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存在してはいけない列車

気味の悪い夢を見た。

大勢の人が乗車した長距離列車が走行中に車両ごと消失した。
不可解な事件として徹底的な捜査が行われたにも関わらず、何の手がかりもない。
その後数年が経過して、乗客は失踪後死亡したものと見做され、合同慰霊祭なども開催されて、遺族は死去に伴う法手続きをすべて終えていた。

この事件が話題になることも少なくなり、当事者以外の皆から忘れ去られようとしていた頃、現場の近くを通った私は、消失したはずの列車を見た。

列車は軌道上で停車しており、死亡したはずの乗客は全員乗車したまま。
直前に何かの事故が発生して停車したから、と言われて運行再会を待っているような様子だ。

この列車を目撃した私は、その発見を喜び通報しようとするのではなくて、見てはならないものを見てしまった恐怖に囚われて足が竦み、立ち尽くしたままで、眼前にあるものの否定を始める。

この列車はここに存在してはいけない、列車の乗客はもう死亡している、自分の見ているものは幻覚に違いない、と。

ここで目が覚めたので、この夢がどういう結末を迎えたのかは分からない。

夢のなかでは、見たくないものが現れたときにはそれは無かったものとして念じれば良いだけだが、果たしてそれが正しい行為だったのか、目を背けずに受け止めて立ち向かうべきではなかったのかと、そんなことを考えてしまった。
(2023.5.12)

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