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ダウントレンドにめげない?資金調達ラウンドを成功に導く4つの鍵

400F CFOの鵜月です。

本日、当社は12億円の資金調達を発表いたしました。

ここまで力強く伴走いただき、今回のラウンドにも追加出資頂いた既存投資家の皆様、新たに投資を決定頂いた新規投資家の皆様には感謝の気持ちで一杯です。当社は頂いたご支援を活かし、さらに成長を加速させてまいります。

そして今回、初めて最初から資金調達を主導する役割を担い、学んだことや気づいたこと、反省点などを自身で整理すると共に、これから資金調達に動く方のために、少しでも有用なtipsを提供できればと思い、本稿を執筆しました。

やはり皆さんが一番気になるのはValuation(企業価値評価)だと思いますが、一口にValuationと言っても、大別して2つの観点 - 絶対基準と相対基準があります。前者はそもそもPre、Post-moneyがいくらだったかで、こちらは登記簿やInitialをご覧頂ければお分かりになるかと思います。一方、後者はトラクションや事業計画を元にどのような評価がなされたのかという、いわゆるマルチプル水準です。残念ながらこちらについては守秘義務や投資家との関係上、口外することは叶いません。ただ一つだけ当社として言えるのは、今回のラウンドにご参加頂いた投資家の皆様からは適切な評価を頂けたと考えていることです。

以上を明記した上で、それでは「どのように適切な評価を獲得し、投資家/発行体双方にとって納得度の高い資金調達を行うのか」を主眼に、重要だと感じた以下4つの点から本稿を進めていこうと思います。


① 目標調達額の決定

前回の記事にも記載しましたが、調達に動くにあたって一番重要なのは確固たる事業計画です。

  • ある時点で望ましい売上高はいくらで、そのためにはどれだけの投資が必要なのか

  • ではその投資を踏んだ際に、現在のキャッシュポジションを考えるといつ資金ショートが起きるのか

  • 資金調達を実施する時点の業績から導き出されるValuationに対して、調達額は現実的か

またスタートアップファイナンスにおいては、事業計画だけでは片手落ちで、Cap Table Simulationも不可欠です。目標調達額が現在の事業実績から導き出されるValuationに対して過大であれば当然の帰結として大規模な稀薄化(ダイリューション)を招くことになり、次回の調達に支障を来たします。

  • 今回の資金調達でどこまでのダイリューションが許容できるのか

  • IPO時点で経営株主には何%持っていて欲しいのか

当たり前ですが、株式持分というのは合計すれば必ず100%になる性質のものであり、調達額と稀薄化率は常にトレードオフです。スタートアップファイナンスは事業計画とCap Tableの絶妙なバランスの上に成り立つものであり、個社の状況や市況(の読み)を踏まえて、どちらを優先するのかこそがCFOに求められる高度な意思決定だとも言えます。

② Valuation

前段部分と密接に関連しますが、目標調達額が決まれば次に自社のFair Valueに対する見解を固める必要があります。もちろん、目標調達額や望ましい稀薄化率に紐づく希望的なValuationはすぐに出てきますが、重要なのはそこではなくトラクションや合理的な計画指標といった根拠に裏打ちされた、第三者に対して説得力を持つFair Value算出がなされているのかという点です。

また、一旦自分たちなりのFair Valueを決めたら、そこに固執すべきだという意味でもありません。Valuationは交渉の結果上下することもありますし、そもそもFair Valueは通常一本値ではなく、レンジで表されるものです。多くの場合、投資家が考えるFair Valueと発行体が考えるそれには乖離があります。どちらが正しく、どちらが間違っているというものでもありません。また、「評価は投資家が決めるもの」と、全てを投資家に委ねることも一見潔いようにみえて単なる責任の放棄です。発行体側がトラクションや計画を元に自分たちにいくらの価値があると考えているかはValuation算出において最重要のシグナルです。投資家・発行体双方が、それぞれの立場のプロフェッショナルとして真剣勝負をすることで、真のFair Valueに辿り着くのだと思います。

