COVID-19情報:2023.10.25

皆様

本日のCOVID-19情報を共有します。

本日の論文は、JAMA系列より3編、Scientific Reportsより1編です。
JAMAの1編目は、CCC(Child Care Centers)に通う小児(生徒)とその保育者(CCP: Child care providers)および家庭内接触者におけるSARS-CoV-2の発生率および伝播の特徴を明らかにすることを目的とした前向きサーベイランスコホート研究です。CCCと学生の家庭におけるSARS-CoV-2の発生と伝播に関するこの研究では、CCC内およびCCCで感染した小児から家庭への伝播は少ない状況でした。
2編目は、妊娠中の母親のmRNA COVID-19ワクチン接種が、新生児および早期乳児の有害転帰と関連するかどうかを明らかにすることを目的とした集団ベースのレトロスペクティブコホート研究です。カナダのオンタリオ州におけるこの集団ベースのコホート研究において、妊娠中の母親のmRNA COVID-19ワクチン接種は、SNM、新生児死亡、およびNICU入院のリスクの低下と関連していました。さらに、妊娠中にワクチン接種を受けた母親の乳児では、新生児期および6ヵ月の再入院は増加しませんでした。
3編目は、特定の危険因子(糖尿病など)を持つ患者の急性疾患に対する第一選択薬および第二選択薬として推奨されている抗ウイルス薬のニルマトルビル(パクスロビド[ファイザー]として販売、リトナビルとの併用)とモルヌピラビル(ラゲブリオ[マーチ])に関して、メディケアに加入している高齢患者を対象に、PCC(Post–COVID-19)における2剤の後遺症のリスク減少を検証したコホート研究です。ニルマトルビルおよびモルヌピラビルはPCC発症率のわずかな減少に関連することがわかりました。

Scientific Reports論文は、エアロゾルの動態とウイルス曝露リスクとの関連を、特に移動中や対面での相互作用に関して調査した研究です。レーザーシートと高速度カメラを用いた粒子追跡速度計を用いたヒトのマネキンの口から出る微小粒子の測定により、対面時のウイルス暴露リスクのピークは、換気・非換気ともに5秒以内でした。

報道に関しては、毎日が「コロナ感染リスク、すれ違いざまは5秒以内でピークに 筑波大チーム」という記事を出していますが、論文の出典がサイエンティフィック・リポーツであるということ以外には、具体的な論文リンク等も示していません。海外メディアなら必ず論文リンクが示されますが、この習慣が毎日にはないようです。科学的リテラシーが低いことの証左です。基本的科学教育を受けていない記者の記事でしょう。

高橋謙造

1)論文関連      
JAMA
Incidence and Transmission of SARS-CoV-2 in US Child Care Centers After COVID-19 Vaccines

