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bashoの夏

・8月が終わった
今年の夏は、今までの人生の中でもトップレベルに暑かったかもしれない。

7月いっぱいまで日本列島を覆っていた梅雨の空は、最後の週くらいに慟哭のような大雨を降らして、その後に急激な日照りと夏の空気をもたらした。
未曾有のウイルスの影響により、外にいる間は風の谷のナウシカよろしくマスクをせざるを得なくなった我々の日常は、この2020年8月のムードとかなり相性が悪かった。
猛暑の中のマスクは誰だってぶっ倒れそうになるくらい暑い。
横浜も例外なく夏の洗礼を受け、行き交う人々は皆一様にマスクの中で飛び出そうになる不平不満を奥歯で噛み潰しながら、ソーシャルディスタンスとは名ばかりな乗車率の電車内で、一言も発さずスマートフォンに目を落とす。

そして今年の夏は、今までの人生の中でもトップレベルにライブをしない夏でもあった。
Orca-Lucaの新しい作品「basho」は、そんな真夏の最中、産み落とされた。

・natsu-basho
8/27、今年2枚目の音源となるOrca-Lucaの新譜、「basho」がデジタルリリースされた。
春の音源「hayate」から約3ヶ月というスパン。
今までの自分からは考えられない期間で作品を作る必要があったため、前もって計画的に制作を進めなければ、とバンドメンバーと共に意気揚々と作戦を練ってはいたが、案の定、全然計画通りにはいかなかった。
とにかく曲が出来ない。というより歌詞が出てこない。

今作に関しては「音」の面だけで言うと本当に滞りなくて、曲のアレンジメント、録音とミックス・マスタリング工程と、前作の経験を踏まえて非常にスムーズに事が進んでいった。
こればっかりは本当にエンジニアを担当してくれたgaze//he's meの手腕がでかすぎた。本当何から何までありがとうという気持ちしかない。

しかし、その前段階である、俺が一番頑張らなきゃいけない楽曲の核部分を作っていく作業がとにかくギリギリまで押した。
EP1曲目に入ってる「Polestar」と言う曲も歌詞込みで出来上がったのが7月頭、5曲目の「前日」という短い曲はアイデアそのものが7/20に発案、大体の質感が出来上がったのが7/28くらい?と訳わからんくらいのカツカツっぷり。

まるであっという間に過ぎ去っていく夏そのものだなぁ、と今では思ってる。(次回からはもっともっと余裕もって進めたいね…)
でもそのおかげかどうか知らないけれど、今までのOrca-Lucaにはなかった方法論も取り入れた、いわゆる「自信作」が出来たと俺らの中では思ってるから、軽くセルフライナーノーツ的なものをここに書き記していこうと思う。
あくまでも聴いてくれる皆さんの世界は壊したくないので、多くは語らないけれど。皆さんの感じてくれた感情の機微こそが本質だと思うので。

・芭蕉
毎度おなじみサポートベース後藤マサヒロによるSEから、bashoの物語は幕を開けます。(Orca-Lucaはサポートベースがマインド高すぎるので曲作ってくれます)
今回は夏感溢れるチルなビートのトラック調に仕上げてくれました。
ミックスの段階でゲーズ君(←徹夜明けで精神崩壊寸前だった)発案の元ギターを重ねたり、ノイズを入れたりして印象がさらにぐっと変わっていったのをすごく覚えている。
メロディの音色はサイン波がいいねとか、ギターのリバース音入れて次の曲に繋ぐとか、結構細かいところまで突き詰めていったなぁ
この曲作った時の心境は後藤君にそれこそnoteの記事かなんかで書いて欲しいよな。

・Polestar
2曲目。本当に制作がやばい、というエグい精神状態の中作ってた曲。
EPの候補曲を並べていくうちに、「Superblueとかハートビートに乗っかってみたいな“ど真ん中”って感じのやつが欲しいよね」という話題になり、「一番難しいやつやん…?」となりながら、せこせこ夜を消費して作っていた気がする。かなり今までのOrca-Lucaって顔をしてる曲。

