見出し画像

昔のコンデジで遊ぶ(3) ~2011~2012年頃に発売された激安コンデジを試す…


■2011~2012年頃のコンデジ市場

 「昔のコンデジで遊ぶ」シリーズの3本目の記事である。今回は少し趣を変えて、手持ちの古いコンデジの中から「発売当時の価格が激安」の製品に絞って、撮影テストをしてみたい。
 
 本稿を書いている2024年現在、APSサイズや1インチなどの大型センサーを搭載した高級コンデジや、防水・防塵を強化した特殊用途、そしてレンズ交換式のミラーレス以外に、デジカメの新製品はほぼ売られていない(中華製品やトイデジライクな製品を除く)。国産メーカーの普及価格帯のコンデジは、事実上新製品が存在しなくなって久しい。コンデジ市場衰退の象徴的な出来事は、2018年のカシオのデジカメ製造・販売から撤退である。カシオは普及価格帯デジカメでトップクラスの販売実績を持っていたが、コンデジ市場の将来に見切りをつけてあっさりと市場から全面撤退したのだ。
 数年来、スマホ、それもミドルクラスのスマホのカメラに搭載される撮像素子は5000万~1億画素が普通で、SoCの高速化・高機能化に伴って画像処理機能も高度化し、いわゆる普及価格帯のコンデジでは太刀打ちできないほど高画質の画像を得られる。しかも広角、望遠など複数のカメラを搭載する機種も一般化している。撮影後の画像の処理・リメイクも自由だ。要するに日常の画像記録を目的とするコンデジは、完全にスマホに駆逐された形になっている。
 ところで、スマホのカメラの高画質化・高機能化が進み、コンデジと用途面で拮抗するようになったのは、いつ頃からだろう? 僕は、2011年あたりが境目の年だと考えている。
 
 2011年と言えば、iPhone 4sが発売された年だ。2010年に発売されたiPhone 4のカメラが500万画素であったのに対し、翌2011年に発売されたiPhone 4sは、5枚レンズ構造の800万画素のカメラを搭載していた。加えてiPhone 4sには、新OS「iOS 5」が搭載された。iOS 5では、ロック画面から直接カメラが起動できるようになり、シャッターボタンが新設され、AE/AFロック機能がつくなど、カメラの使い勝手が大きく向上した。さらに、顔認識機能も搭載された。スマホのカメラが、画質面でも機能面でもコンデジに近づいたのだ。800万画素カメラは、同じく2011年に発売されたハイエンドAndoroid端末のサムスン「GALAXY SⅡ」にも搭載され、同機はHD動画も撮影可能な高画質カメラを売りにした。
 この2011年頃を境に、市販の普及価格帯コンデジはスマホに対して「カメラ」としてのアドバンテージを失い始めた。このことが、普及価格帯コンデジが徐々に市場を失っていくきっかけとなった。
 
 そしてこの2011年~2012年にかけて、コンデジ市場ではちょっとした異変が起きた。そこそこの機能を持つ普及価格帯のデジカメの一部が、極端に安売りされ始めたのだ。具体的には「1万円以下」で販売されるデジカメが急増した。
 この時期に、コンデジメーカーは「安価なコンデジ」を発売することでスマホに奪われつつある市場を維持しようとした…のかどうか、当時のメーカーの思惑はわからない。2011年と言えば、まだコンデジ市場はメーカー各社から新製品が続々と投入されていたし、普及価格帯の機種も多彩なラインアップが揃っていた。しかし一方で、この時期になって極端に安売りされるコンデジが増えたことは間違いない。
 
 前2回の記事に次いで今回は、手持ちの古いコンデジのうち、2011~2012年頃に発売された製品で、特に「1万円以下」で購入できた安価なデジカメを取り上げてみる。オールドコンデジがちょっとしたブームになっている現在、2010年前後に発売された普及価格帯のオールドコンデジの中古品がメルカリやヤフオクなどで軒並み1万円以上の価格で販売されている。そんな状況の中、当時新品でありながら1万円以下で売られていたデジカメの性能がどの程度のものか、今、中古品を買って使えるのかどうかなど、あらためて検証してみる。

■ソニー DSC-W350

 DSC-W350は、2011年 2月10日に発売された。特に機能面でエントリークラスというわけではないが、一時期非常に安価に売られていたデジカメである。発売直後から1万円台前半の価格で売られており、さらに一時期は家電量販店などでどこでも1万円以下で売られていた。僕も当時8000円台という低価格で購入した。
 有効1410万画素のCCD(Super HAD CCD、1/2.3型)、F2.7(ワイド端)と明るい広角26mmからの光学4倍ズームを搭載する。カールツァイスレンズ バリオ・テッサー、レンズ構成は5群6枚〈非球面レンズ3枚〉というかなり贅沢な光学系である。
 センサーと光学系がしっかりしているだけでなく、光学式手振れ補正機能を備え、シーン撮影やお任せオート撮影など必要十分な撮影機能を備えている。ボディの質感も悪くない。約100g(本体のみ)と軽いがプラスチッキーな感触ではなく、ボディが小さいが故の適度な重量感とメタリックな質感を持つ。
 
