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2020年になったって、HIKAKINをバカにする人は変わらない

『踊る!さんま御殿!!』『逃走中』『ダウンタウンなう』…

YouTuberのHIKAKINが出演してきたテレビ番組は、パッと思いつくだけでも歴々の人気番組だ。2019年のHIKAKINは、これ以外にも多くの番組に出演していた。『ヒルナンデス』の「小中高生が選ぶ令和元年に活躍した有名人ランキング」では米津玄師を抑えて3位にランクインした。ここでわざわざ語るのもバカらしいくらい、子供たちのスーパースターだ。

マスメディアへの露出がこれだけ増えた。彼が始めた令和時代は、YouTuber全員にとっても飛躍の年になったのは間違いないだろう。もはや世間でのYouTuberの存在は「あたらしいもの」「珍しいもの」ではなく、当たり前になってきたのでは……。………とも、言い切れないのが現状だ。

YouTubeやInstagramやTwitterしか見ていないと私たちはついつい勘違いしてしまうが、あたらしいメディアやコンテンツに対する価値観に、世代間/コミュニティ間ギャップはたしかに存在する。そうした社会の断絶を露呈するのもまた、冒頭に挙げたようなテレビの人気番組だ。

12月13日に放送された『ダウンタウンなう』のスペシャルコーナー「オンナたちの大忘年会」では、久代アナがYouTuber「北の打ち師達」のはるくんと熱愛報道されたことが話題にされていた。

出演者の佐藤仁美さんは「YouTuberは(浮気)絶対してるって!」「だってYouTuberだよ!」と発言。久代アナやはるくんと同世代であるはずのゆきぽよも「騙されてますよ」「YouTuberにちゃんとしてる人なんています?」と発言して炎上した。

「浮気しているか」「騙されているか」「ちゃんとしているかどうか」について意見を述べる気はないが※、「YouTuberだから」浮気をしている、騙されている、ちゃんとしていない、という旨の発言は、職業差別であることは明らかだ。問題は、彼女たちや、この発言を目立つように編集し放映したテレビ局員が、その発言を差別だと認識していないこと。もしくは、差別だと認識していても、民放キー局のテレビ番組で扱われても問題ない発言だと考えているところにある。

※個人的には「いやはるくんちゃんとしてるし!いい子だから浮気とか絶対しないだろうし!騙されてるとかなんなん!?は!?何を観て言ってんの!?」と思っているけれど、ここでは論点がずれるので言わない。

彼ら、彼女らが「YouTuberだからちゃんとしていない」を差別発言ととらえていない場合は、そのことが示唆するのは「毎日コンテンツを創造し、動画に挟む広告で視聴数に応じて広告収入を得ているYouTuberはれっきとした職業だ」と、今、まだ、わざわざ説明しなければならない、という現状だ。

彼ら、彼女らが「YouTuberだからちゃんとしていない」を差別発言だとわかったうえで、それを放映しても問題ないとしているならば、わたしたちは「YouTuberという職業に就く人はこんな風に仕事をがんばっていて、こんな風に人に笑顔を届けていて、わたしたちはこんな風に救われているのだ」と、HIKAKINが出演している『プロフェッショナル 仕事の流儀』なんかを観せながらとうとうと語らなければならない。令和元年の、この時代においても。

ここで残念なお知らせだが、2019年にYouTuberをバカにしていた人は、2020年も必ずバカにする。そこにはたしかなる、社会の断絶があるからだ。YouTuberやクリエイター、インフルエンサーが職業として成り立っていて、彼らのような存在に励まされている人がいることが知っている人たちと、そうではない人たちがいる。

オリンピックイヤーだからといって、令和2年だからといって、社会の空気が一気に変わるわけではない。社会の断絶が一気になくなるわけではないのだ。空気の流れを感じ取れない年長者やその思想を受け継いだ若者が、突然感じられるようになるわけではない。


じゃあ、私たちができることって、何なんだろうか。


先日、ドラマ『GOOD LUCK!!』(TBS系、2003年)を久しぶりに観た。16年経っても色あせないキムタクのキムタク加減にあてられながらも、それよりも印象的だったのは、2019年のドラマではあまり聞くことのなさそうなセリフの数々だった。

新人CAが独身のベテランCAに向かって「私、普通に結婚したいので○○先輩のようにはなれないです」。男性の先輩整備士が、怒っている女性の後輩整備士に「おまえ、顔は結構可愛いのにな」。

