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林道にて

祖父から聞いた話。

2011年3月11日、東日本大震災が発生した。私の祖父が住む町も、東日本大震災で甚大な被害を受けた地域だった。

震災から1ヶ月ほど経ったある日、祖父は友人のSさんと2人で、隣町に住む友人のNさんの家を訪れていた。
隣町といっても、Nさんが住んでいるのは車で40分はかかる場所で、いつも通る道は震災による津波で寸断されており、B山にある林道を通ってNさんの家を訪れていた。
その帰りの道中の出来事。

祖父が運転し、林道を走っていると、霧が立ち込めてきて10mくらいしか視界がきかなくなった。
ライトを点灯し、速度を落として車を走らせていると、霧の中、林道を歩いている人たちを見かけた。
5,6人はいたらしいが、みな俯きながら歩いていたため、顔はよく見えなかったそうだ。

当時は津波で家を失った人たちがあちこちに避難しており、祖父が林道を歩く人たちを見かけた場所の近くには建物(あとで倉庫だとわかったが、非常にしっかりした造りで人家に見えたとのこと。)があったため、その建物に身を寄せている人たちだろうと思い、薄気味悪さを感じながらも、その場を通り過ぎた。

それから数日後、祖父は、祖父が営む飲食店の常連さんから、震災で亡くなった人たちのあまりの多さに火葬が追いつかず、一旦土葬して、後に掘り返して火葬する仮埋葬が、B山で行われていることを聞いた。

その仮埋葬が行われた場所が、ちょうど祖父が俯きながら歩く人たちと出会った場所のすぐそばだったという。

「今思い返しても鳥肌がたつけど、なんだか哀しそうに見えた。」と、祖父は話してくれた。

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