 このW350、特に広角側が26㎜というのは使い勝手がいい。F2.7と明るいのもいい。そして何より小型・軽量で持ち歩きが楽だ。横:90.7mm、縦:51.5mm、厚さ:19.4mというサイズは掌に載る。マウンテンパーカのポケットに放り込んで散歩しても、まったく苦にならない。
 画質は、すごくいい…というわけでもないが、撮影条件を問わず可もなく不可もない「きれいな画像」が得られる。夜景も、オート撮影できれいに撮れる。料理の撮影などマクロも悪くない。昨今のスマホで撮っている画像とほぼ同じレベルの画像が得られる。そして撮像素子にCCDを使っているため、発色は自然で、あまり硬質ではない柔らかい描写の絵が撮れるのもいい。小さいセンサーで1400万という画素数の割にノイズも少なく、十分にシャープだ。AFの合焦精度も高く、望遠端でも解像感はほとんど落ちない。夜景もオートできれいに撮れる…というか、作例の夜景スナップを見てもらえばわかる通り、条件次第ではレンジ感がある緻密な画像を撮ることができる。むろん、最近のハイエンドデジカメやミラーレスで撮った画像とは較ぶべくもないが、日常の記録、ちょっとした旅の記録などに使うには、現在の水準で見ても十分だ。
 
 当時多くのコンデジを所有していたにも関わらず、W350は購入した直後からかなりの頻度で使用した。特に海外で使った。購入した時期はちょうどバンコクやクアラルンプールなどアジア地域への出張が多かったので、現地で街歩きをしながらスナップを撮るのに都合が良かった。数日間ラオスの田舎を旅行した時など、ほぼこのW350だけで撮影した。ともかく軽くて小さいのでポケットに入れておいても邪魔にならない。撮影時の威圧感もない。当時は既にスマホのカメラも高い頻度で使っていたが、W350の4倍ズームが便利でいろいろなものを撮影した。起動時間がちょっと遅い(1.6秒)こと、バッテリーの持ちがよくないことなどが数少ない不満点だ。ともかくこのW350、海外旅行先を中心におそらく購入して1年間ぐらいの間に数千カットは撮影しているだろう。それくらい「実用的」なデジカメであったということだ。
 
 今あらためてこのDSC W350を使ってみると、これだけの機能を持つデジカメが当時なぜ新品で8000円ちょっとで売っていたのか、非常に不思議だ。今回久しぶりに電源を入れてみて、その機能と使い勝手の良さを再認識したので、しばらくカバンの隅に放り込んでいろいろと撮ってみようと思った。

街角スナップ
夜景スナップ

■ペンタックス Optio LS465

 「Optio LS465」は、2012年6月にPENTAXから発売されたエントリークラスのデジカメである。発売当初は1万円台前後で売られていたが、発売翌年の2013年になると、どこでも5~6000円で投げ売りしていた。僕が知っている最安値は3980円で、大手家電量販店の店頭で売っていたのを見たことがある。あまりに安いので僕も5000円以下で入手し、面白半分に使ってみた。
 
 エントリークラスと言っても、その数値上の基本スペックは当時のコンデジの水準に見劣りしない。撮像素子は1600万画素の1/2.3型のCCD、5.1~25.5mm(35ミリ判換算 約28~140mm)、 F3.9(W)~F6.3(T)光学5倍のズームレンズを搭載している。コストカットのためか、物理的な手振れ軽減機構は搭載していない(手振れを防ぐために自動的に高感度モードに移行する機能はある)。本体にケーブルを繋いで充電する形だが、フル充電で200枚撮影可能だ。
 徹底したコスト削減のためか、ボディはプラスチッキーで非常に安っぽい。しかし、ともかく軽くて小さいこと(電池、SDメモリーカードを含んで約122g)、さらに独特の横長の形状と合わせてこれはこれで面白い。LS465は、透明なパネルとカメラの間に着せ替え用シートを挟むことで前面のデザインを変えることができる。この着せ替え用シートが10枚付属している。僕はとりあえず「牛柄」のシートをつけてみた。プラスチッキーなボディとも相まって、ある意味「キッチュ」なカメラだ。
 
