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禁じられた「声出し応援」~JFAに自浄作用はあるか~

日本代表vsオーストラリア戦、埼スタで「声出し応援」があったということだが、これは大変良くない、許しがたい行為だと思う。JFAには関係者を特定した上で、今後の出入り禁止などの重い措置を望みたい。

■1012代表チャント事件

10月12日の埼玉スタジアム、カタールW杯アジア最終予選vsオーストラリア戦は、ここまで3試合中2敗と崖っぷちに立たされた森保ジャパンにとって、起死回生の勝利を挙げることができた試合だった。問題のチャント(応援歌)は後半、1-1の均衡を破った浅野拓磨のシュートからのOGの直後に沸き上がった。

これは周囲からも注意されたのか、比較的すぐに鎮静化したようだが、代表サポが歓喜のあまりとは言え、新型コロナ感染拡大抑止のために禁じられた行為をしてしまった事実には変わりがない。

JFA自身が定めたガイドライン(リンクはPDF)にも「禁止される行為は以下の通りです。・ 声を出す応援(禁止理由:飛沫感染につながるため)」と明確に記されている。

■JFAリリースの問題点

これに対しJFA(日本サッカー協会)は13日の8時50分に以下のようにリリースを出した。https://twitter.com/jfa_samuraiblue/status/1448254708347375618?s=20

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一読して「これはダメだ」との思いを強くしたのだが、特に気になったのが次の一節だ。「観客の皆さまに観戦ルールやマナーを順守していただいている中、今回、一部サポーターが大声で歌う、コールを行うなど、周囲の皆さまに不安を与え、ルールをしっかり守って応援いただいている方々に不快な思いをさせる行為を行いました」

「不快な思い」というのはこういう謝罪リリースでは最近止めるように指導する文言だ。というのは、要するに「当案件に関してクレームが入っておりますので謝罪します」と言っているに等しい言葉だからだ。「不快な思いをした人がいなかったらこの行為は容認される」と彼らは思っているということになる。

JFA自身がガイドラインで何度も強調しているように、こうした行為が禁じられているのは「不快な思いをさせるから」では決してなく、これが恐ろしい新型コロナウイルスの感染拡大を招きかねない行為だからだ。そして万が一にも、サッカースタジアムから感染の拡大を招くことがあってはならないからだ。JFA自身がこのことを理解していないのか。

■この1年以上のサッカーファンの思いを

代表人気で殿様商売のJFAにはわからないかもしれないが、サッカーというものは世間でけして肯定的認知の多いスポーツではない。TVのスポーツニュースでもJリーグが触れられる時間は多くなく、反面サッカー選手やサポーターがらみで不祥事があるとすぐに取り上げられ、バッシングされる。

Jリーグ各クラブの担当は、企業を訪れては首を横に振られる経験を多くしている。まだまだ企業の上層部には野球や大相撲の信奉者が多く「サッカー?そんなの誰も見ないし」という認識も根強いのだ。それを何とか変えようとして来たのがこの30年ではなかったか。

今回のコロナ禍において、Jリーグのサポーターは非常に献身的にリーグの定める応援ルールに従ってきた。それは万が一にもサッカースタジアムからクラスタを出してしまった場合、肯定的認知の強くない「サッカー」そのものが「社会悪」という認知を受けてしまいかねなかったからだ

そうなったらクラブはどうなる。頭を下げてついてもらっているスポンサーはどうなる。「やっぱりサッカーサポは、サッカーは反社会的だ」と認識されたらJリーグはどうなる。それがわかっているから、Jリーグサポは声を出して応援したいのを断腸の思いでこらえてきたのである。この1年半もの長きにわたり。

JFAはそれを踏みにじろうとしているのか。

■酒井宏樹の投稿

また、スタジアムでのチャントに関して、代表DFの酒井宏樹がInstagramに「ギリギリでしたが次に繋がりました。サポーターのバススタジアム入場時の久々の応援歌痺れました!選手やスタッフは勿論、会場みんなで勝ち取った勝利。素晴らしい雰囲気をありがとうございました。」と投稿した。

さらに追記で「声出しが現在ルール上ダメなのは勿論分かっています。ただ凄く僕に響いたのも事実です。スタジアムにきてくれてありがとうと伝えたかっただけです。お気を悪くされた方がいたのなら申し訳ありませんでした」としている(投稿は現在では削除されている)。

これは個人的には大変残念だった。「ルール上ダメだけど、僕には響いた」と彼が言ってしまうのは「何千何百というルールを守っているサポーター」の努力を無にする行為だからだ。

今回の代表のゲームで、一番熱く応援しているのは「愛する代表チームを応援したいけど、万が一にも迷惑をかけてはいけないから黙って応援しているサポーター」なのである。先に触れたJリーグの各クラブサポもそうだが、声を出していいなら喉が張り裂けるまで出したいサポーターは大勢いるのだ。彼らがなぜ黙っているのか、酒井にはそれをもう一度考えてもらいたい。「うるさいのが湧いてきたから投稿を削除する」で終わりにするのではなく。

(付記しておくと、今回のコロナ禍のほとんどの時間を日本以外で過ごしてきた酒井には、上記Jリーグサポの努力や思い、あるいは日本社会での感染対策への考えはわかっていなかった可能性はあると思う。そういう意味でも今回の件を「うるさいなあ」と思わずに、真摯に受け止めてほしいと思う)

■JFAに自浄作用はあるか

さて、コロナに関しては浦和レッズの没収試合事件(CASで係争中)が記憶に新しい。この件では単なる書類上の手続き不備であるにもかかわらず「没収試合」という極めて重い制裁がJリーグクラブに下されている。もちろんこれはJFAそのものではなくJリーグが主体ではあるが、両者に共通する体質があるように思えてならない。

今回の件に関する先のリリースでも謝罪はしているものの内部での処分については触れられておらず、試合を管轄するコロナ対策担当者が責任を取る様子はない。Jリーグの試合で新型コロナウイルス感染症対応ガイドラインに違反する行為があった場合は、浦和レッズへ300万円の制裁金を科したにもかかわらずである。

またJリーグの試合でサポーターが禁止行為を行った場合は、Jクラブは当該サポーターを特定し、厳しい処分を下すことが多い。JAPANESE ONLY事件では当事者のサポーターグループは無期限の入場禁止処分となっている。しかし今回の件でJFAは「声出し応援」をしてしまったサポーターの特定に動こうとしているようには見えない。

これは、そうしたサポを罰するような事件だと認めれば、先の浦和レッズへの制裁金を鑑みても、JFA内部の担当者へ何らかの処分を下さざるを得ないからではないだろうか。つまり身内を守るために、ことを軽く済まそう、穏便にすまそう、としているのではないか、と疑ってしまう。

過去の我那覇の冤罪事件でもそうだが、JFAおよびJリーグは、Jクラブや選手への制裁は苛烈だが、自らの非を認め自浄作用を及ぼす力が弱いように見える。コロナ禍にJリーグサポが耐え抜いた、サッカーが耐え抜いた今こそ、そうした体質を改め、自浄作用を発揮してほしいと願ってやまない。

それではまた。

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