『真昼の決闘』

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 環礁の内側、非自然的に蓄えられた一面の砂に踏み込んだ途端に、中心部が盛り上がり金属質の巨人が圧倒した。持ち上げられた砂がこぼれ落ち、できた空洞へと周囲の砂が流れ出した。

 同時に体を伏せた。レグネーベルは着込んでいたマントで、老大亀は自身の甲羅で落ちてくる砂から身を守った。全身が砂に埋もれたが、なんとか身動きは取れそうだ。そうは言っても現れた巨体が何者なのか確認しないままで隠れたので、迂闊な身動きは危険すぎる。幸いにも動く音は聞こえないので幾らか安心していられそうだ。

 時間に余裕があって、敵が先に動き、デリィの洞察によるとこちらを見失っている。これは好機だ。ひと通り情報を得たら戻って遠くから弓矢で攻撃する。込めておいた魔術のおかげで大抵はなんとかなるだろう。

閉じこもった大亀の甲羅から「大丈夫なのか」と聞こえた。
「大丈夫、デリィが砂中を探っている」

 デリィからの電気的な連絡が届いた。この砂場は底にシェルターらしきものがある。天面に多少の裂け目ができても入り込む砂をある程度で抑えられる多層構造になっているので、乗り込むリスクは見た目よりは小さいそうだ。次の目標に候補を追加した。底を破り中に入る。

 大きな振動が伝わってきた。気づかれたかと思って飛び出そうとしたが、デリィによるとこれは別の何かが近づく音のようで、しかも目の前の敵とは無関係らしい。敵対しているようだ。あのレグネーベルに味方が来るとは思い難いので、熱心な怨恨か、もしくは次に関わる何かと予想して被った砂を持ち上げて覗き見た。デリィには感知しない存在のようで、生物だとはわかった。

 目の前では植物性の巨人が四本脚で歩いていた。動きは鈍重だがひとつひとつが大きいため高速で動いている。レグネーベルを見つけると一直線に腕を伸ばしてきた。間一髪で飛び退いたおかげで砂を抉って掴むだけだったが、上の砂を支えていた砂が退けられたため、流砂となって一気に流れだした。大亀は埋まってしまったが堅牢な甲羅に守られ無事だ。

 デリィは植物性の巨人が何者かを知っていた。触れた非生物の記憶を読む能力によってレグネーベルの持ち物から見たことがあった。二者が出会う直前、寂れた村から見える宮殿だ。動きそうではないが、現に目の前では動いている。

 これだけの巨体をしかも二体も現れては手持ちの武器では通用しなそうだ。少しだけ戻って置いてきた弓矢を取ろうにも、ガリカの側面を回り込むにはまだ時間がかかる。そうなれば回避に徹して、巨体を利用してぶつけてやろう。都合のいいことにそれが通用しそうな動きをしていて、それが可能な準備もある。

「デリィ、弾いて」
 金属質の体を掴み、青白い電光を足元に抱えた。方向転換と加速減速をにデリィを活用して二体の巨人の間を駆けた。これまでにも何度か見せていた、体ひとつ程度を弾いて動かす能力のほうだ。その作用で体を浮かせて、勢いのままデリィを持ち運ぶ。勢いがあるのに減速をせず、鋭角での方向転換を可能にしたのだ。

 植物性の巨人が進む先で金属質の巨人が待ち構えるように誘導した。どちらも四本脚に腕が二本までは共通しているが、それ以外は対照的だった。質感を見れば、草木が茂るように曲がりくねるごつごつとした表面に対し、まるで柔肌のように優雅な曲線は整って見えた。動き方にしても、大袈裟に踏み込んで砂地を抉って回るのと比べ、最低限の距離をゆったりとした足取りで動く様は見栄えを意識しているように見える。

 どちらもレグネーベルとは敵対しているが、積極的に追い込もうとするのは植物性の側だけのようで、金属質の体はほとんど静観している。明らかに防衛が目的のようで、自ら動く意味を持っていないようだ。離れてみれば流れ弾の心配がなくなるためか完全に静止している。

 引きつけてぎりぎりで反対に飛び退く。小高く盛り上がった丘を飛び移る最中に急降下する。多数の方法をもって駆け回ったおかげで観察の時間は稼げたが、いつまでもは続けられない。次第に疲弊するだけだ。二体の巨人を充分に引き離したので、反撃に転じる準備が整った。正面へとまっすぐ、金属質の脚の間へ向かった。植物性のほうは頭が悪そうな突撃を繰り返していたので、そのまま激突するか、中途半端に止まるか、どちらにしても大きな隙ができる。登って隙間を探そう。

「デリィ、抜けるよ」
「アイアイ マム」

 狙い通りに脚の間をすり抜けて振り返った。金属質の体が静止したままで頭だけ向き直った。これに向かってくる植物性の脚がもつれた動きをして、真下へと拳を打ち込んで衝突を防いだ。これを見て想定を追加した。視界が狭く、そして咄嗟の判断では複数の意思が衝突するように動くようだ。

 足元の砂が流れ出した。これまでにない勢いで、拳を抜いた地点へと吸い寄せられていった。逃れるよりも早く追いつかれ、レグネーベルの体まで砂の下に落ちていった。デリィを抱えていたのもあり、砂中を流れるように移動して息継ぎが間に合った。

 地下には円形に広がる空間があった。規則的な太い柱と小高く盛り上がった中央の座を除いて障害物も道具もない部屋だ。その四半分ほどが砂と瓦礫で埋まってしまったが、まったく気にしていない様子で中央の座に構えていた。

 小さな円柱形だ。腰ほどの高さ全体がのっぺりとした白色に覆われ、細い六本脚で立っている。意思を持って動いているが、その見た目からは音も光もどこで感知するか見てとれない、不気味な存在だ。

 壁には等間隔で眼球らしきものが並び、異様な雰囲気を醸し出していた。一歩近づくと同時に壁一面から目線が殺到した。本体が目を持たないのを補ってあまりある視線に晒され、さすがのレグネーベルもたじろいだ。

「ようこそ、はじめまして」
機械的とも言い難い流暢さで語りかけた。

「正面から歓迎するつもりでいたのに、裏口からとはね。肝心の観客は、遠いけどいるようだね。じゃあ、始めようか。これが最後の殺し合いだ」

 円柱形を包む三本の輪が動き、それぞれから伸びる二本脚を構えた。四本が胴体を運ぶ脚となり、二本が腕となって構えられ

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