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しんぶんきしゃ②【創作文】

 1軒目。事件現場でインターホンを押す瞬間が何よりも嫌いだ。何よりも。  「何ですか」  60代ぐらいの女性が、かすれた声で出た。  「近くで起きた事件について取材してるんですけど、お話し伺えないですか?」  「何も知らないんで。すみません」  ここで引き下がってはいけない。  「ご近所付き合いってどんな感じでしたか?」  「まあゴミ出しの時にあいさつする程度ですけど」  質問すると意外に答えてもらえる。  「どんな雰囲気の方だったとか」  「ん-、たぶん普通の方でしたよ」

    • しんぶんきしゃⅠ【創作文】

       「そんな格好の人が新聞記者な訳ないでしょ」  腰のゴムが伸びきったジャージに、ロックバンドのライブTシャツ。「NINNAH」。確か界隈では有名なパンクロックのバンドだったような気がする。目の前で眉をひそめている女性はパンクというより昭和歌謡が似合いそうだった。  「そんなに、ですかね…」  6年間の新聞記者人生の中で、ここまではっきりと言われたのは初めてだった。確かに、記者といえばスーツ姿で髪もセットし、熱心にメモを取っているイメージがあるかも知れない。ただ、全員がそんな訳

      • 「し」について 【思考文】

         「し」について考えてしまう。    目の前が真っ黒になる。重たく、暗く、深い。振り払おうとして、他のことを考えても、しばらくはその思考に飲み込まれてしまう。風呂に入っている時やドラマを見ている時、夜寝る前にふとそんな瞬間が訪れる。忙しくしていると、そんな隙がないのか、考えることはない。少し時間があるとき、心に隙間ができ、そこに入り込んでいるのだろう。    人はいつか死ぬ。全く不思議ではない。幼い頃には気にすることもなかった。それが始まったのは、中学生ぐらいのころだった気が

      しんぶんきしゃ②【創作文】