また、その交渉においても留意すべき点がいくつかあると感じています。

  1. ハイボールを投げない

  2. 二項対立で考えない

  3. 武器を配る

1. ハイボールを投げない

最初からValuationが下がることを見越してハイボールを提示するのは信義則に反すると考えています。中にはそういう交渉もあるのかもしれませんが、私はそれは交渉術の仮面を被った交渉もどきだと考えています。これは投資家側にもいえて、起業家の足元を見てやたらと低いValuationを押し付けようとするのも、ある意味ではLPへの受託者責任を果たしているといえるのかもしれませんが、本質的に成長の果実を分かち合うという趣旨からは外れているのではないでしょうか。発行体は、自分たちの事業に価値があると信じるのであれば淡々と事実と計画を訴求していけばいい話ですし、投資家側はFair Valueで評価するという姿勢を持って双方が誠実に向き合えば、本当の意味でFair Valueの「交渉」ができると信じています。

2. 二項対立で考えない

交渉という文言には常にゼロサムゲームの印象が付きまといますが、単純な二項対立で考えてほしくはありません。あなたの目の前に座っているのは、アップサイドだけを掠め取ってやろうとする強欲なスクルージではなく、これから上場まで(もしかしたらそれ以降も)伴走してくれるかもしれない心強い仲間候補です。実際、今回の資金調達において私はカウンターパートの方々をゴリゴリの交渉相手ではなく、ディールを共創する仲間だと思って接していました。たしかに、マクロにみたら株式を安く買いたい投資家と、高く売りたい起業家の間には利益相反が存在します。しかしながら、マネジメントプレゼンテーションなどで投資委員会(IC)に直接プレゼンする場合を除き、発行体のことを投資家内で説明するのは担当者です。ミクロで見れば担当者が発行体のファンだということも往々にしてありえます。担当者をイケすかない交渉相手だと思うのではなく、心強い仲間だと考えれば、自ずと相手を助けたいという方向に行動も変わってきます。これについては、この後の小項目でお話します。

3. 武器を配る

担当者が味方になれば、社内で発行体側の言い分を通そうと頑張ってくれます。その際に発行体としてもただ「頑張ってくれ」というのではなく、彼らが社内で実際に戦えるだけの武器を提供する必要があります。たとえば相手が事業会社なら具体的なビジネスの連携状況をこまめにアップデートする、であったり、他社との取り組みでも参考になりそうな事例の共有など、VCならICで使えるValuation資料を作成することも有用です。実際に当社も、Fair Value算出においてDCF、マルチプルでクロスチェックしたValuation資料を作成し、フェーズが進んだ投資家にはすべて共有していました。これが先方社内でどれだけ役に立ったかは分かりませんが、発行体として投資家のために何ができるかを考えてできることを実際にやりきる姿勢が大切なのだと思います。余談ですが、この資料の作成においては私含めて投資銀行(IBD)バックグラウンドのあるメンバーの存在が役に立ちました。なお、ピッチ資料の作成術については多くの投稿が過去なされていることから敢えてここでは触れません。

③ 行動量

ピカピカのユニコーンならどうか分りませんが、調達というのはとにかく断られ続けることでもあります。断られ続けると、減り続けるキャッシュポジションをみて不安に駆られるかもしれません。「Valuationを下げたらもっと簡単に集められるよ」という悪魔の囁きに屈してしまいそうになるかもしれません。そこで大事なのは矜持を失わないことです。Valuationは交渉で上下することはあると上段で述べましたが、これは安易に下げていいと同義ではありません。自社でFair Valueだと信じる値を算出したのであれば、やはりその価値を信じるべきです。事業価値をデリバリーしているのはあなたがたなのですから。その価値を認め、ビジョンを共有してくれる投資家を迎え入れましょう。

