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第63回短歌研究新人賞について個人的に振り返る

コロナが最初に流行ったとき、『コロナ詠』というものも自ずと流行るだろうと思った。

僕は敢えて、その年の短歌研究新人賞に何事もない虚構の世界を詠み込んだ連作『Akichi』を送ることにした。短歌研究へは二回目の挑戦だった。完全に受賞する予感がした。

結果。最終選考を通過するも受賞に至らず、上手くコロナ禍を詠んだ平出さんが受賞した。その時に僕の中で「何か」がマジで終わり、その「何か」に決定的に敗北した。

思えば最初から自分は、「現実」と仲良くできず、むしろ喧嘩しようとする歌人だった。僕にとって短歌は、現実と最も肉薄しやすい装置だったから、常に逆手に取ってきた。コロナウイルスを木田昨年なりのやり方で消し去った無菌室を『Akichi』と名づけ、そこに誰かを招き入れたかった。なのに誰も来なかった。

それが、僕の第63回短歌研究新人賞だった。
今でも僕は空き地にいる。



ざわめいたどこかがわたしいつだって花の溢れるところが空き地(木田昨年)

『短歌研究』2020年9月号より

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