甘い錠剤

 最近もらった薬は甘い。キャンディのような味がする。

 薬は錠剤で、水と一緒にのむタイプの薬。舌にのってから水で流し込むまでのコンマ数秒、安いキャンディのように甘い。誰だって知っている、懐かしい甘さ。

 不思議だから、数秒、水を口に運ぼうとする手が止まる。いったいどんな甘さなのだろうか、もう少し味わってみようか、そんな考えが逡巡する。けれど、途端にダメだダメだ、これは薬なのだから、これは私を治療するためにあるのだから、そんなことをしてはダメだ、と思い直す。口の中で全て解けてしまったら、もうそこで薬の効果はやってこないかもしれない。薬は、私の知らないところで働くのであって、私が味わっていいものではない。

 だから、その甘さ、懐かしい甘さというのも、私の舌にのったのも束の間、水で流し込まれる。だからその甘さをはっきりとは覚えていない。確かに駄菓子のような、金平糖のような甘さに違いない。違いないが、そうだとは言い切れない。どうやらあの薬は甘かった。

 薬は2週間分処方されている。朝と晩、2回飲むように言われている。飲むたびに、この薬は甘かったのだな、と思い出す。しかし、記憶に刻み込むことは叶わない。それは、あっという間に過ぎ去っていくのだから。朝と晩にその甘さはやってくる。けれど、次の予感は残さない。次に服薬するときには、薬が古めかしい甘さをしていたことなんて、はっきりと忘れている。

 最近もらった薬は甘い。いつかもらったキャンディのように。

 

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