見出し画像

「のれん」を知る事で自分の価値を位置付ける。

こんにちは!!
エンジニア歴18年、経営企画歴3ヵ月目の南です。
新天地での日々の学びの整理、定着、深度化、アーカイブ化等を目的として本ブログを書いています。

8本目となる今回はビジネスの世界の「のれん」について書いてみたいと思います。

のれんと聞いて思い浮かぶもの。

のれんと聞いて普段私たちが思い浮かべるのは、お店の入口に掛けられているヒラヒラとしたあの布ですよね。
お店の営業中を示したり、中が直接は見えないように視線を遮ったり。 

私は1人で居酒屋さんに入れるタイプの人間なのですが、お店の人と目が合う事なく中の雰囲気を覗き見ることができたり、「よし入ろう」と決めて暖簾をくぐる時のちょっとしたあのドキドキ感。暖簾の今日的な意味合いは、単なる機能を超えた「情緒」にあるようにも思えます。

そんなのれんはもちろんお店の看板としても機能していますが、そのお店で修行した人が独立して自身でお店を構えるときに、その屋号を継ぐ「のれん分け」をする(してもらう)事があります。

お店の場所も人も違うけれども「あのお店がのれんを分けたくらいなんだから、このお店も凄く美味しいに違いない」と期待をするわけですが、こうやって改めて考えてみると「のれん」というものがやはり「機能」だけではないちょっと特別な意味合いを持つように感じます。

ビジネス用語としての「のれん」

そんな日常生活の中でも身近な「のれん」ですが、実は立派なビジネス用語としても使われています。

ビジネスにおける「のれん」の意味を調べてみると「企業の超過収益力」とか「ブランド力や技術力、人的資源など、見えない資産価値」などと書かれていて、これだけでは何のことやらピンときませんが、
この「のれん」を理解する事で、ここ最近の私にとっての定番モヤモヤとなっている「会社に対する従業員(オレ)の価値とは?会社法上、財務諸表上どう位置づけ、根拠づけられるのか!」的な問題に近づく事ができました。(これを「俺は誰だ問題」と命名)
以下、ビジネスにおける「のれん」について説明していきたいと思います。

ビジネスにおける「俺は誰だ」問題
(この絵はマンガ「北斗の拳」の1シーン)

財務諸表における企業の価値

さて、財務諸表の一丁目一番地と言ったら、何と言ってもバランスシート!
当ブログでも最初の方に取り上げましたが、左側が「資産の部」となっており、会社の資産はこちらに表れます。

大きくは
・流動資産
・固定資産
の2つに分かれており、
「流動資産」には、現金、受取手形、売掛金、有価証券、棚卸資産などのすぐに(一年位内に)現金化できるもの、
「固定資産」には、建物、土地、工場、製造設備などの有形固定資産と、特許権やソフトウェアなどの無形固定資産が出てきます。

バランスシート右側の「負債+純資産」は、企業が調達したお金を表し、その調達したお金がどのように姿を変えて会社の資産となっているかをバランスシート左側の「資産」が示していることから、両者の合計額は必ず一致する(バランスする)のがポイントです。

さて、調達した資金(右側)がどう資産(左側)となっているか。
手元のお金で商品を仕入れてそれを売る、というシンプルな商売(小売業)であれば、店頭に並んだ商品(棚卸資産など)が利益を生み出すためのメインの資産になるでしょう。
原材料を仕入れ、それを加工して製品を作って売るという商売(製造業)であれば、工場や生産設備が利益を生み出すためのメインの資産になると考えられます。
そして、ポイントは、この「バランスシート」には「人材・人財」と言った従業員に関する項目はこれっぽっちも出てこないのでした。

そして、もうひとつの財務諸表であるP/L(損益計算書)では、従業員に支払うお金が「一般管理費」として支出に出てきます。
従業員とはあくまで労働力であり、従業員が業務をする事で売上が上がるわけだが、その労働に対する対価として賃金を支払う→以上終了。というのが「財務諸表から考える会社と従業員のなんともドライで一方的な関係」でした。

ここには従業員個人のスキルとか、長年積み重ねたノウハウとか、顧客との信頼関係、世間の評判といった物は評価の対象となりません。
財務諸表の決まりではそういう事なのかもしれませんが、しかし、これで本当に良いのでしょうか。現実世界でもこれが正しいのでしょうか。企業の価値ってそんな物なのでしょうか。

近年日本でも「M&A」という言葉がすっかり身近になりましたが、ここに、私のこのモヤモヤ「会社にとっての従業員とは?」「俺ってなんなんだ?」問題の答えに近づく一つの鍵がありました。

ビジネスにおける「俺は誰だ」問題
(2回目)

企業の値段って。
その値付けのメカニズムとは。

ある人がある会社を買いたいと思ったとき、その会社の値段はどのようにして決まるでしょうか。
「バランスシートに出てくる『資産』の総額」という考え方もあるかもしれませんが、例えばその会社を買いたい会社が何社も出て来て、「ウチの方が高いお金を出すからウチに売ってくれ!」となっていくと、財務諸表にその会社の値段の根拠を求める事はできなくなります。

では、どうやってその値段を決めるか、すなわちその会社を評価するか。もちろん色々な方法がありますが、代表的な方法の一つに「DCF法」(ディスカウンテッドキャッシュフロー法)というものがあります。

