見出し画像

「なぜか笑介」にみるサラリーマン漫画進化論。

そうかそうか。「POPEYE」の最新号はマンガ特集なんですな。へえ。そうか。なるほど。へえ。

あえて本日はそんな特集で取り上げられることのない作品をピックアップ。「POPEYE」読者が手を伸ばそうとすらしない。だけどつい惰性で読んじゃってた
あのマンガをフックアップしてみようと思う。

「なぜか笑介」を愛読していた友人がいた。彼の部屋にいくと「笑介」が全巻丁寧に揃えられており、「つい読んじゃうんだよね。なぜか」と半笑いされたことは今でも覚えている。あいつ、どうしてそんなに「笑介」を好きだったんだろうか。月曜にスピリッツを買い、水曜日に少年マガジンを欠かさず買う男。モーニングはルーティーンに入ってなかったんだよなァ。聞いたら「むずかしいマンガが多そうだから」ってあながち間違ってないんだよね、それ。

さて「笑介」の話だ。いつこの作品が終わったのか。記憶している読者は相当ディープなマニアだ。気がつくとスペリオールに移籍し「だから笑介」になっていたがボクが覚えているのはそこまで。主人公の大原笑介が昇進、マドンナの今日子さんと無事ゴールインしたものの物語の構造は変わらない。「総務部総務課山口六平太」のようにいつ読んでも変わらぬ安心感を得ることが出来るマンガって必要だと思いますけどね。もはやそんなマンガも「クッキングパパ」を残すのみか。延々続く架空の世界の、ごくごく当たり前の日常の話って続けていくのは難しいんだろうなァ。日曜日の「サザエさん」みたいな。全然話は変わっちゃうけど武田鉄矢が原作、作画が高井研一郎の「プロゴルファー織部金次郎」は全巻持ってることをカムアウトします。ああゆう人情咄に弱いのか、オレ。「笑介」はね、すみません。単行本すら買ったことないです。マンガ喫茶でも手に取ったことないです。スピリッツを毎週買ってた頃もちゃんと読んでたか記憶は怪しい。だけど終わると切ない。掲載してるだけで妙な安心感あるマンガって確かにあると思うんですよね。「ズッ」でコケるときの独特の擬音、「美味しんぼ」の富井副部長と双璧をなすメガネキャラ、高山係長、、うーんあとは何にも覚えてねえぞ。

ああゆうサラリーマンを主人公にした「課長島耕作」のアンチをいくほのぼの路線、もしくはスポ根感覚の熱血路線ってけっこう量産されてたんですよね。国友やすゆきの「AD物語」、とりいかずよしの「トップは俺だ」とか。だいぶあとになるけど池沢さとしの「痛快!マイホーム」なんてのもありました。いつの間にかやらサラリーマンというか、どっちかといえば医者とか弁護士とか「職業」自体がクローズアップされ、今や絶滅寸前のジャンルとなってしまいました。共感得にくいジャンルになったもんなァ。転職は当たり前、会社が働く人間を守るなんて時代じゃなくなってしまったし。サラリーマン漫画だと「転職」って一大イベントになるし、それだけで新しいエピソードになぅちゃうしね。ボクが思うに本宮ひろ志の「サラリーマン金太郎」。あの作品の始まりと終わりがサラリーマンを主人公とするジャンルのエンディングだったと思うんです。だって金ちゃん、「おう!やめたらァ」とすぐに辞表出すもんな。社内ベンチャー起業はするわ、留学するわ、休職するわの好き放題。ある意味矢島金太郎ってサラリーマンの欲望をすべて表現し尽くしたんですよ。あれ以上は無理ってとこまで描き尽くされ、サラリーマン漫画ってジャンルの終焉を迎えたんじゃないですかね。

島耕作は別なんです。あれは欲望を体現しているように見えてそうじゃない。だって社長になり会長になり相談役になった島耕作に誰が共感を得ているのか。どっちかといえば絶妙に老いていく姿なんじゃないですか。読み手が共感しているのは。もしくはいずれ自分にも来るであろう未来予測的な感じで読んでいるとか。だって上司の女に手を出して出向、派閥争いに敗れて海外赴任、赴任先では大学の同級生(男)がいて「実は俺、ずっと島のことが好きだった」と泣かれるわけですよ。これを僕らの話だなんて思いたくない(笑)別世界、つまりサイエンス・フィクションを読むように触れるのがボクにとって正しい「島耕作」の楽しみ方だと思っておる次第。だからまだ続いてるんじゃないですかね。容易に想像できるじゃないですか。「エンディングノート島耕作」とか。相談役まで来ちゃうと読み手としては未知な世界ですからね。

今後、新しい形のサラリーマン漫画が出てくるのか。おそらく出てこないと思うんですよ。ボクの中では「サラリーマン金太郎」がジャンルを破壊し、柳沢きみおの「SHOP自分」が名実ともにジャンルの終わりに楔を打ったとしておきたいんですけどね。ほら「SHIOP自分」って働いてた会社がいきなり倒産、「どうすっかなァ」と行きつけの中華屋で炒飯や冷やし中華を「美味し!」と食いながらダラダラ悩んで、勢いで古着屋始めて紅茶で染めたTシャツ作る話じゃないですか。もはや会社は倒産した時点で転職活動すらなかった。「笑介」なら「ズズッ」と擬音とともにコケるところですよ。「山口六平太」ならお得意の舌で吸い掛けの煙草を巻いたりする舌技を繰り出すところか。

それにしても「なぜか笑介」全巻揃えてたあいつは今どこで何をしているんだろうか。続編「だから笑介」も買ってたのかな。気になるところだ。「社長大原笑介」って1巻だけ出てるの知ってるのかな。今度聞いてみたいけど連絡先知らないんだよね。ズッ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?