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医療従事者だから、見送りが特別ということはありません。

 老親に対して考えを巡らし、行動をしている中で、よく言われたのは、「あなたは医療従事者だから、ご家族は恵まれているわね。」「良い医療者に出会えて、良い病院に入れて、高度な医療が受けられるのよね。うらやましい。」「何かあったら、家でお嬢さんという医療者が面倒を見てくれて、いいわね。」でした。

 どうでしょうか。実態は全く違っていて、医療に関わる仕事をしていると、とても忙しいものですから、ほったらかしも多いのです。確かに少し早く異変を見つけたり、情報を探し出したりすることはあるのですが、べったりくっついていることはありません。もし、その必要があったら、何か他の医療サービスを探してこないといけません。そして、医療者の世界に長くいると、医師だから高い収入がある、だとか、外側からの勝手なイメージが横行していることに直面することもよくありました。ドクターミーティングでは、ヨレヨレの人もたくさんいましたし、目の前の患者さんが精一杯で、自分の親の面倒を見ている暇もない人もよくいました。特に、新型コロナウイルス感染症が襲来し、医療従事者の多くは、限られた家族以外との食事はできなくなりました。高齢の親に会いにいくのはまず不可能です。オンラインで会うという方法もありますが、この方法は、高齢者にとってはちょっとハードルが高いようです。ワクチンの接種が進めば、ある程度解決する問題のようですが、それでも感染を広げるリスクがあり、思慮のある行動が求められます。医療者として、いろんな人を守らなければなりません。

 高度な医療こそが親孝行だと思って、医療機関にやってくる人たちの現実もよく見ています。ドクターショッピングもよく見ました。もちろん、質の悪い医療を嗅ぎ分ける必要はあると思いますが、1人高級な個室で寂しそうな患者さんもありました。本当はどう過ごしたかったのでしょうか。それを考えることがとても大切だと思います。

 医療従事者である人が書く、親の介護/見送りエッセーなんて現実的ではない、特別なお話、と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。確かに、親の診察の付き添いで、主治医と色々と話をするにあたり、医学用語が出てきても私は問題がありませんが、それを医療者ではない親に説明するのはとても大変です。私が患者さんとそのご家族へ説明するのとそれほど変わりありません。このエッセーを書くにあたり、どんな人にとってもわかりやすい言葉、表現を選ぶことは、普段の業務でも心がけていることと変わりありません。だから、このエッセーは特別なものではない、と思います。

次のエッセーからは、土地の言葉が少し混ざってきます。そして、いろんなドタバタも登場します。肩のチカラを抜いて、書き綴って行こうと思います。

<写真は、自宅から医療施設まで通う電車の中から。この風景に魅せられて、父はこの辺りに家を買おうと思ったのでした。そして、釣りが楽しめるようにと。千鳥が好みそうなところですね。瀬戸内海の端っこ、そんなイメージが湧いてきます。アーキペラーゴ(多島美)とまでは言いませんが、淡路島、そして小島がいくつか、を感じ取ることができる場所です。>


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