その企業が生み出すであろう利益(正確にはフリーキャッシュフロー)を、資本コスト【やっと出て来ました!このブログで最初に扱ったテーマ、「ワクワクWACC」の事です!】で割り引いたのが、企業価値となります。

ざっくり理解しようとすると、「この会社はこのくらいの利益を上げてくれそうだから、この金額で買うメリットがある」という感じです。

具体的には、ある会社が年間2億円の利益(正確にはフリーキャッシュフロー)を上げるものとして、将来的にも毎年ずっと2億円利益が出るとし、さらに自社の資本コストWACC(資金調達コスト=最低限出さなければならない利益を意味する)を5%とすると、2億円を5%で割り戻した40億円が、この会社を購入してもメリットが出る金額=この会社の価値・値段という事ができます。(超ざっくりです)

DCF法の超ざっくり解説はこんなところですが(いずれもっと詳しく理解したい)、
さて皆さまお気づきでしょうか?
この価値算出プロセスには財務諸表・バランスシートが出て来ません。その会社に期待される利益から、会社の価値を算出(値踏み)した事になります。

いよいよ登場「のれん」とは

ある会社がある会社をM&Aしました。DCF法により40億円の価値がある!とのことから40億円で購入したとします。それだけの価値があったとします。
しかし、バランスシートに出てくる資産総額は30億円だったとします。

バランスシートの右側、負債と純資産の総額(調達した資金)が30億円。
バランスシートの左側、流動資産と固定資産の合計も同じ30億円。
会計上の資産価値は30億円なのに、この会社になぜ40億円の値段がついたか。
この差額10億円が【バランスシートには出てくることのなかったその企業の価値】という事になります。
そして、この【バランスシートに出てくることのなかったその企業の価値】とはなんなのかと言うと、私がモヤモヤしていた【その会社で積み上げて来たノウハウや、従業員のスキル、顧客と気づき上げて来た信頼、世間での評判】等と考える事ができます。

バランスシートには出てこない(小売業なら棚卸資産、製造業なら工場や生産設備ではない)収益力が、この10億円に表れていると言う事ができます。

そして、これらを指す会計上の正式な言葉が、そうです。お待たせしました。「のれん」です。(ここまで長かった。。。)

俺の名前は、そう。
「のれん」だったのだ。

「のれん」はいつどこに出てくるか

M&Aによる連結後のバランスシート、基本的には両者のバランスシートの右側同士、左側同士を足し合わせたものがになりますが、
元々のバランスシート上の資産価値と、実際の購入金額には「のれん」の分の金額差があるので、そのままでは上手く合いません。
そこでこの「のれん」がバランスシートの「無形固定資産」のところに出てくる事になるのです。

財務諸表には現れてこない収益力「のれん」、それまで見えなかったものがM&Aによって他社の子会社として連結された時に初めて可視化される事になるというのはちょっと複雑な気持ちがしますが、
我々従業員や先輩方が積み上げて来たノウハウ・信頼が市場においてどのように評価されるのかがわかってようやく少しホッとしました。お天道様はみてはるんや。

「のれん」は減価償却される。

長くなってきましたが、もう少しお付き合いください。
そのままでは見えない、企業がM&Aされる時に初めて出てくるその企業の無形固定資産「のれん」、連結後のバランスシートに出て来くるわけですが、この「のれん」は、前回テーマとして扱った「減価償却」の対象となります。
10億円の固定資産「のれん」を例えば2億円ずつ5年間で償却していく、そんなイメージです。

5年間分に分割されてはいるものの、一般管理費として支出計上されるので、償却分以上の利益を出す事ができないと、M&Aしたメリットが出ていない事になります。これを「のれん負け」と言うようです。

「のれん」の減損

また、10億円分の「のれん」を見込んで買収したけれども、実際その「のれん」には10億円に見合うだけの価値がない事が判明した場合には、その「のれん」の価値を低く評価しなおす「減損」処理をする必要が出て来ます。

投資して手に入れた「無形固定資産」と考えていたものが、資産価値がなくなり、損失として計上しなければならなくなってしまう。
これは財務に直接影響する事になります。

比較的記憶に新しいところでは、東芝・ウエスチング社の「のれん」の減損は7,125億円、日本郵政・オーストラリア物流会社の「のれん」減損は4,000億円などは、びっくりするような金額です。
M&Aが大型化する一方で、のれん減損のリスクも大型化していることがわかります。

東洋経済オンラインより拝借
2016年のものですが、のれんの大きい会社達。
サントリー社はビーム社(ウイスキー「ジムビーム」等の製造会社)1兆6550億円で買収。
その時ののれんは6298億円だったとのこと。

「のれん」もう少し書く事ありそうだけど

のれんについて書いて来ました。
これまでブログに書いて来たWACCや減価償却と繋がったりして、ファイナンス方面も少しずつ広がりを見せて来ました。

国際会計基準IFARSにおけるのれんの扱いと、それによるM&Aのハードルなど、もう少し書ける事はあるのですが、今日ももうだいぶお腹いっぱいになってしまったので、この辺りで終わりたいと思います。

3ヵ月前は本当に知識ゼロだった事を思うと、我ながらまぁまぁ良くやっている方ではないでしょうか。

このブログへのアウトプットまで含めて結構楽しく学べているので、この調子で経営企画の勉強、続けていきたいと思います。

今日もお読みいただきありがとうございました!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?