*CCC(Child Care Centers)に通う小児(生徒)とその保育者(CCP: Child care providers)および家庭内接触者におけるSARS-CoV-2の発生率および伝播の特徴を明らかにすることを目的とした前向きサーベイランスコホート研究です。
2021年4月22日から2022年3月31日まで実施され、2都市の11のCCCを対象としました。CCPおよび生徒のサブセット(サーベイランス群)は、積極的サーベイランス(週1回の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応[RT-PCR]スワブ、症状日誌、オプションのベースラインおよび試験終了時のSARS-CoV-2血清学的検査)に参加し、サーベイランス生徒の家庭内接触者全員も参加しました。保育所の責任者は、すべてのCCPおよび生徒から、毎週、非識別化された自己報告COVID-19症例を報告しました(自己報告群)。
主要アウトカムは、 SARS-CoV-2の発生率、二次発作率、および伝播パターンを、日記、CCC所長への自己報告、および症例記録から決定しました。罹患率比は、ランダム切片と非構造化行列を用いたセンターでのポアソン回帰クラスタリングを用いて測定しました。
センター長に症例を自己申告した学生1154人とCCP402人の合計集団から、学生83人(7.2%;平均年齢[SD]3.86[1.64]歳;男性55人[66%])、その家庭内接触者134人(成人118人[平均年齢[SD]38.39(5.07)歳、女性62人(53%)]、小児16人[平均(SD)年齢、4.73(3.37)歳、女性8人(50%)]、CCP21人(5.2%、平均(SD)年齢、38.5[12.9]歳、女性18人(86%))が週1回の積極的サーベイランスに参加しました。SARS-CoV-2のRT-PCR陽性または家庭内抗原陽性と定義された学生症例は154例(13%)、CCP症例は87例(22%)でした。サーベイランスの学生は自己申告の学生よりも発症率が高く(発症率比、1.9;95%CI、1.1-3.3;P = 0.01)、学生はCCPよりも無症候性感染の可能性が高くなっていました(34% vs 8%、P < 0.001)。CCCの二次感染率は2.7%~3.0%であり、上限の範囲は二次感染の可能性はあるが確定的ではない症例でした。指標となる症例が学生であってもCCPであっても、CCC内での伝播に有意差はありませんでした。世帯累積罹患率は20.5%で、罹患率比に成人と小児の間に有意差はありませんでした。家庭内二次感染率は小児で50%、成人で67%であり、家庭内感染30例のうち、5例(17%)のみがCCCからSARS-CoV-2を獲得した3人の学生による二次感染でした。調査前後の血清有病率はそれぞれ3%と22%で、抗原またはRT-PCRの結果との一致率は90%でした。
CCCと学生の家庭におけるSARS-CoV-2の発生と伝播に関するこの研究では、CCC内およびCCCで感染した小児から家庭への伝播は少ない状況でした。これらの所見から、CCCにおけるSARS-CoV-2に対する現行の検査および排除勧告は、同様の罹患率で家庭への伝播の大きい他の呼吸器系ウイルスに対するものと一致させるべきであることが示唆されるとの事です。

Newborn and Early Infant Outcomes Following Maternal COVID-19 Vaccination During Pregnancy

*妊娠中の母親のmRNA COVID-19ワクチン接種が、新生児および早期乳児の有害転帰と関連するかどうかを明らかにすることを目的とした集団ベースのレトロスペクティブコホート研究です。
カナダのオンタリオ州で、リンクされた複数の医療行政データベースを用いて行われました。2021年5月1日~2022年9月2日の間に出産予定日のある単胎児を対象としました。2023年1月から2023年3月までのデータを解析しています。
妊娠中の母親のmRNA COVID-19ワクチン接種(1回以上)を暴露とし、主要アウトカムは、重症新生児罹患率(SNM: Severe neonatal morbidity )、新生児死亡、新生児集中治療室(NICU)入院、新生児再入院、生後6ヵ月までの入院としました。研究チームは、治療の逆確率加重リスク比(RR: Risk Ratio)を算出し、妊娠中にCOVID-19ワクチン接種を受けた母親の乳児と出産前にCOVID-19ワクチン接種を受けなかった母親の乳児の転帰を比較する加重Cox比例ハザード回帰モデルを当てはめました。
合計142,006人の乳児(男性72 595人[51%];出生時の平均[SD]妊娠週数38.7[1.7]週)が対象となり、85,670人が胎内で1回以上のCOVID-19ワクチン接種を受けました(60%)。ワクチン接種を受けた母親の乳児は、SNM(ワクチン曝露7.3% vs ワクチン非曝露8.3%;調整RR[aRR]、0.86;95%CI、0.83-0.90)、新生児死亡(0.09% vs 0.16%;aRR、0.47;95%CI、0.33-0.65)、NICU入室(11.4% vs 13.1%;aRR、0.86;95%CI、0.83-0.89)とリスクが低くなっていました。妊娠中の母親のワクチン接種と新生児再入院(5.5% vs 5.1%;調整後ハザード比、1.03;95%CI、0.98-1.09)および6ヵ月入院(8.4% vs 8.1%;調整後ハザード比、1.01;95%CI、0.96-1.05)との関連は認められませんでした。
カナダのオンタリオ州におけるこの集団ベースのコホート研究において、妊娠中の母親のmRNA COVID-19ワクチン接種は、SNM、新生児死亡、およびNICU入院のリスクの低下と関連していました。さらに、妊娠中にワクチン接種を受けた母親の乳児では、新生児期および6ヵ月の再入院は増加しませんでした。

