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NPOで20年率いて身につけた企業に還流できるリーダーシップのあり方とは

NPOから企業へ知恵が還流する流れ

今回はNPOの中で培ってきた働き方やリーダーシップが企業にも還流できるのでは、ということについて考えてみる。

お世話になっている山内さんのこのtwitterには共感した。

前段の「企業の進んだノウハウを」というのは対人援助や組織作りについては必ずしもそうではないと思うが、山内さんが手がけているマーケティングの部分ではまさにそうなんだろう、と思う。どちらかというと後半のNPOで培われたナレッジを企業に還流する、という部分に強く共感した。

というのもこの2年くらいのSALASUSUの元気な新規事業の一つは日本の企業研修であり、日立製作所さんやつくば市さんをはじめとした沢山の大企業に「NPOを運営する中で僕らが培ったリーダーシップや組織作り」をお伝えするという仕事だからというのもある。

失われていく権力

色々な大企業や学校の先生など日本の大きな組織の中にいる人達の話を丁寧に聞いていくと、よく感じるのが「理不尽さ」である。「やりたくないけどやらなきゃいけない」「なんでやっているのかわからないけど、そうなっているのでやっているところがある」というレベルから単純にパワハラみたいな話まで。

最初なぜそういったことが成り立つのかよくわかっていなかった。

僕のこの共感できなさの一つの原因は、20年前に起業して以来一度も上司がいなかったことにも由来するかも知れない。「納得出来ないけどやらなければいけない」ということをほぼ体験してこなかった僕にはそのシステムのパワーというか権力に逆らえないという感覚については徐々に皆さんに教えてもらったという感じである。

しかしその権力のよりどころは今日本の社会の中で失われ始めているのではないか。

なぜなら今、私たちには選択肢があるからだ。もともとその理不尽な権力の源は「会社の中の上下関係」だったり、「終身雇用の仕組み」だったりしただろう。しかし今は「どんなに大きな会社でも潰れることがある」「45歳くらいで会社から追い出されるかも知れない、最後は守ってくれない」という事例を沢山目にしてしまった。もしくは転職もネガティブな雰囲気はなくなり、ポジティブなものとして捉えられるようになってきているだろう。

辞める辞めない、だけではない。複業という形で様々な収入を得たり居場所を得る人達も増えている。そして何よりも地域や家庭できちんと自分の居場所を作るということが「かっこいい」という雰囲気も出てきている。会社で活躍することだけが「自分の社会の存在意義」と思う必然性が減ってきている。

それが今働く私たちにとっての選択肢である。そしてそれを選択する勇気も徐々に伝染してきている。としたときに、そんな私たちに「会社で偉くなりたいなら」とか「既に偉くなった俺のいうこと」という命令はどんどん効きにくくなっているのではないか。

もちろん上で述べるほど、個の力がたち、自立してきているということはまだないだろう。ただこのトレンドは決して止まることはないだろう。

NPOのリーダーシップ1.0
パーパス(大義)に基づくリーダーシップ

そんなとき、注目されてきているのが非営利組織の中のリーダーシップのあり方である。そもそも非営利組織では給料やポジション、終身雇用といったインセンティブが非常に弱く(良くも悪くもだけども)、「なんのために働くか」「どんな社会を作りたいか」という大義に賛同できるかどうかが働くモチベーションとなる。

なのでNPOの代表は団体のビジョンやインパクトを組織の内部にも伝え続ける必要があるし、マネジャーは「この仕事がどうソーシャルインパクトにつながっているのか」を伝え続ける必要がある。「この仕事はなんのためかわからないけど、必要だからやってください」みたいなことをいったら「同じ『わからない』なら企業で働きます」と返される。

それでも団体内の職員はまだ評価制度や、そもそも雇用というインセンティブで動かせたとしても、NPOを支えるボランティアやプロボノといった、「よりパーパスへの要求が厳しい人達」もマネジメントすることが求められる。そのため、NPOで働くとひたすらに物語を語る力を鍛えられるのだ。

大義に搾取されるというリスクにどう抗うか

一方パーパスを過度に神聖視することにはリスクも大きい、と僕は思う。この団体はある特定の社会課題の解決、あるソーシャルインパクトをおこすために存在している団体で、関わる人達はそれを生み出す「手段」、となってしまう場合だ。それは資本主義の企業におけるお金のKPIが、ソーシャルインパクトのKPIに変わっただけで、結局個人は大きなKPIの前に搾取される。

