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深遠なる「リンかけ」ワールドを巡る冒険の旅へ〜男一匹、香取石松。

香取石松。ボクらはこの男のことを一生忘れない。

「リングにかけろ」1stシーズン最終章にて剣崎と最愛の女性にして親友高嶺竜児の姉、高嶺菊争奪戦を行い敗れた男(もちろんお姉ちゃんに自らの思いは伝えてない)にして日本jrの切り込み隊長。千葉県在住の自称ケンカ・チャンピオン。体格的には小粒な部類。それゆえに生まれたスーパーブロウがハリケーン・ボルトでありスパイラル・タイフーン。あのリアルボクシングでは絶対にありえない空中殺法は全国の小学生のハートを鷲掴み。あの構図、すがやみつるの「ゲームセンターあらし」とか絶対に参考にしてるはず。派手さでいえば同じ日本jrの越後の若武者、河合武士のジェットアッパー、ジェットラベンターと並ぶと思うんだよね。

「リングにかけろ2」。これがスーパージャンプで連載開始になったとき驚きというかなんというか。「キン肉マン」や「キャプテン翼」、「銀牙」に「男塾」といったキラ星コンテンツの続編&スピンアウトが始まるのとは重みがまったく違うんですよね。ジャンプで掲載→単行本売れる→アニメ化(日テレ月曜夜の枠orフジテレビ、時々テレビ東京/例外テレ朝)というヒットの方程式が確立された80年代中盤以前のジャンプ作品でボクのような昭和40年代生まれのガキどもにしてみれば「リンかけ」は聖書そのもの。いま考えると当時どうしてアニメ化されなかったのかが不思議で仕方がないほどヒットした作品だ。

そんなヒットコンテンツの続編である。主人公はあのスーパースター、剣崎順と高嶺菊の間に生まれた男。それが剣崎麟童。この物語冒頭、はっきりと高嶺竜児と剣崎があの1stシーズンラストページ後どうなったかは語られていない。これに関しては正直読んでてヤキモキさせられた。もしかして存命?と。

高嶺菊は剣崎家に正式に認められた新婦ではなかったことはすぐにわかる。たったひとりで出産し、その子の名前を「石松につけてもらいたいのっちゃ」とベッドの上で懇願。そしておそらく菊はその直後に逝去したと思われ、なんと育ての親として石松は奮闘するわけです。いいやつだ、石松。漁師として働きながら船上のうえで麟童をあやすシーンは泣ける。ところがだ。

剣崎家は後継問題に揺れていた。要するに「順坊ちゃん」の血を受け継ぐ麟童がいないとヤバいんだと石松の家に押しかけ土下座。結局麟童は母も父もいない豪邸で孤独な日々を過ごすことになる。そして自己流で始めたボクシングと見様見真似で会得したギャラクティカ・ファントムでストリートファイトに明け暮れる日々。つまりはケンカ・チャンピオン。おお、若き日の石松とここでつながるわけだ。

すっかり大人になった香取石松は「リンかけ2」第一回目から登場する。無邪気で愛嬌のあるキャラは影を潜め、そこにいるのは苦みばしった中年男。そうなんだよな。「リンかけ」終了時からカウントすると黄金の日本jr、全員30over。志那虎は正直ようやく年相応なんだけどさ。途中から登場するアルコール中毒の河合武士とか切ないものがありましたね。皆、苦労してんだよな。

「リンかけ2」にはあの高嶺姉弟が上京早々お世話になった三条家も登場する。ここの天然ボケの娘、三条一菜はなんと麟童の婚約者なんだが、三条家は没落寸前、一菜はキャバクラで働かなきゃいけない羽目になるってエピソードは時代の流れを感じさせますね。ちなみに麟童のキャラ、当初こそエッジの効いた不良キャラかと思いきや、TATOOはシールだったり(笑)物語が進むにすれ育ての親、香取石松の若き日のアホキャラが強調されていく。そこに天然ボケの一菜が絡むとゆるふわなシーンに。これぞファーストシーズンとの大きな違いよ。

