虚無で悟りを開いた話

年末年始を虚無に過ごしてしまった私はさらなる虚無を求めて、
前から気になっていたアイソレーションタンクを体験することを決意した。

アイソレーションタンクとは?

真っ暗なタンクの中で、高濃度の塩水に浮かぶ体験をするもの。
感覚遮断の研究に使ったのが始まりで、瞑想したり、リラックスするために使われているらしい。

入店

やってきたのは都内某所のマンションの一室。
インターホンを押すと、穏やかそうなおじさん(桑田真澄に似てた)が優しく出迎えてくれた。

桑田さん「いらっしゃい、どうぞこちらへ」
人をダメにするクッションへ座るように促される。ダメになった。

桑田さん「どうしてアイソレーションタンクを体験しようと思ったんですか?」
私「友達が良かったと言っていたので...」

嘘。本当はVtuberの月ノ美兎さんが体験してたから。

桑田さん「最近体の調子はどうですか?」
私「変な姿勢でゲームやってたら首を痛めてしまって...」

これは本当。テーブルモードのSwitchを覗き込むようにやっていたら
突然首がミシッと鳴って死んだ翌日であった。気をつけよう。

フローティングを体験

一通りの説明を受けたら、まずはシャワーを浴びる。
体を洗い終わり、全身を拭いたら全裸でタンクに入る。

タンクの蓋を締めると中は完全な暗闇だった。
今回は1時間コースを選んだのでこの中に1時間もいるのかと思うと少し怖い。
タンク内の液体は、暖かくも冷たくもなかった。

終了10分前になると音楽が流れて教えてくれるらしい。
それまではこの中で何もせずただ浮かんで過ごす。

体はとても浮く。頭の悪そうな表現しかできないがとんでもなく浮く。
仰向けになると耳は液体に浸かっているものの、顔は完全に出た状態になる。

まずは大の字になってバランスを取る。
タンクは大きく、両手を伸ばしても壁にぶつからないので、
手で壁を押して左右に行ったり来たりしてみる。
このとき、耳栓をした耳は完全に液体に浸かっているのでほぼ無音なのだが、しゃりしゃりと髪の擦れる音だけが聞こえる。

腕はT字にしたり、コロンビアのポーズにしたりしたけど、
普通に下ろしておくのが一番楽だった。
(後で聞いたところによると、疲れているほど腕を上げたくなるらしい)

そして、真っ暗で無音の状態だと、いろいろな思考が自然に溢れ出てくる。

・目開けてるのに真っ暗なの変な感覚だな
・死海もこのくらい浮くのかな
・1時間結構長いのかな
・死後の世界もこんな感じなんだろうか
・いつまで生きてるかわからないのにこんなタンクで1時間過ごしていいんだろうか
・同年代は転職したり結婚したりのライフイベント起こしてるのに自分は何もせずにタンクに浮いてるのなんなんだろうか
・自分は今のままでいいのかな
・なんでこんなところに1人でいるんだろうか
・そういえば終わりの音楽どんなのだろう、木星とかかな
・耳からは何も音聞こえてないのに頭の中で音楽流せるのって不思議だな
・♪何度でも何度でも何度でも立ち上がり呼ぶよ
  急に頭に浮かんだこの曲なんだっけ?あ、ドリカムか
・♪うーすべにいろのーかわいいきみーのねー
  今度は違う曲だけどこれは...ハナミズキか。
  なんでこのタイミングで思い出すんだろ
・そろそろ考えることなくなってきたな
・やることなくて暇になってきたな

体感的には30分ほど経ったくらいから、何を考えていたか覚えていない。
一種のトランス状態なのか、それ以降は思考も体の感覚もほとんどなかった。

しばらくすると遠くの方から何か音が聞こえてくる。

・なにか聞こえるような...
・ファ〜〜〜〜みたいなのが聞こえる気がする
・何の音だろう.....

音楽が少しずつ大きくなり、少しずつ意識が戻ってくる。

「あ、終わりの音楽ってこれか」

理解するまで数十秒はかかった気がする。

タンクから出る

タンクから出たらまず体を拭く。
空気がひんやりしていて気持ちがいい。
何時間も眠っていたかのように頭がぼーっとしつつも、すっきりした感覚がある。

コールドスリープから目覚めた人間もこんな感じなのかもと思った。

すごく頭がクリアになった気がする。
クリアすぎて何を考えればいいかわからずちょっと怖い。

もう一度シャワーを浴び、リビングに戻ると桑田さんと再会する。

桑田さん「フローティングはいかがでしたか?」
私「思ったより時間が早くすぎました。なんとなく頭がすっきりしてます。」

桑田さん「他にはどうですか?」
私「いろいろ考え事があったんですが、途中から出てこなくなりました。」

桑田さん「他に、体には何か変化ありましたか?」
私「体は軽くなった気がしますね」

桑田さん「他には何かありましたか?」
私「そうですね...他には...かなりリラックスはできたかなと思います。」

桑田さん「他には?」

もうないよ。

桑田さんの質問責めを乗り越え、アイソレーションタンク体験は終了した。

最後に

タンク内は真っ暗で何もすることはないし、音も聞こえないので瞑想の場としてはとてもよかったです。
自然といろんな考えが浮かんでくるので、目が覚めたまま夢をみてるような不思議な体験ができました。

人生に究極に疲れた時にはもう一度行ってみようかな。

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