当社でいえば、正直に告白するとValuationは当初想定していた水準よりも下がる結果になってしまいました。これはCFOとしての力量不足だったと反省しています。一方で先述の通り、Fair Valueというのは通常レンジで表されるもので、当社としても絶対に守らなくてはいけない防衛線を設定しており、結果としてその防衛線は死守できました。(なお冒頭で申し上げた通り、今回のラウンドにご参加頂いた投資家の皆様からは最終的に適切な評価を頂けたと考えており、そこには1ミリの後悔もありません。)振り返ってみると、この防衛線を下げれば遥かに調達はしやすかったと思います。CFOとしてはValuationを下げた方が資金調達もしやすく、SOの行使価額だって下がるわけですから、その誘惑に負けそうになる気持ちは理解できなくもありません。それでも自分たちが信じるFair Valueを安易に押し下げることはCFOという職務に対しての矜持を失う行為だと思いますし、決してしてはならないことだと思っています。

ではその矜持を失わないためにどうするか?行動量しかありません。結局は量とファネルの問題なので、コンバージョンから逆算した社数と会いましょう。また、質を上げるための行動量となっていることも大事です。質の高い仮説の元、適切なLong Listを作成しましょう。通常、一定の量をこなせば質も改善するため、コンバージョンも上がっていきます。当社も実際に今回ご出資頂いた5社を集めるまで、50社近く(最近巷で話題の50社は超えていません笑)と面談しています。コンバージョンでいえば10%です。でも恋愛と同じで、9人に振られても、最後に最高の1人と付き合えればいいわけです。別に9人に振られたからといってあなたが劣っているわけでもありません。The Oneに出会うための正しいステップを踏んでいるだけです。私は個人的に振られた経験が多いせいか、断られてもそこまで凹むことはなく、「次いこ、次」と思えるタイプだったのは幸いでした。

なお、投資家の方々についても一言だけいわせて頂くと、断り方は大事だと感じています。先述の通り、資金調達は担保もなしに、「将来に賭けて大事な資金を拠出してください」とお願いしてまわるものなので、断られて当然だという認識で臨んでいます。そのため、断られること自体に悪印象はなく、逆に丁寧なフィードバックを頂けたりすると好感度が上がり、「次こそは」と思ったりします。逆に一番困るのは返信/音沙汰なしのパターンで、NDAの話になった瞬間に音信不通になるとか、ピッチ後にメールベースでやり取りしようという話になったはずなのに、メールしたら一切返信がなかったりということも極少数ながらありました。「ただ見送りと一言頂ければこちらとしても次に進みやすいのにな」とも思いますし、「情報だけ抜かれたのかな」と思うとやはり残念な気持ちになります。

④ Execution Excellence

資金調達は着金を確認して、登記するまでが資金調達です。意思決定頂けたとしても1円も振り込まれないようでは意味がありません。そのため、(特に市況がダウントレンドのときは)意思決定頂いた後、クロージングまでの時間軸をどれだけ短くできるかが勝負です。その間にどんな落とし穴があるか分かりません。市場の大暴落があるかもしれないし、大地震が起きるかもしれない。

特に契約書類については先手先手で準備をしておき、後は署名頁を収集するだけという状態に早いタイミングで持っていくことが重要です。当然ながら、取締役会・株主総会の招集や委任状・Waiver Letterの収集もスケジュールを逆算して動く必要があります。そしてこの辺りの実務を投資家と交渉しながら完璧にこなすことは、余程充実したコーポレート部門があるなら兎も角、通常のスタートアップではほぼ不可能です。そこで信頼できるリーガルの先生と足並みを揃えることが重要になります。前回のnoteにも書きましたが、Execution Excellenceはとても重要です。当社も今回は、私が個人的にお仕事をご一緒させて頂いた経験があり、ファイナンスにおいて全幅の信頼を置いている森・濱田松本法律事務所の飯島先生にお願いしました。お陰で一切のストレスなくExecutionを進めることができ、やはりスタートアップファイナンスにおける特有論点をしっかりと押さえ、シリコンバレーの潮流も把握されている先生とタッグを組むのがとても大事だと実感しています。なお、当社規模で四大にお願いしているというと一部の方からは(恐らく費用という観点で)驚かれるのですが、実際のところ他所と比べて費用水準は遜色ないと感じております。むしろプラクティスが溜まっており、論点が絞られることから手戻りもなく、結果としてチャージタイムも少なくなっているのではないでしょうか。