麟童はボクシングをやるにあたり、後見人である元黄金の日本jrの面々から許可を得ねばならない展開とか、予想されていたけどあの世界jrの第二世代たちとの闘いが始まったり、影道総帥の息子や河合の甥(心臓が弱くて早々に消える)、志那虎の息子など麟童のもとには続々仲間が集結する。そう、唯一の既婚者なんですよ、志那虎は。もっとも妻を早くに亡くしてるのだが。そして最終章はあの懐かしの大村ジム(アハ。タコ社長by高嶺菊)で猛練習を積む謎の姉弟。弟が竜児そっくりな時点で読み手はドキドキするしかないんですけど、なんと麟童の双子の弟、、て、ここで判明する事実にしては唐突すぎだよ!ちなみにこの時期になると石松はすでにこの世にいない。

生き残った元黄金のjrたちは過度の闘いを経て満身創痍な状態だった。石松に志那虎、あのアル中にまで身を落とした河合でさえも。最終回が近づくにつれ志那虎が、そして河合も旅立っていく。影道総帥は生き残ってたっけな。ちなみに「リンかけ2」では新しい奥義「影道回生覇」(病んだ血を急展開させ流れをよくし病を除去する)を披露してたのは覚えてる。

「リンかけ2」とは結局なんだったのか。それはボクら読者がちょうど30を迎える2000年初頭に連載が始まったことに大きな意味がある。リアルタイムで「リンかけ」を体験できた世代って若くてもこの時点で20代後半、上をあげればキリがないけどおそらく35手前あたりがメインターゲットだったと思うんです。要するにどっかでまだくすぶってるお年頃。「もう一回、やってみっか。青春ってやつをよ」と「リンかけ2」連載当初に作者、車田正美がコメントしているようなテンション。惰性で過ごした20代の終わりとこれから先の未来に向けて「もう一回、オレたち熱くなれっかなァ」と。自分に向けての問いかけも含めてエンジンを始動させるか否か。そんな判断を迫られる「踏み絵」のようなマンガ。それが「リングにかけろ2」だと思うのだ。

今や本編が終了したあとの続編、スピンアウトはちっとも珍しい話じゃない。たとえば「カイジ」に関して言えばスピンアウトのほうが(ボク的には)面白いし「ハンチョウ」全巻揃えちゃったもんな。あだち充の「MIX」だって「タッチ」のスピンアウトというかパラレルものというか勢南の西村とか出てきちゃってるわけで変化球な続編とも言えるわけだ。もちろん中にはただダラダラ続いてる前作越えは絶対ムリなかわいそうな続編もある。アレはどうして続編やろうとしたんだろうな。

「リングにかけろ2」。前作越えしたかといえばしてはいない。だけど負けたかって言うとそうじゃないんだ。ボクの感想だけで言えば相討ちドローじゃなかろうか。カイザーナックルがどうして大村ジムにあったかとか判明するのは「2」だもん。

前作よりも明確に違うのは死んだらそこで終わりだってことをはっきり描いてるとこ。河合の甥とか生き返りあるんじゃないかと思ってたけどナッシング。剣崎も竜児もやはり亡くなった(これは2中盤以降でやっぱりそうかと判明する)。そして香取石松も男1匹独り暮らしのまま亡くなる。大好きだった高嶺菊への想いを抱いたまま。初恋に殉じた男でもあるんです。男だなァ。てか、前作の竜児との石松の実家探訪の際、沢山弟やら妹いなかったっけ、、お母さんは?なんて気にしちゃいけない。名作Vシネマ「日本統一」を思い出して欲しい。ある港の映るシーン、誰がどうみても横浜港。だけどテロップでは津軽!と言い切る。大事なのは勇気。気にしちゃいけない。弟がなんだ。香取石松が独身であることには変わりないもん。

とりあえずファースト「リンかけ」は知ってるし夢中になったってひとは多いと思う。だけど2を最後まで完読したのって少数派じゃなかろか。賛否は分かれる続編だけど香取石松の男っぷりのよさを確認するだけでも読む価値はある。「はじめの一歩」の続きが気になるのもわかる。だけどオレら大人になった視点でも一回「リンかけ」イズムを思い出すにはこの続編マストで完読必至でしょうよ。

さあ親愛なる「リンかけ」読者諸君よ。大人になった元黄金の日本jrたちの生ける伝説を堪能せよ。あ、剣崎と菊姉ちゃん、いつのまに、、なんてヤボなことは言うなよ。ボクの予想ではファースト最終章、姉ちゃんが竜児のもとを去った直後と予測してるけどみんなはどう思うかい?(どうでもいい)

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