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印象的な公演「銀の狼」(1991年 宝塚大劇場)

私にとって『男役 涼風真世』の原点とも言うべき作品だ。
オスカルでも、ジュリオでも、パックでもなく、『男役 涼風真世』と私の出逢いはシルバである。

当時、ある演出家がかなめさん(涼風)の舞台を評して、「涼風真世は"delicacy”─デリカシィそのものである。デリカシィとは、繊細、優美、精緻、精巧、虚弱、華奢、さらには敏感、鋭敏、思いやり、心づかい等と訳し、これらはすべて涼風のために用意された言葉のようである」と記していた。
私がシルバに抱いた印象も、まさにデリカシィだったように思う。

記憶を無くした、"銀髪の殺し屋 ”─シルバ。
自分は何者なのか?
毎夜、悪夢に苛まれる。
やり場のない怒りを抱え、苦悩するその姿が痛々しい。
ステージの盆が複雑に上下、回転しながら背景が動き、闇の中を彷徨い続けるシルバの心を体現する。
斬新な演出に、一気にサスペンスの世界に引き込まれる。
娼館を隠れ蓑に暗躍するシルバ。
記憶を失った自分を助け、殺し屋に仕立てた男、レイとひととき心を通わせるが、記憶を取り戻すため自分探しの旅に出る。
唯一、記憶にあるミレイユという女を誘拐し、彼女の告白によって、自分が大統領であるミレイユの父の権力闘争の渦中にいることに気付く。
シルバが黒幕の正体を知り、復讐をやり遂げたかと思われた直後、驚愕のドンデン返しが起こり、ドラマのクライマックスを迎える。

同じように心の傷を持つミレイユに、自身の境遇を重ね合わせるシルバ。
過去の忌まわしき罪を背負いながらも、ミレイユを守り、朽ち果てゆくまで生きる決心をする。
ミレイユを優しく抱きとめるシルバの姿に、彼の静かな感情の高まりと、包容力が感じられた。
これから二人は何処へ向かうのだろうか…
そんな旅立ちのラストは、ひとすじの光を見出したかのような温かな思いに包まれた。

この年、トップ披露公演でオスカル役者としての地位を不動のものにしたかなめさんにとって、この作品はこれまでの『男役 涼風真世』の概念を覆し、宝塚人生における重要な作品となった。
そして、新トップコンビの誕生を印象付けるとともに、退団後も忘れ得ぬ作品としてファンの心に刻まれた。
今もなお、かなめさんが歌い継いでいる『旅立ち』のナンバーと共に、私の心にも深く刻まれた作品である。

宝塚スカイステージにて、9/7(木)、9/21(木)にNHK収録版が放送される。

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