見出し画像

8年ぶりにバッシュ買ったっちゃ

バッシュ
バスケットボールをする時に履く靴のこと。バスケットシューズの略。バスケットマンの血と汗と涙と青春の結晶。
(例)あの野犬が咥えてるの俺のバッシュじゃねえ?

「バッシュ買った方がええんちゃう?」
草バスケをしていると、先ほどから頻繁に危ない滑り方をしている僕を見て20代後半の会社員の人が心配そうに言った。元々埃っぽいコートではあるが、たしかに最近やたらよく滑る。
数えてみたら買ってから8年が経っていた。引退間際に買ったので毎日履いていたのはたったの3ヶ月程だが、履き口は破れ、靴底は擦り減り、全体的にくたっとして「もう無理っす」と言いたげな雰囲気を醸し出している。

買うか、バッシュ。

先代


レブロン・ジェームズというNBA選手がいる。
デカい・速い・強いの三拍子が揃ったオールラウンダーで、NBAオールスターに20年連続で選出されているモンスターだ。
議論を呼ぶつもりはないが、レブロンは史上最高のバスケットボール選手だ。人によってそれはジョーダンだったりコービーだったりするのかもしれないが、僕がNBAを見始めた頃に一番凄かったのがレブロンだったから、もうこれはどうしようもないのだ。
前のバッシュがレブロンのモデルだったので、次もレブロンを履きたいと思っていた。しかし、最新作のレブロン21(LEBRON XXI)は定価3万円のモンスターバッシュであり、僕がバスケでバッシュ代を回収できるBリーガーでもない限り手を出すのは愚かに思われた。


ところが、たまたまネットでイカれたセールが開催されており、レブロン21もギリギリ手が出せるくらいまで値下げされていた。
僕はすぐさま29.0cmを1足カートにぶち込み、住所氏名カード情報を入力して購入ボタンを押した。その一連の犯行の最中、自分が普段「理性」と呼んでいる機能を意図的に鈍化させていた自覚があった。「買ったっちゃ…」とひとりごちたのは、イカれたお店から注文確認メールが届いた後だった。
後悔はしていない。しかし、いささか反省はしている。

数日後、待ちに待ったバッシュが届いた。
写真で見るよりカッコいいそいつの履き口に顔を突っ込み大きく息を吸うと、8年ぶりの新しいバッシュの匂いで完全にキマることができた。この時点でかすかに残っていた反省も完全に消え去った。こうなっちまった俺はもうただのバスケ少年(25歳)だ。

先代は今は亡きバスケショップの隅っこで叩き売りされていた。いわゆる「サイズが合えばおトク」というやつだったが、アホだった僕は若干小さかった(28.5cm)のに買った。そうまでしてレブロンが履きたかったのだ。
そんな歪な出会い方だったが、僕は先代が好きだった。カッコよかったし、誰とも被らなかったし、多少小さくても気分がアガるので気にならなかった。
8年間ありがとう。遊びでやるバスケのおもしろさを教えてくれたのはあなたです。これからは筋トレに付き合ってください。

後継


図ったわけではないが、たまたまバッシュが届いた日に草バスケがあった。僥倖というやつだ。
その日の晩、体育館を貸してくれている地元の中学校まで自転車を転がし、一礼してから体育館に入る。もう何年も続けているルーティンは、一緒にバスケをしてくれる人、場所、時間への感謝と、「お願いですから怪我しませんように、マジで」の気持ちを確かめるための大事な儀式である。
よくストレッチしてから靴紐を丁寧に縛り上げる。度重なる捻挫で靭帯がやや伸びてしまったぐらぐらの足首を気遣い、少し動いては感触を確かめて微調整していく。

「バッシュ買ったん?」
先日心配してくれた人が気づいてバッシュを踏んでくれた。これは新しいバッシュが馴染むまでの間に怪我しませんようにというおまじないだ。
いい年して部活みたいなことをするのは、少し恥ずかしい反面とても楽しい。だから、新しいバッシュを踏んでくれる人がいるのがすごく嬉しかった。

自分でいうのも大変アレだが、その日はとてもよく動けた。新しいバッシュの性能が素晴らしいというのもあるだろうが、ぶっちゃけほとんど気持ちの問題だと思う。
だとしても構わない。だってめちゃくちゃ楽しかったもん。

僕はバスケを10歳から始めた。運良く40歳までバスケを続けられたとしたら、今僕はバスケ人生の丁度真ん中に立っていることになる。
バスケは生涯スポーツではない。人間の膝軟骨は有限であり、明日のことを考えずに走り回れるのなんてせいぜいあと10年くらいだろう。つまり、今が一番バスケが楽しい時なのである。

今のうちにたくさんしておこう。
よろしく、レブロン。

かっくいい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?