を踏まえて、さらに重要な観点をお伝えします。

広告訴求がLTVが影響すると分かったところで「状況は変わらない」

話は変わりますが、単品リピート通販において、多くの事業者の悩みは、「新規獲得がうまくいかないこと」です。

したがって、通販事業者としては「LTVは一旦おいといて、とにかく新規獲得数を増したい」のが本音です。

社内説得したいCRM担当者が陥る罠

例えば事業会社で、広告表現がLTVを下げている原因になっていると分かったCRM担当者が、マーケ担当者と会話する時、こんな状況になるのが目に見えます。

CRM担当者 「この訴求がLTVが低い! LTVが下がるので辞めてほしい」
マーケ担当者「新規獲得が好調な訴求なんだけどさ。・・・で、代案は?」
CRM担当者 「ぐぬぬ・・・」

LTVが高い広告訴求は理想だけど、獲得数が第一優先の状況では、訴求によるLTV差に対しては取り組む余裕がないのが実情ではないでしょうか?

清く諦めるのも手

したがって今回の「広告訴求はLTVと関係ない」かどうかに関しては、確かに「LTVは広告表現と関係はある」んだけど、一旦そんなことはおいといて、とにかく新規獲得を優先しましょう、という身もふたもない話になります。

他でどうにかするしかないCRM担当

また、外部のマーケ支援者の場合は、広告訴求がLTVに関係があるかどうかに関しては、もはや考える必要すらないケースが大半です。目標水準でモラルを持って新規獲得してくれるだけで最高のパートナーです。
※実際のところ、新規獲得数を伸ばせるパートナー自体希少です。

CRMに携わる皆さんへ

通販事業でCRMの数値責任を持っている方々は、広告訴求でLTVが変わることは分かりながら、LTVを伸ばす努力を日々しなければなりません。

施策の一例

また各種施策の実行にあたっては、CRM担当者には、自社のECにまつわる状況を多面的に把握し、社内のあらゆる関係者を巻き込んで変革していく力が求められます。

CRMでは利害関係者が多く施策の実行が大規模になりがち

これからCRMを本格的に学びたい方には、こうした様々なCRM担当としてのスキルを身につける上で、今回LTVに関する意見を提供いただいた梅田氏の著作を読んでみることをオススメします。リピート通販の世界はCRMに関する書籍は少なく、希少な1冊です。

また、私もCRMに限らず孤独奮闘する事業会社の担当者向けに悩みに寄り添う場を提供したいと考え、「D2C生き残り研究所」という会を主催しています。

末尾に、今回特にリピート通販の事業主にとって重要な論点を提供していただいたチャンキョメ氏と梅田氏に感謝申し上げます。

最後までご覧いただきありがとうございました。

石田へのご連絡はこちら

今回、LTVに関して解説してきましたが、他にも解説して欲しいツイートなどありましたら、SNSでぜひリクエストいただければ嬉しいです。​ささいなご相談・曖昧な内容でもお気軽にどうぞ。

下記は私の経歴等がわかる自己紹介動画です。

※株式会社Venture Ocean社に丁寧に作成いただきました。感謝。

ぜひお気軽にご連絡ください
https://www.facebook.com/kentaex

https://twitter.com/toarukeiki



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?