 肝心の画質は、はっきり言ってあまり良くない(個体差である可能性もある)。撮影画像は全体的にシャープさに欠けており、先に書いたDSC-W350と比較しても1600万画素の撮影画像らしくはない。広角側はまだマシだが、望遠端で撮影すると、シャープ感がない眠たい画像になる。要するにダイナミックレンジが狭い。明暗差が大きい被写体は、白トビ、黒つぶれを起こしやすい。当然夜景の撮影も苦手だ。手振れ補正機能がないので、望遠端ではけっこう手ぶれを起こす。AFの精度も低い感じで、油断するとピンボケっぽい画像を量産しがち。画質の低さに関しては、この時期に発売された普及クラスのデジカメの中では、ダントツでトップクラスだ。撮影シーン別のオートピクチャーモードがあり、一通り使ってみたが特にきれいな画像が得られるわけでもない。
 ネガティブなことばかり書いたが、良い点もある。先にシャープさに欠けると書いたが、逆に言えばふんわりとした柔らかい画像が撮れる。ナチュラルな発色と相まって、これはこれで悪くない。ボタン配置がシンプルで、さほど多くの機能を搭載していないこともあって、操作性は悪くない。軽くて小さいから、日常持ち歩いてもまったく邪魔にならない。
 
 画質が低めで全体的に非常に安っぽいこのこのOptio LS465、ではこのデジカメは使う価値がないのかと言えば、そんなことはない。
 着せ替え用シートを使ってポップでキッチュなトイデジ(トイデジカメ)風カメラに仕上げて持ち歩けば、それなりに存在感がある。使っているところを他人が見れば、ちょっと注目を浴びるだろう。画質面で多少の不安はあっても、日常風景を記録するだけならさほど大きな不満はない。トイデジよりはるかにまともな画像が得られる。もし中古品を2~3000円で購入出来たら、持ち歩いていろいろと撮って遊んでみるものいいだろう。

街角スナップ
夜景スナップ

■カシオ EXILIM EX-N1

 カシオ EXILIM EX-N1は、2012年に発売されたエントリークラスのデジカメだ。発売直後から、どこの家電量販店でも1万円以下で売っていた。8000円台での販売が普通だったと記憶している。僕もそのくらいの値段で買った。あまり売れなかった、というか出荷量はそれほど多くなかったのだろうか、自分以外に所有している人や使っている人を見たことがない。同時期に、ほぼ同じ基本スペックで機能を上乗せした上位機種「EX-N10」も販売されていた。こちらも1万円以下で売っていた。
 
 EX-N1は、ともかくポップなデザインのデジカメだ。色はブルー、ピンク、ホワイトの3種。僕が買ったのはホワイトだ。他に限定品で水玉模様などポップな柄モノも商品化されていた。掌に載るほどのサイズで角が取れた丸っこいデザインは、他に類を見ない。「トイデジ」ライクと言うのとも違い、外観と雰囲気では類似製品がない。コンデジ史上で記憶されるべき、特異なデザインである。重量も約120gと軽い。ジョイスティックを採用して操作の簡便化を図っているなど、明らかに「女性向け」「ギャル向け」を狙ったコンセプチュアルな製品だと思われる。
 
 エントリークラスとは言うものの、基本スペックは一般的な普及価格帯製品とほぼ同等だ。撮像素子は1610万画素の1/2.3型正方画素CCD、35mmフィルム換算で約26~130mm、F3.2(W)~F6.5(T)の光学5倍ズームを搭載する。手振れ補正機能はないが、前述したOptio LS465と同じくブレ軽減のための高感度機能を備えている。
 
 このEX-N1、撮影画像で見ると見掛けによらず悪くない。オート撮影で得られる画質は意外といい。ピントの正確さとシャープネスに多少の不満はあるが、発色は自然だ。撮れる画像には、カメラ本体の価格と外観から想定されるようなチープさはない。明るい日中など撮影条件が良ければ、オートで「まあまあきれいな写真」を簡単に撮ることができる。ただ夜景や明暗差の大きい被写体は、ちょっと厳しい。前述したOptio LS465と同じように、ダイナミックレンジが狭い。白トビや黒つぶれを補正する「ライティング機能」があるので、これを使えば明暗の差がある被写体はそこそこ見られるようになる。
 上位機種と同様のプレミアムオートが搭載されている。しかし、こちらの記事EX-Z2000のところで書いたように、プレミアムオートは記録時間のタイムラグがわずらわしいし、撮影条件が良ければ通常のオートで撮影した画像との画質の差はあまりない。別にプレミアムオートを常用する必要はないだろう。26種類のベストショットもあまり使う必要はないと思う。ともかくこのカメラは、目に着いたものをオートで適当に撮っていく…という使い方が似合っている。
 EX-N1、もし水玉模様のバージョンでも中古で見つけたら、持ち歩いてみると面白いかもしれない。かなり目立つし、トイデジよりはまともな画像が撮れるので、街中でスナップを撮って遊ぶと楽しそうだ。

街角スナップ
街角スナップ

昔のコンデジで遊ぶ (1) ~15年以上前のデジカメの使い途を探る…
昔のコンデジで遊ぶ (2) ~たまにはスマホではなくコンデジで撮ってみよう…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?