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【コラム】きちんと”出口”まで考えられているか~タクシーなど外国人運転手を拡大 国交省「特定技能」に追加検討~

 金正恩氏とプーチン大統領の会談や岸田内閣の改造などのニュースが流れた2023年9月13日、私としては、こちらの記事の方が気になりました(12日夜に記事に気づきました)。

国土交通省は、人手不足が顕著なトラック、バス、タクシーのドライバーについて外国人労働者を活用する検討に入った。労働力が不足する産業で、即戦力となる外国人労働者の受け入れを認める在留資格「特定技能」の対象に、「自動車運送業」を今年度中にも追加する方向で出入国在留管理庁と協議している。

毎日新聞

 「人をヒトとして好きになる」を掲げる私としては、外国人労働者の活躍の場をつくりたい、という立場なので、その枠が広がることは、本当は大賛成です。しかし、この記事を見て、「4つの違和感」を抱きました。特に、タクシーの運転手は、果たしてこのビザが適当なのか。特定技能で運転手を育成することが、本当に外国人のためになるのでしょうか。


地方で深刻化するタクシー不足

 福岡空港では、先日のタイ出張の帰り、明らかに「白タク」(タクシー営業に必要な認可を受けず、自家用車で営業している違法タクシー)だろうなと思われる、外国人が運転する車が、大きなスーツケースを抱える観光客を乗せていくのを見かけました。

 地方の佐賀では、JR佐賀駅近くや繁華街で飲まない限り、タクシーが捕まらないのは常態化。配車アプリを入れても、まず配車可能なタクシーがなし。歩いて帰ることが多くなりました(健康には良いですが、酔いがさめてしまい、家に着いてからまた飲んでしまうことも笑)。タクシーに乗った際には運転手さんに「なかなか捕まらないですね」と話すと、「コロナでだいぶ辞めちゃってね」との返事。

 かなりタクシー不足は深刻化していると実感します。その人手不足に「外国人に働いてもらいたい」という思いは分かります。

タクシー運転手の高いコミュニケーション能力

 ただ、タクシー運転手には、高いコミュニケーション能力が求められます。これが違和感の一つ目。

 これまでの特定技能の職種は、日本語能力がN4レベル(基本的な日本語を理解することができる)が目安とされています。日常会話ができる程度です。

 しかし、運転手には、「行き先を聞く」「行き方(高速に乗る、好きな通りなど)を聞く」「道を覚える(看板の日本語も含めて)」「お客と雑談をする」「お金のやり取りをする」「決済方法を尋ねる」―など、幅広い場面に対応した日本語が求められます。ある程度、マニュアルでいけたり、道順はGoogle Mapで対応できたりするところもあれば、雑談などは、かなり高いコミュニケーション。おそらくN4では対応できないと思います。

 「じゃあ、N3、N2レベルで募集をかければ」という反論も聞かれそうですが、周囲で日本語力が高い外国人でも、中級のN3は一つの”壁”。むしろ、それだけの日本語力があれば、わざわざ日本でタクシー運転手をするよりも、現地の日系企業で通訳をすれば、さらに高給が得られるでしょう。「日本を選ぶ」とは思えないのです。

外国人にどこまでの免許を求めるのか 運転文化の違いも

 毎日新聞の記事の中でも触れられていましたが、タクシー運転手には「第2種免許」の取得が必要です。警察庁の運転免許統計によると、2022年度の2種免許の合格率は54.1%。おそらくほとんどが日本人でしょうが、それでも合格者は約半数です。

 普通免許でも、外国人は、母国との交通ルールの違いや、試験問題の日本語力の壁などで、取得が難しいと聞きます。佐賀県でも、仕事を休み、交通費をかけ、長い時間をかけて試験に行っても、不合格が続いている、というケースも聞いたことがあります。さらに2種となると、その合格率はハードルが高いと思われます。違和感の2つ目です。

 特定技能では、別途、その分野のスキルを図る「技能試験」が課せられてきました。技能試験は母国でも受験が可能でしたが、運転免許の取得となると、日本国内に来てからになるのでしょうか。タイなどは日本と同じ右ハンドルですが、フィリピンやベトナムなどは左ハンドルです。日本と違う国でんの運転の技能を図るすべも、かなり難しい制度設計になると思われます。

帰国した後まで想定した制度設計を

 特定技能は、

中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきているため、生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築することが求められているものです。

出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」

と、人手不足解消のための制度、と明確にうたった制度です。一方、技能実習制度は「我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上地域等への移転を図り、その開発途上地域等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的とする制度」(出入国在留管理庁『技能実習制度の趣旨』より)と、「技術移転」という国際協力を目的にした制度です。

 ただ、特定技能が「人手不足解消」が目的とはいえ、「じゃあ、帰国したらさよなら」でいいのか。外国人の活躍を支援する私としては、「帰国した後の”出口”も含めて制度設計をしてほしい」と思うのです。そのため、「人とヒトの幸せ開発研究所」としてタイで検討する外国人材受け入れの事業については、「帰国後も活躍できる(きちんと稼げる)仕組み」をいろいろと考えています。

 正直、特定技能の人材を送り出す国では、おそらく、タクシー運転手は決して所得の高い職業ではないと思います。介護や宿泊、飲食業などは、帰国後でもこれらの国で仕事があると思います。帰国後のことを本当に考えているのか。それが3つ目の違和感です。

すべて「人手不足=外国人」でいいのか

 最後の違和感は、人手不足の業界では、なんでも外国人労働者依存でいいのか、ということです。外国人が活躍できる分野と、できない分野があると思われます。特に、タクシー運転手は、日本語のコミュニケーションや免許、帰国後の”出口”戦略を考えると、あまり適当ではないと思います。

 それよりも、規制を緩和し、一般のドライバーが自家用車を使って有料で人を運ぶ「ライドシェア」の解禁などを検討すべきなのではないでしょうか?

 さらには、職場環境の改善や給与水準を高めるなど、運転手に「選ばれる」職場づくりも必要なのかもしれません。

 外国人を「低収入でも働いてくれる人材」と思っていたら、すぐに日本は「選ばれない国」となってしまいます。日本人に選ばれなくなった業界が「外国人ならば喜んで働いてくれる」という感覚をまだ経営者が持っているとしたら、それが追加の5つ目の違和感かもしれません。

山路健造(やまじ・けんぞう)
1984年、大分市出身。立命館アジア太平洋大学卒業。西日本新聞社で7年間、記者職として九州の国際交流、国際協力、多文化共生の現場などを取材。新聞社を退職し、JICA青年海外協力隊でフィリピンへ派遣。自らも海外で「外国人」だった経験から多文化共生に関心を持つ。
帰国後、認定NPO法人地球市民の会に入職し、奨学金事業を担当したほか、国内の外国人支援のための「地球市民共生事業」を立ち上げた。2018年1月にタイ人グループ「サワディー佐賀」を設立し、代表に。タイをキーワードにしたまちづくりや多言語の災害情報発信が評価され、2021年1月、総務省ふるさとづくり大賞(団体表彰)受賞した。
22年2月に始まったウクライナ侵攻では、佐賀県の避難民支援の官民連携組織「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」で事務局を担当。
2023年6月に地球市民の会を退職。同8月より、個人事業「人とヒトの幸せ開発研究所」を立ち上げ、多文化共生やNPOマネジメントサポートなどに携わる。


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