COVID-19情報:2023.06.05

皆様

本日のCOVID-19情報を共有します。

本日の論文は、Clinical Infectious Diseases(CID),Science, Natureより各1編ずつです。

まず、CIDですが、研究の優先順位と公衆衛生政策に情報を提供するために、COVID-19(コロナウイルス病)で入院した成人の疫学状況の変化を理解することを目的とした米国の研究です。COVID-19の初期に入院した成人と比較して、オミクロン株COVID-19に入院した成人は、高齢で複数の併存疾患があり、ワクチン接種を受けている可能性が高く、重症呼吸器疾患、全身炎症、凝固障害、死亡を経験する可能性は低かったとのことです。オミクロン株が、上気道中心に繁殖し、下気道への展開が苦手という知見に本研究の結果は、Natureが2,020年1月頃に論じていた内容と当然のことながら合致しています。
Scienceは、アカゲザルのオミクロンBA.5チャレンジに対する3種類のブースターワクチン(mRNA-1273、ノババックスの祖先スパイクタンパク質ワクチン(NVX-CoV2373)、オミクロンBA.1スパイクタンパク質バージョン(NVX-CoV2515)の効力を比較した研究です。SARS-CoV-2 BA.5変異株によるチャレンジの後、3つのワクチンはいずれも肺で強い防御を示し、鼻咽頭でのウイルス複製を制御しました。さらに、ノババックスの両ワクチンは、2日目に鼻咽頭でのウイルス複製を鈍化させました。上気道におけるSARS-CoV-2 BA.5感染に対する防御は、血清抗体の結合、中和、ADNP活性と相関していました。
Natureでは、5月21日から30日までジュネーブで開催された世界保健総会(WHA)で配布された世界的なパンデミックに関する条約の最新草案が、期待に応えていないことが明らかになったことを論じたNature Newsです。この条約文書は、COVID-19パンデミックの抑制に失敗したことを受け、各国が将来の大流行に対してより良い備えをすることを目的として作成されました。知財放棄に関して議論されていますが、グローバルヘルス研究者達の声が非常に納得の行く内容ですので、全訳に近い形で記載します。

報道に関しては、じっくりと目を通すべき記事が充実しています。
特に、「驚愕の感染力「はしか」40歳働き盛りが1番危ない 無料でワクチン打てる人、自費でも打つべき人」は論の展開が明快で必読です。
また、子どものワクチン全般に関する信頼度の低下が報じられている日経記事が必読です。調査対象55カ国中52カ国で、子どものワクチン接種を「重要」と考える人が新型コロナの流行前と比べ大幅に減少しており、ワクチンの優等生国である韓国において、40ポイント以上の大幅減となっているそうです。
また、「13%の子どもに抑うつ傾向 コロナ禍の影響「回復に時間」」との共同通信の記事も気になりますし、「初夏なのにインフル流行 「コロナ下で免疫低下」見方も:日本経済新聞」も必読記事です。
首都圏の小児科外来で張り付いていると、未だにインフルAがダラダラと流行している現象があり、この記事には納得が行きます。

高橋謙造

1)論文関連     
Clinical Infectious Diseases(CID)
Changing Severity and Epidemiology of Adults Hospitalized With Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in the United States After Introduction of COVID-19 Vaccines, March 2021–August 2022

*研究の優先順位と公衆衛生政策に情報を提供するために、COVID-19(コロナウイルス病)で入院した成人の疫学状況の変化を理解することを目的とした米国の研究です。
2021年3月11日から2022年8月31日の間に、18州の21病院で検査室で確認された急性COVID-19で入院した成人(≧18歳)のうち、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)オミクロン優位性期間(BA.1、BA.2、BA.4/BA.5)の入院者とそれまでのアルファ優位性期間とデルタ優位性期間における入院者の比較検討を行いました。人口統計学的特徴、入院24時間以内のバイオマーカー、酸素吸入や死亡を含む転帰を評価しています。
9825人の患者のうち、年齢中央値(四分位範囲[IQR])は60歳(47-72)、47%が女性、21%が非ヒスパニック系の黒人でした。アルファ優勢期(2021年3月~7月、N=1312)からオミクロンBA.4/BA.5亜型優勢期(2022年6月~8月、N=1307)まで:基礎疾患が4項目以上ある患者の割合は11%から21%に増加、少なくとも1次COVID-19ワクチンシリーズの接種を受けている患者は7%から67%、75歳以上の患者は11%から33%、補助酸素を受けていない患者は18%から42%に増加しました。C反応性蛋白とDダイマーの最高濃度の中央値(IQR)は、それぞれ42.0 mg/L(9.9-122.0)→11.5 mg/L(2.7-42.8),3.1 mcg/mL(0.8-640.0)→1.0 mcg/mL(0.5-2.2) へ減少しました。院内死亡は、Delta優勢期に12%とピークに達し、BA.4/BA.5優勢期には4%まで減少しました。
COVID-19の初期に入院した成人と比較して、オミクロン株COVID-19に入院した成人は、高齢で複数の併存疾患があり、ワクチン接種を受けている可能性が高く、重症呼吸器疾患、全身炎症、凝固障害、死亡を経験する可能性は低かったとのことです。
*何を今更という印象を持たれる論文ですが、これまでに出てきていた知見を裏打ちするものであるように考えます。
オミクロン株が、上気道中心に繁殖し、下気道への展開が苦手という知見に本研究の結果は合致しています。
Omicron’s feeble attack on the lungs could make it less dangerous(2022.01.07配信分)
https://www.nature.com/articles/d41586-022-00007-8
Attenuated replication and pathogenicity of SARS-CoV-2 B.1.1.529 Omicron(2022.01.24配信分)
https://www.nature.com/articles/s41586-022-04442-5

