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輪郭線はひとつの言語

絵を描くといっても、

さまざまな表現技法がある。

感じるままに筆を走らせ

思うがままに表現するものや、

空想あるいは夢の中にしか存在しない、

視覚的イメージの表現もある。

また、現実のものを表現するのではなく、

抽象的な図解を描いたものや、

建築家や製図工が描くような

設計図や断面図の類もそれに含まれる。

もちろん、

目の前にあるものを表現しようと

直接観察しながら描いたものが

一般的に言う「絵」なのであるが、

これは、そこにあるものを注意深く観察して

対象の本質的な姿を見出そうと試みることで

様々な発見や気付きが見出され、

創造的な作品を制作する際に

イメージの源泉になると思うので

「絵」を制作する上で、直接観察することを

大事にしたいと私は思っている。

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人類最古の絵として知られているものは、

先史時代に描かれた洞窟の壁画である。

当時生きていた動物たちを描いた

これらの絵は、現代の私たちが見ても

十分に美しく正確な描写をしている。

そこに描かれている人類の生存は、

動物たちの狩に依存しており、

獲物を素早く正確に見分ける

必要があったと考えられるので、

洞窟の壁画に描かれているように

輪郭による「絵」で特徴をはっきりと

描き表すことが重要であったのだ。

そして、それは人類のみが、

その記述を読むことができるのであり、

例えば、犬や猫にしても、

描かれている「絵」から

他の動物や自分たちを

素直に認識できるとは思えないのだ。

言い変えれば、犬や猫からしてみたら、

そこに生き物が描かれているとは

全く認識できないわけで、

ただ壁というものがあるだけなのであろう。

しかし、人類には立体的な対象物の輪郭を、

線によって表現し

認識することができるだけの

知的な能力がこの時から

すでに備わっていたことがわかる。

なぜなら、「輪郭線」は対象物の周囲に

現実に存在するものでなく、

明暗、色彩、立体感、動き

といった要素が抽象化されて、

対象の輪郭を示しているからだ。

つまり「輪郭線」で描かれる絵は、

ひとつの概念であり、

ひとつの翻訳であり、

視覚的な世界を表現するために、

発明されたひとつの言語である

とも言えるのではないかと思うのである。

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作品:「うし」金箔・テンペラ/厚紙
きはらごう

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