うたとえ2023『飛行機雲の試論』及川恒平

うたとえ2023『飛行機雲の試論』及川恒平

演奏/ペーパーランド 
及川恒平(歌) 本田修二(ギター) 幸田実(ベース)
詩/山田航 曲/及川恒平 (撮影1985〜2023・作画2023)
録音/2023年1-2月

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飛行機雲の試論 山田航

飛行機雲がひとすじ
青く澄んだ空に伸びてゆく

飛行機雲は
入道雲やひつじ雲やいわし雲とは違う
飛行機というものがつくられるようになってから
この世にあらわれることになった雲だ
飛行機雲を
はじめてうつくしい と称賛したのは
いったいどんな人だっただろうか
その人が空を見上げる姿は
想像のなかでいつも逆光を浴びている

ほろびゆくものを追憶するのはたやすい
飾り気のないものを褒め称えるのは簡単だ
この世に新しく生まれたものを
この世に新しくつくられたものを
うつくしい と感じ
うつくしい と口にできる
その確かな強さと難しさを
わたしは何度でも繰り返し思うだろう
期せずしてこの世界を訪れることになった
新しい客人と出会うたびに

飛行機雲がひとすじ
青く澄んだ空に伸びてゆく
わたしたちのこころを
試すかのように

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札幌の中森敏夫さんが亡くなられて少し経つ。

あの地の文化を形作るもっとも先鋭な良心に位置する方だった。

良薬口に苦しで、彼を敬遠する人が多かった。

心にやましいものを抱えているならなおさらそれも当然だろう。

彼が聖人君子だったと言っているのではない。

それどころかはらはらするほどに人間的だった。

どきどきするほどに破綻しているところもあった。

それでも彼は、
地方文化が中央集権化の構造に組み込まれていく現実に、
真っ向から立ち向かう数少ないおひとりだった。

私の十数年ほどの音楽上での札幌との関わりは、

大部分が中森敏夫を通してのものだった。



かつて円山にあった中森花器店から始まる私のライブコンサートは、

テンポラリースペースへと続き、二十回をこえただろうか。

歌人糸田ともよさんとのコラボCDアルバム「地下書店」も、

彼の力を借りなければ成立しなかった。


二人で札幌を流れる水のみなもとを丸山にもとめて歩いたこと。

催し物のあと友人たちをまじえて酒を酌み交わしたこと。

それよりもなによりも、
花器店でも、その後のテンポラリースペースでも、

お茶を飲みながらすごしたおだやかなひとときは貴重なものだった。



そんな時間をともにした歌人山田航さんとのコラボ作品
「飛行機雲の試論」は、

もちろん中森さんの力添えなくしては完成しなかった。

中森さんに捧げるというよりこの場で一度お返して、
改めて歌い出したいと思う。


激動の日々を歩まれた中森敏夫さんが、

今はやすらかな眠りにつかれることを祈るばかりだ。
(2023年7月記)

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