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平面で世界一周できるかな

地球が平面だったら世界一周できないという話はよく聞く。これは何かというと、"まっすぐ進むと元の場所に戻る"というのが球という形状の特徴であって、平面だとまっすぐ進んだら元の場所に戻らないという意味である。このトピックは"間違っているほうの地球平面説"でも扱われていて、これは「世界の端っこに来たらワープして逆側に出る」という説明で処理されたりする。めちゃくちゃである。でも仕方ない。それによくよく考えてみると球体地動説における自転や公転もほとんど似たようなものである。ほとんど誰にも信じられていないかほとんどの人に信じられているかの違いでしかなく、どちらもめちゃくちゃなものがただただ信じられているだけでしかないことに変わりはない。

もちろんこの"まっすぐ"進むというのは、コンパスに従って"まっすぐ"進むことを言う。それは東西南北の表示のことである。まさかコロンブスやマゼランが彼ら自身の人間の身体感覚によって"まっすぐ"進んだと考える人はいないだろう。彼らの進んだ大海原では風が吹き潮が流れているし、もちろん各地の港にも寄る。そんな中で最初から最後まで"まっすぐ"進んだということは考えられない。現代の大型船でも潮流に影響を受けると思うし、小さなクルーザーのような船舶であっても誤差はよく出ると聞く。つまり彼らはコンパスの東西南北に従って"まっすぐ"進んだのだし、現在でも根本は同じであろう。それは地図の東西南北に依存している。

そしてコロンブスもマゼランも西廻りで進んだ。コンパスが西を示す方向に向かってまっすぐ進んだのだ。そこで地球平面説(合っている方の)では、世界の中心が北極であり、外周が南極である(南極は現在一般に伝えられている形では存在しておらず、外周をぐるりと囲み、海水を保持している)。そしてある地点から北極のほうを見たときに右が東、左が西である。これは現行の世界地図の北極を中心とした正距方位図法に似る形となる。だがあくまでこれは太陽の動きを考えたときに現実と一致することによる理論的結末であり、その全体を実際に見たことのある人間はもちろんいない。だがともあれこのとき東西の線は北極を中心とした円になる。つまり円を描いて世界一周するのだ。コンパスの示す西に向いて"まっすぐ"進んで、そして円を描いて、元の場所に戻るのだ。こんな簡単な話だ。

コロンブスやマゼランの逸話は、地球が球体であることを証明したという文脈で語られることも少なくない。だがそれはあくまでも地球が球体であることを前提とした方角を採用した場合においてのみ有効な証明であって、東西南北の概念が違えば話もまた違ってくるのだが、「地球が平面なら世界一周できませんけど?」などと簡単に言ってくるような輩にはこれはなかなか難しいことだ。前提の変化によって理路も変化するようなトピックを扱うのは思考を営む上で最も難しいことのひとつである。そう、"まっすぐ"進むのはいつだって簡単ではない。

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