”働く独身女性をバカにしている”、”セクハラを助長するようなセリフ”。今、上記のようなセリフがもしドラマの中で使われたら、SNSではこんなようなコメントが多発するかもしれない。それを未然に防ぐために、肌感覚ではドラマでの言葉遣いなども少しずつマイルドになっているように感じる。

たとえ出発地点が「炎上対策」だとしても、誰かが傷つくことのないコンテンツの制作に繋がっているのであれば、それは正しい変化だ。

時代は少しずつ変わっている。


今年、自らが立ち上げた事務所の新人歌手を使い、セクハラ・パワハラをでっち上げて「炎上商法だ」とネタにしたDJ社長。数多くの批判を受けた数か月後、ハフポスト日本版でのインタビューに応じていた。

白河:2017年からの「#MeToo運動」で世の中の潮目が変わったんですよ。
DJ社長:ミーツー? それ、なんですか?
白河:これはセカンドレイプと言うんだけど、「枕営業じゃん」「女もそれでいい思いしたんでしょ」なんて言われる。
DJ社長:セカンドレイプ?

「#MeToo」も、「セカンドレイプ」も。彼は知らなかったのだ。差別、ハラスメントに苦しむ人や、その苦しみとたたかう人たちがいることを、知らなった。

DJ社長:あとは、今日、お話聞いて、まだまだ、僕は本当の意味で、セカンドレイプって言うんですか? そういう経験を持っている人たちのことは、わかってなかったです。過去とか思い出して、ドン引きして辛い気持ちにさせてしまったんですよね。僕のふざけた企画で。

もちろん、「無知だったから、彼のしたことが赦される」かというと、断じてそうではない。そうではないとしても、知らなかったことを知ることで、人は、そして彼らが構成する時代は、変わっていく。そうした事実が、ひとつの希望としてここに提示されたのだ。


誰かが怒ることを気にして、誰かを傷つけるコンテンツが一つずつ減っていく。誰かが怒って声をあげることで、自分の発信したことで誰かが傷つくことを知らなかった人が、一つずつ知っていく。社会の断絶が一気になくなるわけではない。時代の潮流が一気に変わるわけではない、そんな中で、それでも、いまを理想的な時代に近づけていくために。

私たちができることは、ただ語り続けること。だと思う。


2020年とは、令和2年とは、本来どういう時代であるべきなのか。
どういう潮流であるべきなのか。
現状は、そこからいかほどのギャップがあるのか。
何がそのギャップを生み出しているのか。

語り続けなければならない。


冒頭にYouTuber差別の話を置いたが、これは「世代間ギャップ」「コミュニティ間ギャップ」の象徴であり、私たちが語るべきなのは何もYouTuberの話だけではない。自分たちが好きなことは何か。受け入れられない考えは何か。何を楽しんでいて、何に元気をもらっているのか。理解せずに何かを非難している人がいたら、きちんと声に出して語ろう。


一方で、気をつけなければならないことがある。盲目的に「おじさん」「おばさん」を批判するだけではいけない。中年より上の世代の方で時代の潮流を読んでいる方もいる、読んでいない方もいる。私たちと同じ世代でも、肩書きや属性で人を判断して非難してしまう人もいれば、そうでない人もいる。

私たち自身が属性で判断することをやめ、一人一人を見つめ、そして、もし、時代の潮流を読めていない人がいたら、おかしな発言をしている人がいたら、「おかしい!」と怒るだけではなく、なぜそれがいけないのかをしっかり語りたい。それが差別につながるからなのか、人を傷つけるからなのか、自分が損をするからなのか……。

きっと、怒ったり、非難したりするだけではなく、なぜ、どうして、自分はどう思うのかを一言ずつ語っていけば、時代はゆっくりでも、スロースピードでも、変わっていくのだ。2003年のドラマが、炎上したYouTuberが、それを教えてくれる。


発信できる時代に発信するということは、盲目的に何かを敵とみなして非難することではない。わたしたちの愛を、思想を、理想の社会を、語っていくことだと思う。


オリンピックイヤーだから、令和だからと言って、日本はすぐには変わらない。職業で、属性で、人をバカにする人は、2020年もバカにする。
カメのスピードでもいいから、そんな日本を、これまでみたいに、変えていくために。


正しくないことに腹をたてたとき、私たちは、正当に、口を開いて、語り続けよう。

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