その構造に対抗するためには、マネジャーがそれぞれの個人の物語を聴き、大義と自分のあり方のバランスをとることを促すリーダーシップが問われている。

なお、今回は人をどう動かすか、というリーダーシップのことを書いているのであくまで余談だが、僕は大義にもっとも搾取されがちなのはそのNPOの代表だと思う。大義に共感し自己同一化しているからこそ、自分の物語を聴きなおすことを忘れてしまうのだ。

NPOに関わることは自分は何者なのか、何者でありたいのかという問いと向き合うチャンス

NPOで働く中で、大義と同じくらい強調されると良いなと僕が考えるのが「どうあなたはありたいのか」というBeing、ないしはオーセンティシティに関わる問いである。

企業の中で理不尽にお金のために働くのは難しいから、社会に役に立っているそんなやりがいが感じられるソーシャルセクターに来た、ということは凄く勇気のいることだし、大きな一歩だと思う。一方で、そこで止まってしまってはもったいない。

NPOと関わったからにはこんな問いにも是非興味を持って欲しいのだ。

自分は何故その社会問題に惹かれたのか、その組織に惹かれたのか、その働き方に惹かれたのか、その人に惹かれたのか。そして自分はこれまでのどの会社のどんなあり方になぜ傷ついたのか、そもそもこれまでの自分の人生で受けてきた傷や呪いは何なのか、そのなかでどんな価値観を大事にしようと思っているのか。

人によっては見つめるだけでフラッシュバックが起きてしまうような大きな問いではある。ただきちんとサポートを受けながらもその問いに向き合うことで、より自分自身への理解が向上し、自分のルーツとつながり、結果として自分の心の内側から湧き出てくるエネルギーと繋がることができる。

なお、注意しなくてはいけないのは、自己開示や自己内省を強制することは単純な暴力なので避けるべきである、ということだ。

一方で、NPOなどのソーシャルセクターに埋め込まれた「人の関係を大事にする組織のあり方」「多様なバックグラウンド、状況にいる方々と出会い心を揺さぶられる環境」「圧倒的な世の中の理不尽さや暴力的な構造の中を感じ共感する中で自分自身の苦しみも思い出すというプロセス」は、自分との対話を進めていくための大きなチャンスでもあると思う。

人は違いから学ぶ事ができる。小さな違いに気づくセンサーを育てるためにも、自分の心を大きく揺さぶるような大きな「違い」を目の当たりにすることはその糧となる。(「違い」と書いた意図として、もちろん当事者の方々は、あなたの成長や自己発見のためにいるのではないので、そこは勘違いしてはいけない。)

現に僕自身はカンボジアに来て「人と較べること」からかなり自由になることができた。そしてSALASUSUを独立するときの家族や仲間との対話で「自分の痛みとルーツ」を確認することができた。

NPOであるからこそ、こういった自分のあり方を深めていくことができたということに感謝しているし、そのお裾分けもしていきたいと思っている。

NPOのリーダーシップ2.0
自分のありたい「あり方」に基づくリーダーシップ

これがNPOやそして企業に求められるリーダーシップのあり方になっていくと思う。いわゆる「オーセンティックリーダーシップ」である。自分を見つめ、自分をケアし、そして自分のあり方と、団体の大義を編み込んで自分の生活を作っていく力。

マネジメントにおいても、これからは「ビジョンや大義を説くストーリーテリングの力」だけではなく「ともに働く人の物語を聞く傾聴力や好奇心」こそがそのリーダーシップを発揮する上で問われることになるだろう。

さらにその先は「リーダー自身の弱みも含めた自己開示をきっかけとして、働く仲間が自分自身に興味を持ち、ありたい自分へと近づくためにさまざまな学びを実践していく学びの共同体を作り、プロセスとして大義を達成していく」というのがNPOから発信できるリーダーシップ2.0なのではないか。

それこそが「経済の発展」とか「ナショナリズム」という大きな物語だけが 支配的であった時代や、その熱狂を失ってきたこと。さらに「組織 >> 個人」という力のバランスも失いつつある中でこれからトレンドになる僕たちの新しい生き方なんだと思う。

NPOしか経験していない僕が「これこそがNPOならでは」と言えるのかどうかは厳密には怪しいところだけど、沢山企業の方々と接する中で最近考えたリーダーシップのあり方についてまとめてみた。研修に興味がある方は是非下記をご覧くださいませ。


追伸

12月23日の衝撃、というのがあって、それ以降余り記憶が定かではないんだけど、色々と頑張っている今日この頃です。全くnoteを書くような感じでは無くなってしまった。twitterにつぶやくくらいである程度満足していたというところもある。
ただようやく、さぁここからマラソンだな、といえるくらいには落ち着いてきたので、ちょこちょこ書きたい。

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