【えいごコラムBN(36)】ママとアップルパイ…?
前回のコラムを書いているとき、「ごもっとも!」とか「そりゃそうだ!」という意味の英語表現を探していました。
そしたらウェブ辞典『英辞郎』に、「ごもっともなこと」という意味の表現として、 “mom and apple pie stuff” というフレーズが出ているのを見つけました。
この stuff は「もの」や「こと」を漠然と表す名詞なので、あえて訳せば「ママとアップルパイ的なこと」という感じです。
なぜこれが「ごもっとも」という意味になるのでしょう。
『英辞郎』には説明がなかったので調べてみることにしました。
こういうとき役に立つのが英語圏のサイトです。
たとえば UE (UsingEnglish.com)では、様々な人が英語の用法について質問し、それに一般の人が答えています。
日本でいえば「知恵袋」的なサイトだと思ってください。
そこである人が “motherhood and apple pie” という表現について次のように質問していました。
質問者はネイティブの英語話者ではないようですが、ネイティブの同僚も意味を知らなかったとのことです。
末尾の approach は、課題への「取り組み方」、「対処法」のことだと思われます。
この表現は「それは母親とアップルパイ的な対処法だ」といった文脈で使われていたようです。
この質問に、ある人は次のように回答しています。
この人は、ふつうは “Mom and apple pie” の形だとしています。
cozy は「居心地のよい」、 homespun は「素朴な、家庭的な」という意味です。
これは家庭的で居心地のよいイメージを呼び起こす表現なのです。
第二次世界大戦中、海外のアメリカ人兵士が故郷の最も懐かしいものとして挙げたのが「ママとアップルパイ」だったそうです。
ここから転じて、この表現は「誰からも好まれるもの」を表すのに使われます。
逆説的に、これが「嫌いだと言いにくいもの」、「反対しにくいこと」を表すこともあるようです。
ビジネスの場ではそういう使い方をすると指摘している人がいました。
argue with は「~に反論する」、 substance は「実質性」、 novelty は「斬新さ」です。
会議の席などで、いいことを言ってて反論しにくいんだけど、その実、目新しさがなくて実際の役には立たない、という発言があったときにこの表現を使うみたいですね。
次の文の “driving for growth” は「成長を推し進める」といった意味で、 “underlying cost structure” は「基本的な原価構造」です。
誰かが「コストの高騰を抑制しつつ成長を推し進める戦略をとろう」とか言うと、「そりゃそれができれば苦労しないよ」というリアクションが出て、その発言は “motherhood” 的なものとして切り捨てられるというわけですね。
なるほど、だんだん分かってきました。
つまり “mom and apple pie stuff” というのは、もっともで反論しにくいが、その実あまり役に立たないような意見を形容するのに使われるらしいです。
だから「ごもっともなこと」なんですね。
アメリカ人がいかにパイを愛好しているかを語った別のサイトにもこの表現が出ていました。
パイはアメリカ人にとって国の繁栄と栄光の象徴なんだそうです。
大戦中、アメリカ人兵士に「何のために戦うのか」と問うと、その多くは「ママとアップルパイのため」と答えたとか。
彼らにとって「好ましさ」や「正しさ」の代名詞となるのが “mom and apple pie” なんでしょう。
それは「ごもっとも」ですが、他の国に出かけて爆弾を落としておいて、その理由が「ママとアップルパイのため」では、落とされた方は釈然としないでしょうねぇ・・・。
(N. Hishida)
【引用文献】
“motherhood and apple pie.” UE (UsingEnglish.com).:
http://www.usingenglish.com/forum/english-idioms-sayings/37062-motherhood-apple-pie.htmlRobinson, James. “An American pie.” Voyages in America.:
http://www.stuff.co.nz/travel/blogs/voyages-in-america/8539716/An-American-pie
(タイトルのBNはバックナンバーの略で、この記事は2013年9月に川村学園女子大学公式サイトに掲載された「えいごコラム」を再掲しています。)