Nirmatrelvir and Molnupiravir and Post–COVID-19 Condition in Older Patients

*特定の危険因子(糖尿病など)を持つ患者の急性疾患に対する第一選択薬および第二選択薬として推奨されている抗ウイルス薬のニルマトルビル(パクスロビド[ファイザー]として販売、リトナビルとの併用)とモルヌピラビル(ラゲブリオ[マーチ])に関して、メディケアに加入している高齢患者を対象に、PCC(Post–COVID-19)における2剤の後遺症のリスク減少を検証したコホート研究です。米国の退役軍人(ほとんどが男性)を対象とした最近の研究では、ニルマトルビルとモルヌピラビルがCOVID-19のいくつかの後遺症のリスクを減少させることが示唆されています。
コホートは、2022年1月から9月までにCOVID-19と診断された65歳以上のメディケア加入者から得られました。COVID-19は外来での国際疾病統計分類第10版臨床修正コードU07.1で同定されました。2022年1月に、無料の在宅COVID-19検査が利用可能になり、すべての陽性自己検査がメディケアのデータに捕捉されたわけではなくなったため、ニルマトルビルまたはモルヌピラビルの処方も、他の適応症が存在しないため、COVID-19を示すものと考えました。感染後4~12週間の間に11の症状が新たに出現した場合(COVID-19の診断前に出現していなかった場合)をPCCとみなしました。傾向スコア調整による拡張Cox回帰を用いて、2種類の薬剤とPCC発症率を検討しました。メディケアのデータに含まれる共変量として、年齢、性別、人種、地域、二重資格、低所得者補助、および51の慢性合併症を含めました。
全体として、COVID-19の外来患者3,975,690人のうち、57%が除外後も本研究に残りました。そのうち19.5%がニルマトルビルを投与され、2.6%がモルヌピラビルを投与されました。PCC発症率はニルマトルビル投与群で11.8%,モルヌピラビル投与群で13.7%,両群とも14.5%であり,絶対リスク減少率はニルマトルビル投与群で2.7%,モルヌピラビル投与群で0.8%であり、無治療と比較したハザード比(HR)はニルマトルビルで0.87(95%CI、0.86-0.88;P<0.001)、モルヌピラビルで0.92(95%CI、0.90-0.94;P<0.001)でした。COVID-19コードを有する患者のみを対象とした感度分析でも同様のパターンが示されたが、効果量は小さく(ニルマトルビル:HR、0.93[95%CI、0.92-0.94;P<0.001]、モルヌピラビル:HR、0.96[95%CI、0.93-0.99;P=0.001])、交互作用解析では、男性よりも女性で有意に小さい効果サイズが認められました(ニルマトルビルのHR:0.89 vs 0.84;モルヌピラビルのHR:0.95 vs 0.88)。女性の性;アジア系、黒人、ヒスパニック系の人種;および低所得の指標は、PCCリスクの増加と関連していました。PCCで最も多かった症状は、疲労(29.9%)、呼吸困難(22.4%)、咳(21%)でした。
ニルマトルビルおよびモルヌピラビルはPCC発症率のわずかな減少に関連することがわかりました。今回のエフェクトサイズは先行研究であるXieらのものよりも小さいが(絶対リスク減少、ニルマトレルビル4.5%、モルヌピラビル3.0%)、サンプルサイズは8倍大きく、また、PCCは女性でより一般的であるため、このことは重要です。女性のエフェクトサイズが小さいことが、全体的なエフェクトサイズの小ささを説明している可能性があるかもしれません。WHOのコンセンサス定義では、虚血性心疾患などの疾患診断ではなく、症状に基づいており、PCCが臨床的にどのように同定されるかに近いと考えられます。本研究の限界としては、データが不完全であったためワクチン接種の有無を考慮しなかったこと、COVID-19のエビデンスとして薬剤の処方を用いたこと、65歳以上の患者に限定したことなどが挙げられます。現在承認されている2剤の使用目的は、重症急性COVID-19の予防ですが、今回の知見は、この2剤がPCCを予防する役割もあることを示唆しているとの事です。

