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読書感想文:質問力

斎藤 孝 著

■要旨

”コミュニケーション不全症候群”という言葉が出てきて久しいが、そういう人々は一層増えている。
しかし著者が若い人とつきあって感じるのは友達同士のコミュニケーション能力はさほど落ちていないということだ。
プライベートな関係では、自分勝手な会話や少ない語彙も許される。だが友達以外の人間関係には通用しない。
初めて会う人と3分後には深い話ができたり、相手の専門的な知識や話題を、たとえ自分は素人でも聞き出せる能力があるかないかは、その人の人生を決定づける鍵になる。
本書では「質問力」という言葉を提言し、質問するという積極的な行為によってコミュニケーションを自ら深めていく練習を促している。

■「質問力」を技化する

質問力は状況や文脈を常に把握する力が試されているといえる。質問を聞けば、その人間が場の状況やそれまでの文脈をどれだけ理解していたかが即座にわかってしまう。非常に怖い指標である。

質問は網だ。しっかり作っておけば、いい魚がとれるのである。

■いい質問とは何か?

座標軸を使った座標軸思考法がいろいろなことを整理することに使える。
「質問力」を整理してみると大変分かりやすい。

座標軸①
縦軸のプラス方向が「具体的」マイナス方向は「抽象的」である。
横軸は右側のプラス方向が「本質的」で、マイナス方向が「非本質的」というものである。聞き手が本質的ではあるが、あまりにも抽象的なことを聞きすぎると、「人生で最も大切なものは何ですか?」と聞かれて「愛」と答えるような、不毛な対話になってしまう。

座標軸②
縦軸のプラス方向が「自分が聞きたい」マイナス方向は「自分は聞きたくない」である。横軸は右側のプラス方向が「相手が話したい、答えたい」で、マイナス方向が「相手は話したくない、答えたくない」になる。この座標軸はシンプルだが、意外に整理がきく。

座標軸③
縦軸のプラス方向が「今現在の文脈(状況)に沿っている」、マイナス方向は「今現在の文脈(状況)に沿っていない」である。
横軸は右側のプラス方向が「相手の経験世界、つまり過去の文脈に沿っている」で、マイナス方向が「相手の経験世界、つまり過去の文脈に沿っていない」になる。

■コミュニケーションの秘訣

コミュニケーションの秘訣は「沿いつつずらす」ことにつきる。これは筆者が標語化して、キャッチフレーズのように使ってきた言葉だ。人と対話するとき、相手に沿った話をしないと乗ってこない。しかし沿っているだけでは話は発展しない。沿うことを前提としたうえで、角度をつけてすこしずらしていくのが筆者が経験的に得たコミュニケーションのコツである。

「言い換え」は話の理解度を試すうえで非常に良い方法である。違う言葉で言い換えさせたり、自分の言葉で言い換えさせるトレーニングは効果的だ。同じ言葉を反復するのはただの丸暗記だが、自分の言葉で言い換えることができれば、その内容が咀嚼されて自分のものになっていると相手に示すことができる。対話が無駄になっていないことが相手にメッセージとして伝わるので、あいづちやオウム返しよりワンランク上の沿う技といえる。

「引っ張ってくる」はさらに高度な沿う技だ。相手が少し前に言った言葉をもう一度、今の文脈に持ち出すという技である。使う人がわりと少ない高度なテクニックだが、使ってみると非常に効果がある。やり方だが、相手の話の中にキーワードをまず見つける。そして相手の口から発せられた言葉を自分も使うと、相手は大変好感を覚えるのである。その際、直前に言われた言葉を使うとオウム返しになってしまうが、20~30分前に言った言葉やその人が言った言葉を覚えておいて引用すると「いやあ、君はよくわかっているねえ」と評価される。当人が言った言葉だから、相手は喜んで話を聞く。非常に効果的な技である。この技はメモを取る週間とセットになって鍛えられる。話を聞いているだけだと、20~30分前にあった言葉を引用しながら、もう一度現在の話に組み込んでいくのは難しい。しかしメモを取る習慣がついていると、手で書いて、目で見て、さらに文字として残っているので、見て確認することができる。

■コメント

「質問力が足りない」と感じて最初に手に取ったのがこの本だった。
以前から、セミナーや研修等で「質問はありますか?」と司会者が聞く場面で手をあげるようなタイプではなかったが、質問が浮かばないのは議題に対して自分に興味が湧いていないからだと気にしていなかった。自然と浮かぶ質問で仕事は回っていたし、質問を練り上げる必要性も感じていなかった。
しかしながら、最近職場で業務と直接関係ない会議、新人育成関連や各自のユニークな取り組みを披露する場など、に参加する機会が増えて、そこまで興味ないものに対してもコメントを求められることが多くなった。
この状況が続き、「あれ、いいコメントができないぞ?」と危機感を感じるとともに、だいたいどの会議でも同じ人が質問していることに気づくようになった。

会議でいいコメントをするために読み始めた本だったが、「質問力」がないということがあらゆるコミュニケーションの障害となっていることに気づかされた。
質問することは相手に興味があることを示す最も有効な手段であり、相手が答えたくなるような質問を投げかければ、初対面の人でも簡単に距離を縮めることができるのである。人見知りという言葉は、質問力の欠如と言い換えても間違いではないかもしれない。

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