Science
Efficacy of mRNA-1273 and Novavax ancestral or BA.1 spike booster vaccines against SARS-CoV-2 BA.5 infection in non-human primates

https://www.science.org/doi/10.1126/sciimmunol.adg7015

*アカゲザルのオミクロンBA.5チャレンジに対する3種類のブースターワクチン(mRNA-1273、ノババックスの祖先スパイクタンパク質ワクチン(NVX-CoV2373)、オミクロンBA.1スパイクタンパク質バージョン(NVX-CoV2515)の効力を比較した研究です。
3種類のブースターワクチンはすべて、強いBA.1交差反応性結合抗体を誘導し、血清中の免疫グロブリンGの優位性をIgG1からIgG4へと変化させました。また、3種類のブースターワクチンはすべて、骨髄の長寿プラズマ細胞とともに、BA.5やBQ.1.1など懸念される複数の株に対する強力かつ同等の中和抗体応答を誘導しました。血中のBA.1対WA-1スパイク特異的抗体分泌細胞の比率は、NVX-CoV2515動物ではNVX-CoV2373動物と比較して高く、祖先のスパイク特異的ワクチンと比較してBA.1スパイク特異的ワクチンによってBA.1特異的メモリーB細胞がよりよく呼び出されることが示唆されました。さらに、3つのブースターワクチンはすべて、血中ではCD8 T細胞ではなく、スパイク特異的なCD4 T細胞応答を低レベルで誘導しました。SARS-CoV-2 BA.5変異株によるチャレンジの後、3つのワクチンはいずれも肺で強い防御を示し、鼻咽頭でのウイルス複製を制御しました。さらに、ノババックスの両ワクチンは、2日目に鼻咽頭でのウイルス複製を鈍化させました。上気道におけるSARS-CoV-2 BA.5感染に対する防御は、血清抗体の結合、中和、ADNP活性と相関していました。
これらのデータは、鼻咽頭ウイルスを低下させるワクチンは、感染を減らすのに役立つと考えられる、COVID-19ワクチン開発にとって重要な意味を持つとのことです。