Scientific Reports
Peak risk of SARS-CoV-2 infection within 5 s of face-to-face encounters: an observational/retrospective study

*エアロゾルの動態とウイルス曝露リスクとの関連を、特に移動中や対面での相互作用に関して調査した研究です。
レーザーシートと高速度カメラを用いた粒子追跡速度計を用い、ヒトのマネキンの口から出る微小粒子を測定したところ、非換気状態(呼気量30L、通過速度5km/h)における平均ピーク時間は1.33秒(標準偏差0.32秒)でしたが、換気状態では1.38秒(標準偏差0.35秒)でした。結果として、対面時のウイルス暴露リスクのピークは、換気・非換気ともに5秒以内でした。さらに、ウイルス曝露リスクは、非換気条件に比べ、換気条件下で大きく減少しました。これらの知見から、対面時の5秒間のリスク軽減策を検討することで、空気感染におけるウイルス曝露リスクを大幅に低減できるとのことです。

2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     

海外     

治療薬      

3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     

Long COVID

国内        
コロナ感染リスク、すれ違いざまは5秒以内でピークに 筑波大チーム
https://mainichi.jp/articles/20231024/k00/00m/040/005000c
*「人とすれ違う際、新型コロナウイルスの感染リスクは、通過後5秒以内にピークに達するとの研究結果を、筑波大の研究チームが英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表した。すれ違う際、息を止めたり、1メートル以上距離を取ったりすることなどが感染対策として有効という。」
*以下の、英文ニュースのほうが、詳細に記載されています。
When passing face-to-face, risk of COVID infection peaks within 5 seconds: Japan study
https://mainichi.jp/english/articles/20231024/p2a/00m/0sc/009000c
**以下の論文のようです。1)にまとめを掲載しました。
欧米の新聞メディアは、記事中にきちんと論文のリンクを示しますが、毎日を含め日本のメディアでは、論文名も含めて明記したのを見たことがありません。科学リテラシーが貧困なのでしょう。
Peak risk of SARS-CoV-2 infection within 5 s of face-to-face encounters: an observational/retrospective study
https://www.nature.com/articles/s41598-023-44967-x

コロナやインフルなど4つ同時に検出のキット開発 富山大
https://www.sankei.com/article/20231024-T7BTDS5LWBJAVNY6DMWQAB32WA/
*「いずれも呼吸器系の感染症で症状が似ている新型コロナとA型、B型のインフルエンザ、RSウイルスの4種類を約15分で検出可能で、医療従事者の作業効率向上にもつながる。
富山大の磯部正治特別研究教授は「子供は何度も鼻腔から検体を採取されるのを嫌がる。このキットを活用してほしい」と話している。」

国民医療費は45兆円超 21年度確定値、コロナ対応で増―厚労省
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023102400975&g=cov
*「厚生労働省は24日、2021年度に病気やけがの治療で医療機関などに支払われた国民医療費(確定値)が前年度比4.8%増の45兆359億円だったと発表した。高齢化や医療技術の高度化に加え、新型コロナウイルス関連の医療費が増加した影響で額が膨らみ、初めて45兆円を突破した。」

コロナ血管炎に関与の遺伝子特定 阪大などのチームiPS細胞使い
https://nordot.app/1089529341706404256
*以前の報道の焼き直しに近い内容です。論文出典も明記されていません。

海外       

4)対策関連
国内      

海外       

5)社会・経済関連
新型コロナ検査補助金、9事業者が4億円不正申請 兵庫県が返還請求
https://mainichi.jp/articles/20231024/k00/00m/040/091000c  
   


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