詩100連発PART1

①愛

席替えをしたら愛の斜め後ろの席になった。愛とは三年間ずっと同じクラスなのに一度も隣の席になったことはなくて愛はいつもひとりでいるのにちっとも寂しそうじゃなくて鉛筆をポロポロさせている。愛と喋ったのは一度だけ、鉛筆がポロポロポロと落ちて拾ってあげた時に、「誰にも渡さへんよマジで」と愛が言ってあたしが「なんで?」と言った。あたしは愛が髪をかきあげるのを斜め後ろから見ている。愛のうなじには「It feels to have my all in all taken away.(私のすべてが奪われたような気がする。)」という刺青が入っていた。私はなんで?と思った。あたしが若いからか、あたしはまだ愛のことがよく分からない。

②宇宙

ウチの家はな、むかしっからあんまりお金ないけどな、ママが毎日ごはん作ってくれるねん。私が夜遅くに帰ってきてもな、ちゃんとチンして食べてねってメモが置かれててな。ほんまいつもありがとうママ。いつも文句ばっかり言っちゃうけど感謝してるよ。だからなウチもういいねん宇宙のこと。さっきアメリカの国防省のなんちゃらって人からな電話きて宇宙がやばいから来てって連絡あってんけど行かんことにした。だってママとご飯食べたいもん。だからウチもういいねん宇宙のこと。

③変な意味じゃなくて

変な意味じゃなくて君のことが好き
変な意味じゃなくて君の身体が好き
変な意味じゃなくて君のお尻が好き
変な意味じゃ無くて君のお尻のほくろが好き
変な意味じゃなくて君のほくろをぺろぺろしたい
変な意味じゃなくて君のほくろをぺろぺろしたい
マジで変な意味じゃなくてマジで

④チャイニーズマフィア

6日に1回チャイニーズマフィアのことを思い出すし、時よりただ空間を見つめている自分に気づくこともある。私は2歳の頃捨てられ、偶然近くを通りかかったチャイニーズマフィアに拾われた。大切なことは全部チャイニーズマフィアに教えてもらった。算数も国語も数学もぜんぶチャイニーズマフィアに教えてもらった。チャイニーズマフィアと一緒にいるとよく人が死んだ。チャイニーズマフィアは「ミタラダメ」と言ったけど、私はそんなのへっちゃらだった。チャイニーズマフィアと買い物に行くと毎回ひとつだけお菓子を買ってくれた。チャイニーズマフィアは2つ買おうとすると怒り、何もいらないと言うとまた怒った。チャイニーズマフィアは大切な仕事を終えると友達のチャイニーズマフィアを沢山集めて豪華な食事をして酒を飲んで大騒ぎした。そのときだけ私も少しだけお酒を飲んだ。私はあの食器がガチャガチャ鳴続ける空間が大好きだった。チャイニーズマフィアは18歳になった私を「ココニイタラダメニナル」と言ってまた捨てた。そのとき咄嗟に掴んだチャイニーズマフィアのストライプシャツの一部分が今でも私の財布の中に入っている。

⑤満タン

5月2日....満タン
5月3日....満タン(いつもよりちょっと多い満タン)
5月4日〜6日...満タン
5月7日...満タン(いつもよりちょっと多い満タン)
5月8日...満タン


⑥プールサイド

目が覚めたらプールサイドだった。なぜ自分がプールサイドで寝ていたのか分からなかったが、たぶん少しだけ春だった。でも記憶が正しければ冬にいたはずだった。時より風が吹いて額の汗を軽く乾かしてくれた。運動場で遊んでいるであろう子供達の声がまるで鳥のさえずりのように響いていた。それから自分が花であることを思い出した。

⑦ふりだし

何気ない一言に傷ついて一回休み。何気ない一言で傷つけてふりだしに戻る。天国から地獄へ落ちる道中で喉が渇いたからファンタグレープを喉から胃に流し込む。許せないことと許したいことを天秤にかけてあやふく許せないことが勝ちかけたけど、僕が死ねない理由が君だったからそっと持ち上げてなかったこと何もなかったことにして、また双六をふって最寄りの駅から出発する。窓からは似た景色が広がっていて、だから言ったのにと誰かが言った。

⑧煙

警報がジリジリと鳴り響いて火山が噴火した日、母親と僕は手を繋いで知らない小学校に避難した。母親がいろんなところに電話をかけて忙しそうにしていたのを覚えている。そのあと母親は「ちょっと待っといてくれる?お父さん探してくるわ。なんかあったら大人の人に声かけるんやで。できるか?」と言った。母親は二度目に僕が目覚めるまで帰ってこなかった。母親は僕が目を覚ましたのに気づいて「おなか減ったやろ」と言って僕を外に連れ出した。外は雨が降りそうなくらいどんよりと暗くて空気はジメジメとしていた。運動場の傍で、僕が炊き出しのカレーを食べている間、母親は黙って煙草を吸い続けていた。母親が煙草を吸っているのを見るのはそれが初めてで最後だった。母親は煙草をポイと捨てた後「お父さんダメやったみたいやわ」と言った。母親が捨てた煙草からはまだ白い煙がモクモクと立ち上っていた。

⑨ページ
次ページをめくるギリギリのところで前ページの隙間に小さなてんとう虫が潜り込んできた。前ページに戻ると小さなてんとう虫は『絶望』から『も』まで歩いたあと突然何か思い出したように飛び去っていった。今朝替えた花瓶の水は幻のように透明だった。それから次ページに戻って今日がいい日になりますようにと願った。

⑩名札

物心ついた頃からずっと壁に穴を開けている。僕は壁にずっとデカい穴を開け続けないと、なんやかんやあって死ぬらしい。偉いという名札を付けたおじさんが言ってたからそうに違いない。壁は厚くて硬くてなかなかデカい穴が開かない。偉いという名札を付けたおじさんは時々僕の様子をみにきて、紙に何かを書いたあと、僕の肩を「ポン」と言いながら叩いてまたどこかに行く。僕は肩をポンと叩くにしてはちょっと力が強いだろと思っているが偉いという名札がついているから、まだそのことを指摘できないでいる。

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