Nature
Global plan for dealing with next pandemic just got weaker, critics say

*5月21日から30日までジュネーブで開催された世界保健総会(WHA)で配布された世界的なパンデミックに関する条約の最新草案が、期待に応えていないことが明らかになったことを論じたNature Newsです。この文書は、COVID-19パンデミックの抑制に失敗したことを受け、各国が将来の大流行に対してより良い備えをすることを目的として作成されました。知財放棄に関して議論されていますが、グローバルヘルス研究者達の声が非常に納得の行く内容ですので、全訳に近い形で記載します。
・今回の草案では、以前の草案と比較して、非常に大幅な文言の削減が行われた(スイスのジュネーブ大学院スエリ・ムーン氏)。
・「以前の野心的な草案では、各国が将来のパンデミックにどう対応すべきかが、"shall "や "will "などの言葉を頻繁に使って説明されていたが、現在はその一部が "urg "やsupport "に変化しているという。例えば、「適宜」というフレーズは47回登場します。これは、協定に署名することになっている世界保健機関(WHO)の加盟国に、集団行動よりも国益を優先させる能力を与えることになる(サイモン・フレーザー大学、ケリー・リー氏)。と彼女は言っています。
◯メッセージの希薄化
・「パンデミック条約」は、2021年12月、WHOの加盟国が「パンデミックの予防、準備、対応を強化する」ための「条約、協定、その他の国際文書」を作成することを決議したときから進められて来ており、ゼロドラフトと呼ばれる暫定版では、将来の流行時にワクチン、医薬品、診断薬を共有することによる公平性の促進や、アウトブレイクにつながる可能性のある病原体の世界的な監視の強化に重点が置かれていた。特に、WHOは、高所得国によるCOVID-19ワクチンの買い占めを繰り返し非難しており、公平性は重要な課題となっています。
・ゼロドラフトでは、パンデミック時に知的財産権を一時的に免除し、ワクチンなどの製造を促進することを加盟国に求めており、また、パンデミック関連製品の開発を目的とした研究に公的資金を提供する場合、加盟国は、流行が起きた際にそれらの製品へのアクセスを容易にする条件を含めるべきとしていた。
・ジュネーブのメディアHealth Policy Watchが入手した新しい草案(WHOでは未発表)は、指針として公平性を維持しているが、公平性をどのように達成するのかについてはあまり明確になっていないと批判されている。公的資金投入の条件に関する記述は消えている。また、草案には、交渉再開時に、知的財産権の放棄に関する文言を完全に削除するオプションも含まれている。
・パンデミック時に知的財産権を放棄する文言を条約に盛り込むことが不可欠であり、このような仕組みがないことが、COVID-19に対する3つの最も重要な医療対策であるワクチン、診断薬、治療薬が、一部の国でまだ利用できない主な理由の1つである(南アフリカ共和国エイズ計画研究センターサリム・アブドゥール・カリム氏)。
・「この水増しされた草案に至るまでには、さまざまな業界の商業関係者による激しいロビー活動があったことは間違いない。市場主導のプロセスだけでは、パンデミック関連製品への公平なアクセスにつながらないことは、COVID-19のパンデミックの際に経験済みです」」(サイモン・フレーザー大学、ケリー・リー氏)。製薬業界は、治療法の開発に必要な資源、時間、ノウハウを理由に、知的財産権を断固として擁護している。
◯主権をめぐる問題
・WHOのTedros Adhanom Ghebreyesus事務局長は、WHAでの閉会挨拶で、この世界的合意について加盟国間で流布されている誤った情報に対抗する必要性に言及した。例えば、米国では、この条約がパンデミック時に米国の政策に対する権限をWHOに与えるという主張がソーシャルメディアユーザーによって増幅された。「この協定がWHOに権限を与えるという考えは、単なるフェイクニュースです」。WHOは加盟国によって財政的に支えられており、コンプライアンスを強制する直接的なメカニズムは持っていない。
・カリム氏によれば、この文書では、個々の国の主権が指導原理として保護されている。この協定は、勧告をすべて採用することを各国に強制するものではなく、相互利益によって協力を促すことを目的としてる。例えば、高所得国がワクチンなどの資源を共有することで遵守すれば、低・中所得国も疫学データを共有しやすくなり、すべての人に利益をもたらすパンデミック予防戦略を強化することができる。
・一方で、この協定には、各国の責任を追及するためのより強力なメカニズムが必要だという声もある。最新の草案では、各国の透明性への意欲や、独立した専門家からなる委員会が協定に従わない国を指摘することに過度に依存していると指摘し、「危機の最中、政府は自分たちのやりたいことをやるものであり、もし協定にもっと拘束力のある文言、つまり「名指しで恥をかかせることや情報の透明性よりももっと強力なもの」がなければ、次の危機に備えることはできないだろう」という(スイスのジュネーブ大学院スエリ・ムーン氏)。
・しかし、まだ修正する時間はある。協定の起草を担当する政府間交渉機関は、6月11日に再び会合を開き、さらに1週間の考察を行う予定であり、そしてその後、2024年5月に開催される次回のWHAでWHO加盟国が投票し、署名する可能性のある協定を最終決定する前に、さらに数回の交渉が行われる予定である。 

2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     
驚愕の感染力「はしか」40歳働き盛りが1番危ない 無料でワクチン打てる人、自費でも打つべき人
https://toyokeizai.net/articles/-/675321

ワクチン辞退者隔離 消防本部「要請は必要だった」 再検証の方針 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230602/k00/00m/040/444000c
*消防で「おかしい」と言えないのか 未接種者を隔離、元消防の記者は
https://www.asahi.com/articles/ASR6273LVR62PTJB00N.html

海外     
子どもの予防接種、信頼感が大幅低下 感染症流行に懸念:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB247T00U3A420C2000000/
*「国連児童基金(ユニセフ)が4月に発表した報告書によると、調査対象の55カ国中52カ国で、子どものワクチン接種を「重要」と考える人が新型コロナの流行前と比べ大幅に減少した。韓国やパプアニューギニアで40ポイント以上の大幅減となった。ガーナ、セネガルのほか、日本も30ポイント以上減った。途上国で減少が著しい。」

治療薬      

3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     

Long COVID
13%の子どもに抑うつ傾向 コロナ禍の影響「回復に時間」
https://nordot.app/1038023938118927316
*「国立成育医療研究センターは4日までに、新型コロナウイルス禍の影響で、子どもの13%に昨年10月時点で抑うつ傾向が見られたとする調査結果を発表した。当時より行動制限は緩和されているが、心や体の状態が回復するのに時間がかかる子どももいるとみられ、注意を呼びかけている。
 センター社会医学研究部の森崎菜穂部長は「大人は子どもに一層目を向け、話を聞いてあげてほしい」と述べた。」

国内        
初夏なのにインフル流行 「コロナ下で免疫低下」見方も:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF269WU0W3A520C2000000/
*インフルエンザが季節外れの流行、コロナ禍で免疫低下か…10年ぶりに流行継続
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20230604-OYT1T50112/

海外       

4)対策関連
国内      

海外       

5)社会・経済関連     
東京都のコロナ無料検査事業、不正申請183億円:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC02BSM0S3A600C2000000/

都陽性者登録センターの派遣職員 感染者の個人情報持ち出し - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230602/k00/00m/040/333000c


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