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【湖南市選挙解説⑲】何を訴えるのか

「選挙公報」というものがあります。これは選挙管理委員会が無料で発行するもので、候補者の氏名、所属政党、経歴、政見などを、候補者が提出した通りの原稿を印刷することで有権者の手元に届けて、投票の際の選択の助けとするものです。

滋賀県議会議員選挙湖南市選挙区では4人が立候補していますので、それぞれの主張がその人柄とともに一覧して感じることのできる数少ない材料です。このご時世に今後4年間を託すのに検討材料が数少ないのもどうかと思いますが。

日本維新の会公認の柴田栄一候補は54歳で、「誰でも、いつからでも、何度でも挑戦できる!そんな未来社会を目指します!」と訴えています。比較的短時間の準備で出馬したにもかかわらず、項目としては日本維新の会の政策を織り混ぜながら、①身を切る改革、②未来ある次世代への投資、③ひとりひとりに光を、④あなたはあなたのままでいい、⑤グローバリゼーション、⑥高齢者にやさしい社会を、⑦自助・共助・公助、の7本の柱にうまくまとめています。

無所属の藤川としき候補は48歳で、「このままではあかん!」と大きく書き、「子育て世代を代表して次世代を担います!」と主張を斜めに配して強調しています。政策は、①生活に寄り添い、安心を追求したまちづくり、②生きる喜びと可能性を感じる教育・子育て、③熱量を感じる働く場づくり、④責任ある情報提供、政治の見える化、の4項目に括られていて、やる気を感じられるつくりになっています。

柴田栄一候補と藤川としき候補の選挙公報

自由民主党公認のすがぬま利紀候補は45歳で、「やさしくあるために強くある。」をキャッチフレーズに、「これがいいたい10の考え方。」として、まず大きく①ちょっとまって『交通税』を掲げています。その他、②少子高齢化に備える財政基盤を今、つくる、③「びわこ」ならではの子育てナンバーワンを目指す、ストップ少子化、④道橋河川の適正管理、自民党の強みを生かす、⑤安全で安心な滋賀を目指して、⑥「健康しが」をのばし、やさしい滋賀を現実に、⑦やりたくナル、使いたくナル、を引き出して滋賀を活発に、⑧夢が描ける農林水産業を推進する、⑨デジタル加速によるアナログ回帰、⑩自民党に新しさを、次世代の滋賀、日本へ挑む、の網羅的な政策体系です。

立憲民主党公認、チームしが推薦の塚本しげき候補は年齢を書いておらず、主張を「健康しがの実現を目指して」と短くまとめています。原稿はポンチ絵になっており、真ん中に「3つの共に」と書き、まわりに「人と共に」「自然と共に」「社会と共に」と配しています。そして、それぞれのグループに、例えば「人と共に」であれば、①子どもの生きる力を育み、若者や女性が輝く社会の実現、②すべての人に居場所と出番があり、最期まで充実した人生を送れる社会の実現、③「文化とスポーツの力」を活かした元気な滋賀の創造、のように3つずつの政策が書かれています。

すがぬま利紀候補と塚本しげき候補の選挙公報

ここでひとつ気になりました。

塚本候補の政見は、実は甲賀市選挙区の田中松太郎候補と一字一句同じであるのです。田中候補はチームしが公認ですので、それではチームしが全体で共通政策として打ち出しているのかと思い、全県を調べて見ると、大津市選挙区の佐口よしえ候補(推薦)、彦根市犬上郡選挙区の中沢けいこ候補(公認)、長浜市選挙区の宮本てつや候補(推薦)、近江八幡市竜王町選挙区の今江政彦候補(推薦)、栗東市選挙区の九里学候補(推薦)、東近江市日野町愛荘町選挙区の山本みえこ候補(推薦)もそれぞれ独自に政策をつくりあげており、ひとつとして同じものはありませんでした。さらに野党系の大津市選挙区のかわい昭成候補や草津市選挙区の山本正候補、守山市選挙区の小川やすえ候補も個別に作成されています。

そうであるとすれば、塚本候補と田中候補はなぜ一字一句同じ公約にしているのでしょうか。塚本候補は国政政党の公認候補であり、地域政党の公認候補である田中候補とはその立ち位置は違うはずです。しかも訴える有権者は湖南市民と甲賀市民で異なるにもかかわらず、まったく同じ公約を掲げているのです。選挙公約というものは政治家個人が有権者に約束して選挙で選んでもらうためのものですので、他の政治家の公約をお互いに流用して済まされるものではないでしょう。

塚本しげき候補と田中松太郎候補の選挙公報

それぞれが自分党である自民党はさておいても、政策に共通性と一貫性のある公明党や共産党ですら、政治家個人の公約を共同発注して手間を省くなどあり得ないところです。二人で額を付き合わせて一字一句調整したという可能性はありますが、塚本候補は「感染症と社会活動の両立」や「議会改革」を付け加え、田中候補はこれまでの実績を挿入しており、そこまで共通性にこだわった跡は窺えません。

明日あたり「選挙公報」が有権者の手元に届き始めますが、隣の選挙区の「選挙公報」までは届きません。それをうまく利用して公約の作成作業を丸投げしたのであれば有権者に熱い思いが伝わらないのではないかと心配します。なぜなら、実は今の時点ですでに滋賀県選挙管理委員会のホームページではすべての候補者の「選挙公報」を見ることができ、一字一句同じ公約であることが確認できるからです。

塚本陣営では、明後日、400席以上ある甲西文化ホールで個人演説会をするという情報を寄せていただきました。そこで田中候補と一字一句同じ公約を主張するのでしょうか。聴きに来た有権者がそこに興味を持つ可能性もあります。

      (2023年4月4日記)

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