見出し画像

12歳長男の文化的目覚め

小学校6年生の長男が、ものすごく急成長をしている。

成長という言葉はきらいで、そこには「成長してしかるべき」という義務感がうっすらと張り付いているように感じるからだ。小さな子どもだった自分にとって束縛するいやな言葉だったのだが、大人になった今でもその呪縛が解けきれていない。子どもじみているかもしれないけれど。

長男の急成長、いや急激な変化は、映画「スパイダーバース」から始まった。主人公の黒人の13歳の男の子がある日、人をスパイダーマン化させる毒をもつクモに噛まれてスパイダーマンになって、、という話である。ほかのスパイダーマンのストーリーと同じ流れではあるのだが、「スパイダーバース」が特徴的なのは、主人公が黒人であるということと、実にアーティスティックでカッコいいアニメーションで描かれているという点だ。

スパイダーバースの主人公、マイルス・モラレスは天パで一見さえない男子なのだが、グラフィックや絵を描くのが好き。そしてナイキのスニーカーが好き。たぶん、このマイルスの趣味に、長男は超あこがれた。カッコいい、と思ったにちがいない。

「ナイキのスニーカー、欲しい。白と黒の。ダンクって種類で、通称パンダっていうんだけど」と、ネットで調べあげた情報を毎日のように話してくる。そして、日本人の人気ユーチューバーらが高額なスニーカーを買う動画を何度も何度も見ている。

もうひとつは音楽だ。マイルスは、ヘッドホンで好きな音楽に身を浸し、悦に入りながら絵を描いたりしている。その姿にも、長男は憧れた。

「エミネムってカッコいいよね。トラヴィススコットも、好き」と言い出した。音楽の話になると、音楽好きなわたしも黙ってはおられず、それはヒップホップだ、黒人がルーツで……と話す。話すぎてウザがられたりする。とりあえず、MVを見ようとわたしと子どもらでエミネムを見る。エミネムがナイキのスニーカーをはいている。「ほら、ほら!ナイキじゃん!」と長男が一時停止して興奮している。好きなものと好きなものが、リンクした最高の瞬間だ。そりゃそうだよ、そういう人たちはたいていナイキだよ、と一瞬思うけど、本当はどんな靴を履いていてもいいはずだ。でもやっぱりナイキなのだった。

ヒップホップとナイキ。その次に長男のこころをつかんだのは「キース・ヘリング」だった。そのあたりのカルチャーにずっぽりハマったことのある大人なら、この3つでだいたい長男の輪郭やなんかがイメージできてくるんじゃないだろうか。

ユニクロに買い物行ったとき、キースヘリングとのコラボUTが売っていて、それを見た彼は「なにこれ!めちゃカッコいいじゃん!」と目を輝かせる。「キースヘリングね、それはポップアートの巨匠で」と知る限りの情報を得意げに披露してやる。真冬なのに、大きめシルエットのメンズSサイズのTシャツをすぐにお買い上げ。

洋服が、子ども服だけでなく、メンズのSサイズも範疇に入ってきたのも、彼がファッションに目覚めたきっかけでもある。近所の「トレファク スタイル」という古着屋チェーンに連れて行ったところ、猛烈に興奮し、「来週もぜったい来る。ほかの友達は隣のブックオフでデュエマのカード買ってるときに、おれだけはトレファクに行く」と、いう。人や友達と自我の差を感じている。

こんな変化が、ごくごく短期間で起こってきた衝撃で、親として腰を抜かしそうになる。今はネットでなんでも情報を引き出せるから、進化が速すぎるのだ。「スパイダーバース」から「キースへリング」まで到達するのに、わずか1ヶ月足らずだった。その間エミネムも何曲もインプット完了させている。

子育てというけれど、文化的なものに関しては、これくらいの年齢になってくると親が享受することのほうが多く、ありがたい。ヒップホップだとわたしの時代ならビースティボーイズだったが、今はトラヴィスか。でも、息子よ。君の好きな映画「ガーディアンズ オブ ギャラクシー」にはめちゃくちゃかっこいいビースティの曲が使われているんだぞ。

こうして文化的なものを共有できるようになってきて、楽しすぎる。できかけていた「子離れ」ができなくなってきそうな気さえする。こうして「子育て」していたつもりが「子育ち」になり、「子依存」になっていくのか。おそろしいからこちらも「子離れ」を完了させないといけない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?