見出し画像

月山と母方本家の当主

私の母方の家系は古い家柄で、両親が結婚する際も、本家の承認なしには結婚できなかったという。

母の実家が本家から分家したのは母の祖父の代だそうだが、母が生まれるまでは生まれた子の名前も本家で決める習わしだったそうだ。

両親が結婚する頃の母方本家の当主は、集落の出羽三山講の代表を務めており、山伏だった祖父と意気投合し、この当主が積極的に両家の仲を取り持ってくれたおかげで、両親の結婚が円滑に進んだという話を祖父が教えてくれた。

これは、母方本家の当主が亡くなった時の話。
ここでは当主をSさんとする。

Sさんと祖父は、いずれ2人で月山をお参りしようと話していたが、お参りに行く矢先、Sさんが重い病に倒れ入院してしまった。

祖父は、Sさんの回復を願い、月山へお参りした。
その道中のこと。

祖父が月山を登っている最中、後ろからスタッスタッと誰かが登ってくる足音が聞こえてきた。

祖父は追い越されまいとペースを上げるが、足音はどんどん近づいてくる。

息が上がり、とうとう観念した祖父は、ちょうど足音が祖父を越していくあたりで、「こんにちは」と声をかけたが、足音の主は見当たらない。

あれっと思い、祖父が周囲を見渡すと、先程まで誰もいなかった前方に人が立っており、じっとこちらを見ている。

顔が識別できないくらいの距離だったが、その様子は、祖父が追いつくのを待っているようだったという。

おかしいなと首を傾げつつ歩き始めると、前方の人も歩き始め、一向に距離が縮まらず、気づくと前方の人の姿が見えなくなっていた。

その後、祖父が無事山頂に着いた時、家族から連絡があり、Sさんが先程亡くなったことを知らされた。
あれはSさんだったのか、と思った祖父は、月山山頂でSさんのための塔婆をもらい、帰路に着いた。

私が生まれる前の話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?