ちょっと距離をとる
寝る前に1日を振り返ってみたら、
ほぼほぼ夫と会話をしていなかったと気づいた。
夫は用事があって早朝から出掛けて行って、帰って来たのは午後6時半くらい。
その後は夫の家族と夕食に行き、家に帰ってきたときには、普段からタレ目の夫の目はさらに垂れ下がり今にも閉じてしまいそうだった。
なんとかシャワーだけを済ませると夫はいつもより1時間ほど早めに寝室に向かい、
わたしがいつもの時間に寝室に来たときにはすでに寝息を立てていた。
夫は物音でわりとすぐに起きてしまう人なので、なるべくそぉっとベッドに入り横になった。
だがよほど疲れていたのか、猫がナァオと鳴いてベッドの上に飛びのってきても夫は起きなかった。
真っ暗な部屋で、そういえば夫と会話らしい会話をしなかったなと気がついて、
すこし面白くないような気持ちを感じると唇の端がきゅっとかたくなった。
わたしが寝返りをうとうとすると、
それまでは静かだった夫の寝息がピュルルルルという可笑しな音にかわって、それに思わずふふっと笑うと、足元にいた猫がこちらを振り返って小さくナァと鳴いた。
その瞬間だ。
わたしはなんて欲張りなんだ、とハッとした。
そして泣きだしそうになるときのように
鼻の奥がすぅっと広がって、
さっきまでの面白くない気持ちはどこかに消えてしまった。
わたしはそこではじめて夫に
「もうちょっとこうだったらいいのに」という
勝手な期待を育ててしまっていたと気がついた。
勝手な期待はディスプレーみたいだ。
ディスプレーというのは動物が自分を大きく見せようとしたりするあれだ。
動物は威嚇や求愛などの目的を持ってあのような動作をしたりするけれど、
勝手な期待というのも
この気持ちを相手に見せつけたい、
近寄って行って「見て」としたい気持ちなのかもしれないと思った。
だからそんな気持ちになったときには、
いつものちょうどいい距離感を超えて自分が相手に近づきすぎてしまっているとも言えるんじゃないか。
ちょうどいい距離感って大切だ。
勝手な期待を育てない、もしくは育ったそれを見せつけに行かないで済むくらいに
ちょっと距離をとることが必要なんだな。
足元に猫の重さとあたたかさを感じながら夫の寝息を聴いていると、
それだけでとても満たされた気持ちになって
いつの間にか眠りについていた。
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