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呪いに似たもの

32歳が終わった。
朝起きて飼い犬に「32歳最後の日だよ〜」と言いキスをしてから神棚のお水をかえて心の中でゆっくり「どうか穏やかに32歳を終われますように」と唱える。

1月の半ばから気づいていたが、わたしはどうやらそういう区切りをすごく意識するタイプの人間らしい。何が変わるわけでもない。歳を重ねるだけで生活が一変するわけじゃない。

記憶があるだけでこの10年、1月31日はきっと、ほとんど恋人といたはずだ。

としあきと付き合ってたときは横浜のクルーズディナーだった。私の好きなピンク色の箱のブランドのピアスとネックレスをもらった。2年付き合ったけど、2度目の誕生日しか記憶にない。終わりは最低だったことはよく覚えている。でもなんで最低だったかは覚えていない。

ぴーちゃんと付き合っていた6年はアロマフレスカとかカンテサンスとか、いいフレンチやイタリアンでディナーをした。それから欲しいと思ったものを買ってもらいに銀座や二子玉川をぷらぷらしたりした。
セリーヌの鞄も靴も彼に買ってもらったけど私から全部したいことを言うのがそのうち退屈になって「自分で考えて」なんてひどいセリフを吐いた年の誕生日、花束をくれた。色も長さも不揃いな花束に、あまりみたことがないぴーちゃんの字で「ももへ」と書いてあった。聞けば歳の本数だけバラがなくて3店舗を回って自分で花束を作ったらしい。
その時もらったサンローランのハイヒールより嬉しかった。本当に。
でもそれが2人で過ごす最後の誕生日になった。私は若くて、とても傲慢な女の子だった。

中山さんは私をハワイに連れて行ってくれた。ビーチに落ちてた、と花束をくれた。
コンドに泊まり手作りの料理でもてなしてくれて、サンセットを見ながら食べた。プライベートビーチで泳いだり、本を読みながら日焼けしたり、ワイキキでサーフィンしたり川でサップしてウミガメをみにいったりした。その年の夏が過ぎたあとに別れるとも言わずに、私から離れていった。

大輔とは誕生日が近かったから熱海のふふに泊まりにいった。2人で高いシャンパンを仕込んでずっと温泉にはいっていた。
プレゼントは違う週に欲しいものをそれぞれ買いに行った。
1年記念日に花束をもって実家にきてくれたその1週間後「やっぱり僕は人と一緒にいれない」と言われてフラれた。
人生で初めて恋人にフラれて高熱が出た。
大輔は” そういう人 “だったから本当に誰かと一緒にいることが少なくともその時は無理だったのだと思う。
そのあと連絡がきたときに彼女ができたかと聞いたら「俺のことよく知ってるでしょ、ももと別れてからずっと1人だし1人のほうが楽だよやっぱり」とかなり硬い口調で言われて「無理をさせてたねごめんよ」と言うと、気まずくなった空気をなんとも思っていないようで「いや、それに気づけたからいい」とまたなんとも不躾な発言をされた。
”そういう人”だったのだ。

悠さんにはいろんなものをもらった。
去年、私が今1番大事にしている命をもらった。黒くて暖かい小さいもふもふの命。
これからも私は私よりこの小さい命が大事だ。
当日は藤沢でつやつやのお鮨を食べに行って、満月に照らされる中ほろ酔いで同じ家に帰った。 もうこの人の誕生日しか祝わないし、祝われない。これからもずっと一緒にお祝いすると思っていた。産まれて3ヶ月しか経っていない小さな命と3人で。
そうして、いつか命が増えていけばいいと思ったこともあった。
私の心にじんわり、人生が灯ったはずだったのに。

私を通り過ぎていった男の人たちと交わした浅はかな約束は叶えられるはずもなく、毎年楽しい誕生日を迎えては、歳だけを取っていく。

33歳になってもまだ沢山のラインやメッセージがくることに驚きと感謝をしながら
早起きをし、犬に頬ずりをして、神棚に「良い33歳の幕開けとなりますように」と祈る。
そうしていつもよりきちんとメイクをした。
あいにくの天気だったけど、別にもう、どんよりした曇り空に気持ちを持っていかれないぐらいには気を取り戻してきた。

今年の誕生日はひとりだ。
隣にはだれもいない。でも不思議と寂しくはなかった。友人や先輩や職場の人からはたくさん祝ってもらった。ありがたいことに2月にもいろいろと祝われる側の予定がある。

当日にごはんいかがですか、と誘ってくれた男の子がいたけど断ってしまった。
今年は1人で過ごそうと決めていたからだ。
誕生日をいい感じに過ごすためというだけの理由でdiorで買った美容液と、こないだあゆみさんがくれた秘密のクリームも使って顔の調子を整えている。

ひどく痛んでいた髪を切ってもらいに久々に美容室にいった。みじかくなってしまったが、まぁいい。とにかくひどくはなくなったしなんならセットしやすくなった。

ネイルもかわいい色を爪にのせた。

ヘアケアはいつもは絶対に選ばない甘いバニラとラベンダーの香りのものをえらんだ。
だれにも会わないけど、それでよかった。

親友は「ももちゃんは偉い、きちんとそうやって、そういうことをやるから」
と言ったけど、この、ある種呪いみたいに「なにかをしていないと自分を納得させられない」儀式みたいなこと、やらなくて平気なら本当はやりたくない。
なんにもしなくたって心の平穏を保てる人のほうが強いに決まっている。

私はまだ1人に慣れていないから、とりあえず自分のテンションがあがることを試したい。だってどうせ、1人で誕生日を過ごすことなんてこの先そうないはずだから。

手始めに今日は仕事の合間に食べたかったミルフィーユを食べにいった。
丁寧に焼かれたさくさくのパイ生地とバニラビーンズがしっかりとはいったカスタード、中には甘酸っぱいいちごのコンポート。
それから銀座に戻って家族とつらいときにお菓子を送ってくれた幼馴染にイデミの菓子折りを送った。時間がなくてイートインはできなかった。

33歳
いつかの私は結婚していると思っていた。
恋人がいないとは思ってなかった。
犬を飼っているとは思わなかった。
海のそばに住んでるとは思ってなかった。
友人がまだみんな独り身だとも考えてなかった。

たぶん34歳になったときも私の身の回りは「そんなこと思ってなかった」が溢れてるんだろう。そしてそうであってほしい。

1つ歳を重ねたからって何も変わらない。
明日からは2月がはじまって「ぁぁもう年を越してから1ヶ月たってしまった」と思いながら仕事へむかい、犬の世話をする。

「代わり映えのない日常を愛していく」

1月31日、33歳になった私へ。

集中して書くためのコーヒー代になって、ラブと共に私の体の一部になります。本当にありがとう。コメントをくれてもいいんだよ。