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猫の細部-猫と暮らして(10)

住宅街に暮らしていて、毎日猫に会う。ブロック塀、空き地、ベランダ、駐車場。そこかしこにいる野良猫達。

家の近所の二毛猫(白&黒)はもう老猫で、歩道を車道を人家の前をトボトボ歩いている。時々、駅前にまで足を伸ばしている。周りに人がいてもお構いなし。人間を恐れる様子はない。認知が弱まっているのか達観しているのか。何にしろ、我が道を行く。

多くの野良猫は、人間への警戒心を解かない。近づけば逃げる。撫でたいと思ってギリギリまで近づきあと一歩というところで、サッとどこかへ行ってしまう。
一定の距離で猫を眺める人間。眺められる猫。両者はおおよそそんな間合いで共に生活をしている。猫は人にとって最も身近な動物の一つだ。

こんなふうになってたんだ!の連続

あたしは絵心が無くて「猫を描け」と言われてもうまく描くことはできないが、なんとなくイメージはある。三角の耳、大きな瞳、長いしっぽ……。それは万人が思い描く抽象的な「ネコ」だ。
道ゆく猫を遠目から見ただけでは、その程度のイメージしかつかめない。

しかし、シロクロを飼ってから自分が持っていた「ネコ」像がいかに貧弱で画一的なものか思い知った。

例えば、耳。確かに三角だが、驚いたのがその薄さ。もっと厚みがあると思っていた。紙一枚の程度しかなく、太陽に当たると向こうが透けて見える。走る毛細血管も頼りない。

大きな瞳はまるでガラス玉で、丸みと艶やかさが印象深い。瞬時に変化する瞳孔は暗闇の中でもっとも広がる。夜の中で色の無い真っ黒な目で見つめられると、少しおののいてしまう。まるで異星人 グレーと遭遇したような気持ち。

しっぽはもう一つの生き物だ。しっぽの動きを見ると彼らの感情が分かるらしいが、本当にそうか。ゆらゆら訳もなく動いている様子を見ると、猫という愛らしい生き物にしっぽというこれまた愛らしい生き物が寄生してて、二つの生き物が人間を蠱惑ラブサイケデリコしているのではないか?

猫を知る。とは、猫を好きになる。

猫の内面を想像することはできるが、はっきりは分からない。
我々はこれからもずっと、猫の気持ちを憶測しながら、猫とともに暮らしていく。
けれど、彼らの外見は分かる。よく観察をすれば、長く暮らせば、漠然としたイメージが具体化される。「猫」から「シロ」「クロ」という特徴を持った個体の「絵」を掴むことができる。
ミルクティーと白色の毛、唇にあるホクロ、ピンクがかった耳、先が少し曲がったしっぽ、背骨の数が通常よりも一本多いシロ。
真っ黒な体毛にところどころに混じる白い毛、黄色の瞳、やはり黒みがかった肉球、肋骨の数が通常よりも一本少ないシロの背骨になった?クロ。
動物の中で一番愛らしい猫。その中で最も近く最も甘えてきて最も迷惑をかけて、そして最も長生きしてほしい二匹の猫ビッグラブ……。

猫への偏愛は、彼らの細部から生まれる。今日も二匹を見る見る見る。

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