見出し画像

高校の夏期講習での今でも不可解な現象

高校時代の話。(場所は伏す)

時折り思い出すけれど釈然としない、実話怪談めいた経験をここに記しておきたい。

ゾッとさせたい気持ちも少なからずあるが、備忘録的な意味と人生に数回しかない心霊?体験ではあるので記しておく。あと、そんなにオチがあるわけでも大して怖いわけでもないのだ。霊感がバリ3なわけでも、視える体質でも全然ない、金縛りにもあったことがない自分が今も抱える釈然としない気持ちを共有できれば、ここに書き記した甲斐がある。

遡ること10数年前

受験を控えた高校3年の夏――

進学校とは名ばかりの普通科の高校で、職員生徒一同とにもかくにも大学と名がつく場所を目指し、遅すぎる本格的な受験シーズンが幕を開けた。

その日は夏休みだと言うのに、2クラス合同の英語の授業がある。いよいよ受験が始まるちょっとしたイベント感と、後述の合同授業担当の英語教師を思うと朝からどこか落ちつなかい気持ちだった。

普段の英語の担当は若い女の先生で、優しく冗談も通じるし、柔らかな雰囲気なのだが、今回の合同授業ばかりは全く話が違う。
ギョロっと大きな目玉が浅黒い顔で、眼球は中心寄り、2トーン高い声は必要以上に学生を煽るようにアクセントをつける大変クセがあって、wasをヲズ!っと言わないと不機嫌になるタイプのスタンド使いの男の先生が担当なのだ。もちろんこの先生は怖いが霊的な類ではない。

その先生の雰囲気はまだまだ伝えきれていない。本当に怖いと苦手意識があったのもあるが、授業中に指名した相手を試すような独特の間と、決してふざけてはいけない空気が周囲にはぴーんと漂っていて、実際、この授業の冒頭では私語は一切禁止だと執拗に釘を刺された。
なぜ私語がダメなのか、今がどういう時期なのか、机の間を執拗に一筆書きで縫うように行ったきり来たりしながら3分程度背筋は伸びっぱなしであった。今だから分かるが、厳しめのいい先生なんだ。

物語の舞台は被服準備室

そんな2クラスが一堂に会したのは被服準備室。
めったに使わない教室だがクーラーが付いていて、湿気った空気と独特な木と埃っぽい香りがする。その教室のサイドには水道があり、後ろには今回は使わない机と椅子がぎゅっと集められていた。

木製の横長の2人掛けの席へ無機質に出席番号順で座るよう促される。その日は直前に受けた模試の解説から始まったと思う。

一問ごとに丁寧に解説が入る。幾分かは結果の良かった模試だっただけに、その時はそんなとこ誰が引っかかるかい!と内心毒づきつつも、分からない問題のところで当てられやしないかだけ小心者なのでヒヤヒヤしていた。

常に答案をバインダーに挟みながらランダムに歩き続け、踵を返されてノールックで突如指名される恐怖感にも慣れ始めた頃、ようやく件の不可解な現象が起きた。

それは先生が教壇から僕が座る教室の右前方に向けて歩き始めたまさにそのタイミングだった。


ドビビビビビ!!!

不意にキュッと蛇口から音がして、水道から勢いよく水が流れ出し、打ちつけられた水のしぶきが近くにいた僕の右肩に飛んできて半袖の夏服の右袖はしっかり濡れてしまった。どうしてこういう教室の水道の絞りはきついのかだろうか。

もちろんこの間、誰も水道に近づいてもいない。
1番近いのが僕だ。

いよいよ先生が僕の方に歩いてこちらに向かってくる。
僕の右側の水道は狂ったようにビビビビビと水を吐き出し続ける。
先生、僕じゃないんです。そんなイダスラをする生徒でもないことくらいはご存知でしょう?英語の成績は上の中くらいですよとても真面目なんですお願い信じて先生…僕はやってない…その願いも虚しく、僕は教室をつまみ出されることなんてのはなかった。

きゃっ、きゅっ、きゅっ。

まるで何事もなかったかのように先生は蛇口をきつく閉めるとそのまま授業は再開された。

途中、居眠りをしていた生徒が激しく糾弾され、最後まで本当に気の抜けない授業だった。

そんな授業も休憩時間を知らせる鐘が鳴り、教室中からふーっと息を洩らす音が聞こえ、それから10分間の休憩となった。

「いやー、濡れちゃったよ!誰かなんか仕掛けた?」

出席番号1番の前に座る立命館に行ったヒョロガリの友達に話しかけたが今ひとつ会話が成立しない、受験でナーバスになり過ぎだ。
後ろに座る丸坊主の野球部の友達の方を振り返り、途中の水道の話をしてもまるで通じない。
なんか変だ。

「だから、この肩見てって!濡れてるやろ!」

汗?よだれ?どうにも信じてもらえない。
白昼夢と汗で片付けられたが、どうにも腑に落ちない。

でも水道はそこだけ濡れている。

もちろん水も出るし、足元の地面も肩も濡れたままだ。

そんな話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?