あなたと私は、何なら他の皆も、好きとか愛してるとかでは埋められない自分だけの「孤独」を一生所持していて、そこには何の介入も一切できない。
でもその孤独に介入できないならせめて、同じようにキラキラと孤独を輝かせるから、光を頼りに隣にいさせて欲しい、というようなイメージから、私の寂しさが大爆発した結果生まれました。
すごく気に入っています。前ちゃんとのハーモニーがとっても綺麗。

・Anti Majority Teenage Riot
この曲は去年くらいのライブの時から結構やってた(しかも反響多かった)曲なので、あらかた出来上がってる状態でレコーディングを迎えられた。
hayateができた時にはすでに「これは夏音源行きの曲だな」というイメージがメンバー内で固まってたなぁ。
アンチマジョリティ、とか語ってはいるけど、つまるところ「誰が何言ってこようが、自分の感情は自分だけのものだよ」ということを終始歌うだけの曲です。
こういう真っ正直な四つ打ちビートの曲本当に久々に書きました。
あと、とにかくギターの音をクソデカで治安悪い感じに録りたくて、ゲーズ君とキャーキャー言いながらレコーディングしたのを覚えてる。
歌録りは調子良かったのでほぼ1テイクで終わりましたし、ラストのハードコア的スクリームはエンジニアのゲーズ君が命を削って叫んでくれました。
すごく気に入っています。

・ニルヴァーナ
かつて、下北沢Queで行われた、1日限定のバンドを組み30分のライブをするという企画「バンドのやりかた」というイベントで、俺は現Orca-Lucaドラムのマエダミホと、akemiというバンドのベースであるかをりさんと共にhanakotobaというバンドを組んで、5曲入りのデモCDを宅録で作ってライブし物販で売りました。
その時に作ったうちの一曲で、あまりの反響の良さに最後アンコールでもう一回歌ったのがこのニルヴァーナで、今思うとhanakotobaはOrca-Lucaの原型になるバンドだったんだと思います。
基本的には俺の高校時代の原風景で構成されています。ニルヴァーナなのでアレンジも、そんな感じになっています。ギターソロの音色作りにめちゃ苦戦したな…
すごく気に入っています。

・前日
突然やってくる短い弾き語りの曲。次曲「陽炎だけ」につながる重要なインタールードです。
アルバムレコーディングももう始まるかというタイミングで、「短い弾き語りの曲を入れたい(しかし曲のアイデアはない)」と突然思いつく己の自由さに辟易しましたが、結果すげーいい曲ができたと思う。
普通、こういう曲はギターと歌を別で録るのですが、この曲はとにかくルーズな、家にいる感じ、みたいなものを取り入れたかったので、ガチでアコギと歌のみの一発弾き語りを俺の自宅の部屋で録って、それをゲーズ君に送るというラフさで挑みました。
あえて極端にローファイにする事でものすごく味わいが出たと思う。
ずっと鳴ってる虫の音は、後藤君がマジで外の虫の音を録音して合わせてくれました。サポート精神が尋常じゃない。愛してるよ

・陽炎だけ
EPの最後を飾る曲。前作より続くlo-fi hiphop枠の系譜ですが、より俺らの作り出したいバンド感とのバランスがしっかりと出せたんじゃないかと手応えを感じています。それとこういう切ない曲が作品の最後に流れるっていうのが今までなかったかなって思う。
曲自体はもう今年の3月くらいからすでに種として存在はしていたのだけど、歌詞の世界観がビッタリ決まってからは一気に芽吹いて綺麗な花になった子でした。
1サビの「痣をつけるように夜を汚した」ってえっちぃ一節が出てきてくれたので、曲全体のムードが非常に湿度の高い夏になってくれたのが嬉しかったな。
あとわかりづらいかもしれないけど、歌詞の一番は男の子の目線、二番が女の子の目線になっています。
すごく気に入っています。

・そんな感じで
今年の夏はbashoを生み出すための夏だったんだと思います。
改めて、新譜「basho」を末長く愛してやっていただけると嬉しいです。

配信ページはこちらから


ライブがない中でも、こうして音楽できるのは本当に幸せだ。
発表された通り、秋と冬にもこのシーズンEPはリリースしていくので、お楽しみに、ね。

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