DDについても、回答の質・スピードがチケットサイズに影響することがありますので、気を抜かずに対応することが大事です。当社の場合、DD対応においてはチームがIBDでの対応経験を有しており多分に有利(投資家がどのような回答を欲しがるか、ある程度の目途がついていることはとても大事)だったのはありますが、それ以上に他部門からフルサポートを取り付けられたことが大きかったです。管理部門だけで対応しようとした場合、間違いなく投資家を納得させる回答を揃えることは難しかったでしょう。やはり業務について一番よく知っているのは日々現場で業務にあたっているビジネスサイドのメンバーです。実際に私も当社CPOの回答を見て、プロダクトオーナーとしての洞察や見識に驚かされました。管理部門とビジネス部門の関係はときに数字を詰める・詰められるような緊迫したものになり、協力体制が十分でないことがあるかもしれません。とても勿体ないことです。やはり、CFOという立場でも他CxO、他部門と良好な関係を築いておく(馴れ合いとは違う)ことは重要だと感じます。少し話は逸れますが、今回の資金調達では社内のデザイナーにピッチブックのデザインをお願いしたり、プレスリリース作成・配信戦略策定を広報にお願いした結果、私がやるよりも遥かに素晴らしいものができあがり、社内リソース充実の効用を存分に享受することができました。他部門との連携によるレバレッジ効果を痛感しています。

末筆にはなりましたが、絶対に触れておきたいのはチームへの感謝です。Execution Excellenceを担保する上で何よりも大事なのはチーム力です。私が今回ファイナンスにリソースを全投下できたのも背中を支えてくれるチームがあったからこそでした。ピッチ資料にしろ、Valuation Deckにしろ、DD回答の取りまとめにしろ、実際に各種KPIを集計し、手を動かしてくれる財務部長なくしては完成も覚束なかった(「ここは太字にしろ」と本人から強く要求されました)でしょう。経理チームは求める数字を正確且つ迅速に出してくれ、何よりもファイナンス期間中に月次締めを1営業日縮めてくれました。全社合宿の実施や派遣業取得、労務DDと同時並行しながらです。前回のnoteにも書きましたが、着任以降まず着手したのがチームビルディングでした。この決断は間違っていなかったし、何よりも意味のある投資だったと確信しています。


Last but not least, we're hiring!

当社は前回の資金調達以降、資本政策の再整理から始めたため、足掛け半年の資金調達プロジェクトとなりました。その間に様々なことが起こりましたし、多くの投資家の皆様と面談させて頂きました。勉強になった点も、反省点も、「今だったらもっとこうするな」という点も沢山ありましたが、それら全て含めて、Equity Storyのブラッシュアップや自社の強みの再整理に繋がりました。やはり資金調達は会社のレベルを引き上げるなと感じています。

そして当社では、そんなレベルが一段上がった船に乗って、全速力で航海を共に楽しんでくれる方を募集中です。当社は恐ろしい程、人に任せる会社です。実際に今回の資金調達においても社長の中村は相当なフリーハンドを持たせてくれました。これがどれだけありがたかったか。普通、社長として、社運を賭けた資金調達にはあれこれと言いたくなるものだと思います。それでも信頼して下駄を預けてくれた。そんな社風に興味をお持ち頂ける方は、是非下記ページをチェックしてみてください。

今回投資家からお預かりした資本を梃子に、当社はさらに成長を加速させていきます。ご一読頂き、ありがとうございました。


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